第63話 こっちですっ!
「なんか今日は疲れちゃったよね……。廃部勧告が出て、色々と考えることが多かったから、眠くてたまらないよ…………」
「そうだな……。俺も昨日は寝てなかったから、もう意識が無くなりそうだ」
「でも、こんなに疲れてるのもおにいのせいだからね! 昨日も、今日も遥さんと二人で怪しいことしてたから、私はこんなに疲れてるんだよ!?」
「すいません……。今度から気をつけます」
俺は桐葉に謝りつつ、夕暮れ時の正門へと向かう。まあ、今日は本当に疲れてるし、桐葉に妨害されて良かったかもな。とりあえず、早く帰って寝よ………。あくびをしながら、桐葉の後をのろのろとついていく。しかし桐葉は急に立ち止まり、俺は顎に後頭部の衝撃を受けて再び意識を覚醒させた。
「いたっ………。桐葉、急に止まるなよ。お前の頭をまともに食らって、あやうく倒れるところだったぞ」
「ごめん。なんか正門の方に人がいっぱい集まってたから、それが気になって…………」
桐葉が申し訳なさそうに指した先を見てみると、確かに人だかりができていた。午後17時半過ぎにあそこまで人が集まるのは、なにかおかしい。最近の流れのことを考えると、近寄らない方がいいな。俺は回れ右をして校舎に戻ろうとするが、再び桐葉が俺の右肩を掴んで、
「おにい、どこ行くつもりなの? 私と帰るんでしょ? 逃げようとしたって無駄だよ。今日は絶対に、私がおにいと一緒にいるんだから」
「違う。逃げようとなんかしてないさ。ただ、俺はわざわざ人混みの中を歩くのが嫌ってだけなんだ。じゃあ、桐葉も一緒に教室に戻ろう。それなら大丈夫だろ?」
「分かったよ。おにいがそんなに言うなら、しょうがないなぁ」
良かった。なんとか厄介ごとに巻き込まれずに済みそうだ。俺は胸を撫でおろしながら、ほっと息を吐こうとする。しかし、その一瞬の気の緩みが命取りだった。
「一条俊。一条俊さんはいますかーーーっっ!!」
正門から何人かの大声が聞こえたと思った瞬間、既に大勢の群衆の足音が近づいて来ていた。
一体何がどうなってるんだ。いや、落ち着け。ここで取り乱せば、また事態は悪化するに決まってる。あれだけの人数で俺を探す理由は分からないが、とりあえずは他人の振りをして――――
「一条俊は、ここにいまーーすっ!! 皆さん、こっちですよーー!!」
「お、いたぞーー! みんな、こっちだーー!!」
一声で、群衆の塊はこちらに近づいてくる。桐葉は久しぶりに悪戯な笑顔を浮かべながら、大袈裟に親指を立てた。
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