第12話 魅惑の園へレッツゴー

 そして、また1日が経ち、俺と水蓮寺は帰り支度を進めていた。水蓮寺は颯爽と肩にバックをかけると、俺にすっと近づいてきた。


「じゃあ、一条。このまま私達は帰るわよ。学校じゃ、桐葉ちゃん達に見られるかもしれないからさっさと行くわよ」


「ああ……、分かった。でも一緒に抜け出すわけにはいかないだろ? どこで待ち合わせるんだ?」


「そういうだろうと思って、ちゃんと用意しといたわよ。少し時間を置いてからこの住所のところに向かって。私は一条が来るまで準備しとくから」


 なぜか水蓮寺はまともに俺を見ずに早足で去っていってしまった。怪しい。非常に怪しい。とりあえずアイツが何をしてくるのかを考えながら、ゆっくりと時間が経つのを待ってみる。15分ほど意識をぼんやりとさせた後、俺はやっと腰を上げた。


「えーっと……、ここを右折して、直進で到着か……」


 学校から電車に乗って何駅か行き、そこからしばらく歩いていくと閑静な住宅街にたどり着いていた。こんな所に喫茶店みたいなゆっくり話をできる場所なんてあるのか? 俺は地図アプリに入力した住所情報が間違っていないか何度も確認するが、間違えてはいないようだった。そしてそこから数十メートル直進した時、俺は黙ってアイツに電話をかけていた。


「もしもし……、一条、あなたやけに時間がかかってるわね。もしかして一条って方向音痴だった?」


「いや……、もう水蓮寺が指定した住所には着いてる。でも一つ気になることがあってな……」


「何よ。そんな気になるようなことある? それより早く上がってきたらいいのに」


 やはりこいつは訳の分からないことをしでかしてきた。俺は平常心を保つために目的の建物から目を背けると、


「お前が指定した住所にある家に……、水蓮寺っていう表札があったんだが……。これは一体どういうことだ?」


「あれ? 一条ってそんな鈍感だったっけ? 私は自分の家の住所を書いて渡しただけだけど?」


 開き直って当然のようにふるまうことで自分を正当化する水蓮寺。……しかし、まさか水蓮寺が自宅に俺を招いてくるなんてな。動揺と急に現れた緊張でため息をついていると後ろから扉が開く音がした。


「なんでそんなところにずっと突っ立ってんの? 近所の人に不審者と間違えられちゃうから早くしなさいよ!」


 振り向くと軽く頬を赤らめながら水蓮寺が仁王立ちしていた。俺はその瞬間に逃げようとするが後ろから思いっきり腕を掴まれてずるずると引っ張られていく。


「いや……、さすがにいきなり水蓮寺の部屋に行くのはちょっと……」


「なによ! 二人でこっそりと会うんだったらここが一番いいでしょ。……いいから、早く来なさい!」


 腕に加えられる力が莫大に増幅し、俺は強制的に近づいていく。小学生以来の女子の家への来訪は多感な俺の心に新鮮さと懐かしみを同時に植え付けていた。

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