【過去編】永遠の夏⑭

結城と合流し、この日も体育館で練習を始める。


結城は、教える内容を事前にメモしてきたらしく、時折、「えーと」とか言いながらメモを見て教えてくれた。


「今日は、クラブステップを教えます。クラブステップはダンスの基本のステップです。」


おぉ、なんか先生感出てるな、と思った。


もしかして、教える練習でもしてきたのか。


そう思うと、何かニヤついてしまった。


「これがクラブステップです」


結城は実際にそのステップをやって見せてくれた。


素直にカッコイイと思った。


いやカッコカワイイって感じか?


ジャニーズとかが踊っているようなイメージだ。


「結城、かっこいいじゃん」


俺が素直に褒めると、結城はわかりやすく照れていた。


せっかく教え方を考えてきてくれたのだから、俺は質問してみることにした。


教える側としては、質問された方が嬉しいものだからな。


「結城、クラブステップのクラブってどういう意味なんだ?パーティー好きがよく行くクラブか?」


「あ、そのクラブではないです。クラブステップのクラブはカニさんです。足を内股にしたりガニ股にしたりするのが、カニさんっぽいからだそうですよ」


カニさん…。


カニに「さん」を付けた…。


「あ、あの、カニさんは英語だとクラブなので…」


「あ、いや、わかるわかる」


俺が何も言わなかったのを、説明が不足していたのと勘違いしたようで、結城が補足したが、俺が気になったのはそこじゃなくて、


「いやなんか、ぷっ、くく、わりぃ、カニに「さん」を付けたのが可愛すぎてさ」


そう言うと、案の定、結城の頬がみるみる赤く染まっていく。


「べっ、別にいいじゃないですか…!」


結城は薄い唇を尖らせながら言った。


なにその可愛すぎる顔。


無意識でやってんのか?


「結城、お前、その顔可愛すぎだからな。」


結城の顔がますます赤くなる。


「か、か、可愛くなんてないもん…!」


今度は膨れたように言って、俺から目を逸らした。


しかもちょっと目潤ませてんじゃん。


これ、天然か?


破壊力ありすぎだろ。


結局、ダンスの練習より、雑談してる時間の方が長かったかもしれない。


結城は漫画が好きらしい。


それもかなり詳しいようで、俺の世代に流行った漫画も結構知っていたが、最近の漫画を俺は知らなかったので、ジェネレーションギャップを感じてしまった。


楽しい時間というのは、本当にあっという間だ。


もしかしたら結城も同じように思っていてくれているのだろうか。


「あの、先生…」


帰りの車内、助手席から結城が声をかけてきた。


「ん?どうした?」


「この間くれたピーナッツバターのパン、すごくおいしかったです」


「お、そうか。よかった!今日も買えばよかったな」


「あの、僕、お礼にクッキー持ってきたんです」


結城は、鞄から小さな袋を取り出した。


もしかして…


手作りか!?

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