第77話 新しい私をよろしく
「ここが……、遥の精神世界………。女神様の時よりも、居心地がいい気がするな……」
薄いオレンジがかった光の空間で、俺は腰を下ろしてすっかりリラックスしていた。温かく、床も少し弾力があって気持ち良い。なんだか、気分も晴れやかになるような過ごしやすい場所だ。
寝転がったら、どんな感触になるんだろうか……。どうしても確かめたくなってしまった俺は、そのまま勢いをつけて大の字に寝転がる。予想通り、最高の寝心地だ……。
ある意味、部屋に入るよりもプライベートの部分に踏み込んでいるにも関わらず、俺はゆっくりと目を瞑る。しかしそのまま意識を飛ばすようなことはできず、俺はダラダラと考え事を繰り返していた。
遥は……、いつ姿を現すのだろう。この世界の状況を見ると、精神的には安定してそうだから大丈夫だとは思うが……。少しだけ、不安になってきた。俺は跳び起きて、周囲をもう一度よく見回す。すると突然背後から白い光が差し込んで、俺の両目は手の温もりに隠された。
「お待たせ……! 俊、私が来るのが遅くてちょっと心配してたでしょ?」
「そりゃ、心配しないわけないだろ。一体どこで何をやってたんだ?」
「ごめんごめん……。実はさっきまでもう一人の私と話をしてたんだ。色々と話して……、最終的にはお互いに納得できた。だから、私達は一つになったの」
そう言うと、遥は覆っていた両手を離して、俺の目に全身を惜しみなく映す。外見自体にはあまり変化はなかったが、余裕と元気の良さが混ざり合った雰囲気は、これまでとは全く違って感じた。
「……ということは、遥は理想の姿に近づけたってことか」
「そういうこと。まだ問題は山積みだけど、一旦私の心は落ち着いたみたい……。記憶を共有して、俊がお父さんと何をしてたかも分かったし……、なによりこれでタイムリープが自由自在にできるようになったっていうのは、大きいわね」
「ちょっと待て。タイムリープが自由自在になったっていうのは、どういう意味だ?」
「あれ? 俊は女神様から聞いてなかったの? ハルカの記憶だと、理想人格が定着すると能力の制限がなくなるらしいんだけど………。まあ……、いいわ。ここで説明するよりも、外の世界で実際に試した方が早いから、さっさと帰りましょう? ……あ、俊! ちょっとあっち見て!」
「ん………? あっちってーーーー」
遥の指に誘導されて左を向くと、右頬に柔らかな感触が伝わる。俺は突然の口づけに視線を逸らしたまま、固まってしまった。そしてそのまま遥は、そっと耳の方へ背伸びをして、
「……新しい私とも仲良くしてね」
一言、囁くと声の主は颯爽と走り去っていく。やっとの思いで正面を向くと、顔を真っ赤にした俺をからかうように、遥は笑顔で外の世界へと手招きしていた。
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