【過去編】永遠の夏④

高校生活は楽しかった。


でも、一方で、寂しさも感じるようにもなった。


それは、友達との会話。


「うちのねーちゃんが○○でさ」とか「親がうるせーからそろそろ帰るわ」とか、家族の話題になったとき、僕はどうしようもなく寂しさを感じてしまう。


僕には、家族と呼べる存在はいない。


友達の何気ない会話によって、自分はひとりぼっちなんだと言う事を再認識させられる。


彼らと一緒にいることで、心の中の寂しさは、次第に増していった。


これ以上、孤独を感じたくなかった僕は、いつしか、学校に行く回数が減っていった。


22時頃、サキヤからラインが来た。

   

「踊るけどくる?いつものとこ」


今日はバイトもなかったので行くと返事をし、身支度をした。


サキヤは、学校の友達じゃない。


いわゆるストリート仲間だ。


サキヤ達と出会ったのは、学校に行く回数が減り始めた頃。


僕は、夜に家で一人でいるのが嫌だった。


一人でいると嫌な事を思い出してしちゃうから…。


その結果、夜な夜な街を出歩く事が多くなった。


宛もなくただふらふらと。


そんな僕を何度か見かけたんだと思う。


ある日、夜の街をふらつく僕に、サキヤが声をかけてくれた。


それから、夜はサキヤ達と一緒にいることが多くなった。


サキヤを含めた4~5人くらいのメンバーは、自分達はストリート仲間だと言った。


学校の繋がりでもバイトの繋がりでもない、ストリートで知り合った仲間。


サキヤ達は、夜な夜な、ショッピングモールの駐車場でダンスの練習をしていた。


そこが彼らの溜まり場になっていた。


僕はダンスなんてやったことがなかったけど、彼らが教えてくれた。


えっ、ダンス?って最初は思ったけど、やってみたら楽しかった。


ヒップホップの音楽にあわせて、夢中になって朝方まで踊っていることもある。


踊っている間は、嫌な事を忘れられる。




僕はこの日も彼らの待つ場所に向かった。


「よぉ、空」


サキヤが拳を僕に向け、それに対して僕も拳をコツンとあてる。


それが僕らの挨拶だった。


サキヤは背が高く、髪をドレッドにしている。


見た目は怖そうだけど、すごく優しい。


他のみんなも同じ感じ。


年はみんな17~19歳くらい。


高校1年生の僕が一番年下だった。


僕らの共通点は、親がいない事。


みんな、親元から離れて暮らしている。


だからかもしれない。


とても居心地がよかった。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽



「最近、学校行ってないんだ」


一時間位踊り続け、かいた汗をタオルで拭いながら僕は言った。


「全く行ってないのか?」


サキヤが聞いた。


「んー、行ったり行かなかったりって感じ」


僕がそう答えると、まわりの仲間達が「そうだ、学校なんて行く必要ねーよ」と肩を組みながら言ってくれた。


でもサキヤだけは違った。


「なぁ、空。無理して行く必要はないと俺も思う。でも、お前の親戚が学費を払ってくれてる訳だろ。お前が学校に行かないって事は、その人達を裏切ることにもなっちまうんじゃねぇの?」


サキヤの口調は優しく諭すようだった。


サキヤに言われてハッとした。


確かに、その通りだと思う。


僕を救ってくれた上に、学費まで負担してくれている親戚の人達にどんな顔をすればいいんだろう。


「ま、考えるのはまた今度にして、踊ろうぜ」


僕が黙り込んでしまったのを気にして、サキヤはハンドウェーブをしながら僕を誘った。


2歳年上のサキヤは頼りになる存在だった。


お兄ちゃんというのは、もしかしたら、こういう感じなのかもしれないと僕は思った。

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