第13話 遥バスター水蓮寺

 水蓮寺は俺を無理やり引きずりこんだ後も物凄い力で俺を引っ張っていく。俺は何とか靴を脱ぎながら水蓮寺の手を振り払った。


「痛い痛い痛いっ……。なんでそんな強く引っ張るんだよ。俺はもう観念してちゃんと家に入ってるだろ?」


「家に入ってるだけじゃダメなの! ずっとここにいたら私が……。だから、早く私の部屋に来なさい!」


「私が何だよ? ちゃんと答えてくれないとここから動かないぞ」


「もう! だから早くしてって――」


 水蓮寺が焦りで顔を歪ませた瞬間に玄関の方向から扉が開く音が聞こえた。水蓮寺の顔からは一気に血の気が引いてまさに絶望という表情。俺が後ろを振り返ると長く綺麗なオレンジ色の髪が扉の隙間からなびいていた。


「ただいまーーっ! 遥ーー! 今日は、いつもより随分早く帰って来たけどもう部屋にいる? ……って、えええええええっ! その子誰? 遥、まさかあんた男の子を自分の部屋に連れ込もうとしてたの!? 何? 黙ってないで早く説明しなさいよ! というか、遥ってこういう子がタイプだったのね。名前はなんていうの? 遥との関係性は? 今日はどうして家に来たの? まあ、とにかくリビングでくつろぎながらゆーっくり聞かせてちょうだい! さあ、上がって上がって!」


「……もう、だから早く部屋に行きたかったのに」


 水蓮寺の全てを遥かに凌ぐ強烈な喋りで女性は俺達を圧倒する。そしてその勢いでいつのまにかリビングへと誘われていた。水蓮寺と同じ髪色のその女性は数分姿を消したあと、紅茶とケーキを用意して再び姿を現した。


「今日はなんか早く帰った方が良い予感がしたから仕事を切り上げてきたんだけど、見事に当たりだったわね。……さあ、ゆっくり話をする準備も整ったことだし、さっき私がした質問に答えてもらおうかしら?」


 水蓮寺にですら簡単に屈する俺は、目の前の美女の息も出来ないほどの圧力にありえない恐怖を感じていた。答えたくてももはや声すら出てこない。なんとか力を振り絞って助けを求めるように後ろを振り向くと大きいため息が吐き出され、


「そんなにその子を詰めるのやめてもらっていい? 私としてもそうやって知り合いにグイグイいかれるのは迷惑でしかないんだけど?」


「ほぉーーう……。遥、いつからそんな言い方覚えたの? 最近、雰囲気が変わってきたとは思ってたけど私にますます似て来たわね……。流石、私の娘って言ったところかしら!」


 娘……? 俺が信じられずに驚いていると美女は俺に向かってウインクをし、軽く手を振る。そんな一連の流れを見て水蓮寺の顔はますます険しくなっていった。

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