第58話 HD計画2

「HD計画? それってどういう意味なの? 何か特別なコードとかだったりするの?」


「ふっふっふ……。よくぞ聞いてくれました。当然、特別な計画の名前なんですから意味はあります。そう……、このHDという二つのアルファベットはある言葉の略称なのです。そして、この計画の正式名称は…………」


 桐葉は先ほどより眼光を薄くしつつ何か意味深な言葉づかいでもったいぶる。おそらく俺たちの知能では到底理解できないだろうが、そこまで言われると興味が湧いてくる。俺と水蓮寺は次に出てくるであろうHD計画の正式名称を聞き逃さないように耳を澄ましていた。


「すなわち! 花火H大爆発D計画です! あれれ? どうしたんですか、二人共? こんな素晴らしい計画名を聞いて驚きすぎて声も出ませんか?」


「いや……、そういうわけじゃないんだけど……。うん、桐葉ちゃんが良いって思うんだったら良いんじゃないかな……?」


「え? もしかして遥さん、私に大人の対応してますか? 何か不満があるのなら素直に言ってください! そうだ、おにいはどう思った? おにいならこの名前のカッコよさが分かるんじゃないの? ねえ、目をそらさないでよ! ねえ、おにい!」


 さっきまでの余裕たっぷりの態度から一変して今まで見たことがないほど焦った様子で俺の肩を揺さぶる桐葉。あまりにもしつこく聞いてきたせいか俺は桐葉の腕をほどいて少し距離をとった。


「正直なんというかその……、めちゃくちゃダサいって思った……」


「そっかぁ……。この名前だけは私が必死に考えたんだけどなぁ……」


 桐葉は赤黒い瞳をうるうるさせながら寂しそうに桜の幹に手をつく。水蓮寺は流石に桐葉のことがかわいそうに思ったのか俺の隣から離れてそっと木陰の下に入っていった。


「私は桐葉ちゃんが付けた名前、とっても素敵だと思うわよ! だって花火を爆発させるみたいに豪華にするっていう意味なんでしょ? 私も演出をとびきり派手にしようって決めてたから桐葉ちゃんが同じように考えてくれててすごく嬉しいわ!」


「いや、もういいですよ。遥さん……。どうせこんなダサい名前の計画なんて誰もやろうとしないんですよ。私も今日は黙って帰ります……」


「待って。桐葉ちゃん、分かったわ! 私、HD計画に参加したい……。いや、参加させてください!」


 水蓮寺がそこまで言い終わったところで急に桐葉は立ち止まり、反転して水蓮寺の目の前に戻ってきた。桐葉はまだ少し寂しそうな表情で、


「遥さん……。今の言葉本当ですか? 水蓮寺さんはHD計画に参加したいんですか?」


「う、うん。確かに言ったけど……」


「やったーーーーー!! そこまで言うなら仕方ないですね。私が二人を計画に参加させてあげますよ。よーしっ、じゃあこれからみんなで豪華な花火を爆発させていきましょう! えいえいおーーーっ!」


「「お……、おーーーっ……」」


 いつの間にか力関係が逆転しているこの状況に俺と水蓮寺は絶句しかけながらも桐葉に合わせて手を掲げる。桐葉は最初からこの流れを予測していたのか、からかうような悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

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