第9話 共鳴
私と獅狼はその後も、変わらず二人で過ごしていた。
たまに絢太君も交えながら。
天神さんに一日中居ることもあれば、朝と夕方の時も。
私達は獅狼の修行の時間や見回りの時間以外は、一緒に過ごす事が多かった。
私は三人の時に、最近よくある現象について聞いてみた。
「最近、人でない者がみえるんだけど。何故急に見えるようになったのかなぁ?
やっぱり関係してるの?」
絢太君は「君たちは共鳴しているんだよ。陽葵ちゃんは今まで見えなかった者が見え。獅狼は行動範囲が拡大し、境内から出られるようになった。
出られると言っても君を通してだから、範囲としてはそう広くはないけど。」
獅狼は心配そうな顔で「前回以外でも見えていたの。」
「ごめん、黙っていて。あまり心配かけるのも嫌だったから。
でも、最近気配を感じたり、見えたりして、少し不安になって。」
「陽葵ちゃんに残る獅狼の気配で、襲ってくる者は少ないとは思うけど。
どうする?獅狼、何か持たすか?」
獅狼は頷くと、剪定された御神木の枝の中から丁寧に1本を選んでを拾った。
そして私達に背を向け、何かを念じながら彫っていった。
しばらくして、
「これをいつも持ち歩いてくれ、少しはお守りになる。
俺がすぐに飛んで行けないとき、時間稼ぎにはなるはずだ。」
そう言って、小さいリンゴの木彫りをくれた。
「俺の気を練って込めた。リンゴでなくてもよかったんだが、彫りやすかったから。」少し照れているように見えた。
私は嬉しくて「ありがとう」と言いながら、2つ目のプレゼントのリンゴを大事にポケットにしまった。
「陽葵ちゃん正直言うと、僕は君達の関係がこれ以上縮まる事については、反対だ。最初に言ったろ、君たちの関係はどうすることも出来ない。
それは陽葵ちゃんの事を考えても、獅狼の事を考えても、良い影響はないと思うから。
獅狼が君に特別な想いを持つことは、いつか獅狼自身の判断を迷わす。
そして、人と人でない者が距離感を誤ると、弱者である人に危害が及ぶ可能性がある。それは、陽葵ちゃん自身にもいつか危険が迫るということだ。
二人とも冷静に考えることだ。」
そう言って去っていった。
残された私達は心に小さな棘が刺さって、ずっと抜けないようだ。
石段に寄り添って座った。どちらも言葉を発する事ができず、でも離れがたく。
時が過ぎゆく空を唯々眺めていた。逢魔が時が近づいてきた帰らなければならない。
長い石段を下りながら、恋人でもない、先の約束もない関係について考えていた。
でも、とても愛しい存在である彼と離れる事もできない。
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