第65話 解放の祭典、開幕2

 俺が席に着いてから一時間が経過したころ、グラウンドやテントは生徒や地元の人々などの参加者ですっかり埋め尽くされていた。あと十数分で開会式が始まる。俺はまだメインステージの水蓮寺たちの姿をぼんやりと見つめていた。水蓮寺と桐葉は開会式の最終調整に入っているのかマイクの近くで何やらバタバタと動き回っているようだ。本来なら俺もあそこで準備させられてたんだろうなぁ。俺は自分がいなくても騒がしいステージに少し感慨深さを感じる。すると俺の背後を不意打ちするように突然声が掛けられた。


「よう、ずっとここで何してるんだ? 俺たちのクラスももうじき入場だからそろそろ入場ゲート付近にいたほうがいいぞ。いやぁ、今日は楽しみだなぁ。一条が出る競技は全部応援するから。頑張って来いよ。な?」


「悠斗、お前そろそろ諦めたらどうなんだ? 俺を普通の人扱いしたとしても俺のケガは治ることは無いんだからな」


「はぁ…………………」


 俺がばっさりと切り捨てた途端、悠斗は力ないため息をつく。そして悠斗は目を潤ませながら、


「知ってるか。俺ってお前が出る予定だった分の競技も全部出ることになったんだぜ………。あの頭のおかしい役員たちが作った競技を2,3個やるだけでも相当きついのに、お前の競技を入れて合計8個って……。俺、死んじまうぞ!」


「知ってるさ。まあ、いいじゃないか。俺もお前の代わりに大食いすることになったんだし。お互い出る競技を交換したと考えれば納得できるだろ?」


「できるか! まあ、いいよ。俺みたいな犠牲者がいるから楽しい祭りが開催できるんだもんな。みんなのためなら、俺死ねる気がするよ……」


 悠斗はまた一段と肩を落としながら俺に手を振る。悠斗がテントから出るとあちらこちらからクラスメイトの声が聞こえてきた。


「悠斗、お前今日地獄みたいなスケジュールだな。軽傷で済むように頑張れよ!」


「上代君、頑張って! 私達のクラスで出る人、男子だとほとんど上代君だけだからみんなで応援してるね!」


「分かった! みんな、俺頑張るよ!」


 俺の前ではあんなに憂鬱そうだったのに悠斗はいきなりテンションを上げて入場ゲートへと走り去っていってしまった。かたや俺はさっきと同じように一人で座っているだけ。出るなら出るで気だるさしかなかった競技も出ないとなると少し寂しくなる。……まあいい。このイベントがこうやって開催できたのは俺の力も大きいんだし、ゆっくりと自分の番まで楽しむことにしよう。俺は余裕ぶった自己肯定感に浸りながらまた前を見る。時刻は8時50分。解放祭開幕まであと十分に迫っていた。

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