第2話 童貞クライシス



 ― アマイア暦1330年桜の月4月6日 夜 ―

       <大都市ネゴル 診療所>


なにもない真っ白な空間に一体どれくらいただよっていただろうか?


自分の意識が突然、浮上するのを感じた。




「…ンくん?」




どこかで声が聞こえる。


その声は自分の知っている声の気がしたが、どこであったか。




「…ねぇ、ユージンくん?ちょっと…」




ぼんやりとした音は突然、チューニングの合った人の声としてユージンの鼓膜を刺激する。


…女性の声だ。


しかもその女性の声はなんと自分の身体のすぐ下から聞こえた。


「…………」


ユージンはぼんやりとした顔で自分の顔を心配そうに見つめる女性を見つめる。


ショートカットの茶色の髪のトントゥの女性だ。


少しつり上がった大きな目が心配そうにこちらを見ていた。


彼女は右手をユージンの左頬ひだりほおにそっと当てると「大丈夫?」と優しい声で尋ねる。


「またあのトラウマが…?」


小さい右手は愛おしそうにほおい、ユージンの左瞼ひだりまぶたの上をでる。


そのまぶたの下にはエドヴァルト青フードの男えぐられた左目の代わりに金色の義眼が収まっていた。


「…」


ユージンはゆっくりと彼女の胸に目をやる。


彼女は一糸まとわぬ生まれたままの姿だった。


小ぶりの双丘に目を落とし、時間にして3秒フリーズ。


そして…


「あばばばばばばばば!!!!!うわぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」


顔を真っ赤にして後ろにる。


人肌の生々しく温かい感触が身体から離れ、余韻よいんが一気に引いていく。




ドッドッドッドッドッ!!!!!




エドヴァルトと対峙たいじした時でもこれほど心臓が激しく動いたことはないのではないだろうか。


自分の顔に全身の血液が集中し、耳まで赤くなるのがはっきりとわかった。


「ええええええええ…………え?いや、な、なんで…」


自分も裸であったことに遅れて気づき、濡れた下半身を布団で隠しながらユージンは上ずった声をあげる。


女性は「なによ、いきなり」とクスクスと笑う。


「ふふふっ、寝ぼけてるの?でもダメじゃない。いくら気持ち良くてもそういうこと・・・・・・してる最中に意識を失っちゃ」


「そ…そういうこと・・・・・・!?ボク・・が!?君と?」


「やだ、なにそれ。記憶喪失ごっこ?」


状況についていけずにパニック状態になっているユージンを見て女性は笑う。


初めて・・・の時を思い出すわね。君ったら童貞君丸出しで…」


「は、はははは初めて・・・!?ボクの初めての相手が君?!」


声の裏返ったユージンに、裸の女性はゆっくりと近づく。


ユージンはどこに視線を向けて良いかわからず、目を白黒させながら、結局、彼女の小さな膨らみの頂点を凝視する。


すると彼女はユージンの唇の上に自分の人差し指をそっと当てて「シーッ」とささやいた。


「童貞君ごっこも楽しいけど、ここ、一応、診療所だから大きな声は出しちゃダメ。入院している人はいないけど、急患が運び込まれてくることはあるんだから。こんなことしてるのバレたら私、明日から仕事なくなっちゃうよ」


「それとも」とユージンの首に自分の両腕を回し、女性は甘えた声でささやいた。




「君が私を養ってくれるのかな?ね、冒険者・・・さん?」


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