第59話 痛みと愛しみ1

 その後、俺達は桐葉を中心として次々と花火を打ち上げるための打ち合わせを行った。どの程度の火薬の量を使うか、消防署との連携はどのようにして行うか、市役所との連絡は……。俺にはよく分からない語句が次々と出てきて内容を理解することはできなかったが、要するに花火を打ち上げるためには色々なルールを守らないといけないらしい。一つ一つの基準を満たしているかどうか丁寧に確認するうちに解放祭直前の日曜日は夕方になっていた。


「よし、これで全ての準備は整いました。あとは解放祭で花火を打ち上げるだけですね。じゃあ私、教務部に最終確認とってきます! 二人はそこでゆっくりしておいて下さい!」


 あれほど長時間の打ち合わせをほぼ一人で対応していたのにも関わらず桐葉は元気そうに大量の資料を持って職員室へと向かった。扉が閉まった瞬間、あまり働いていないはずの二人はだらしなく椅子にもたれかかっていた。


「本当に……、花火を打ち上げるのって大変なのね……。私、話聞いてただけで疲れ切っちゃった……」


「同感だ。もし桐葉がいなかったら俺たちどうなってたんだろうな……」


「そうね。桐葉ちゃんには感謝しかないわ……」


 俺たち以外誰もいない部室の中で俺と水蓮寺は自然に喋ることを止めていた。疲労の中でぼんやりするひと時。そんな時間は廊下に響く軽い靴音で突如として消え去った。


「ただいま帰りましたーー! おにいと遥さんはおりこうさんにしてましたかって……、遥さん! ここで寝ちゃダメですよ。起きてください、遥さん!」


 桐葉は帰ってきた瞬間に机に吸着していた水蓮寺を引きはがす。そして俺と水蓮寺が眠気でまた意識がはっきりしなくなっている間に桐葉は下校の準備を完璧に済ませていた。


「じゃ、私は部室の鍵を返しに行ってくるんで、おにいと遥さんは先に帰ってください! あ、でもおにいがもし一人で帰るのが怖かったら正門で私を待っててもいいからね!」


 桐葉は俺に笑顔を投げかけながら廊下を走り去ってしまった。どんな時でもあいつは元気で羨ましいな……。一学年下の若さを欲しがりながら俺は何度も目をこする。ここ数日ほとんど寝ずに作業をし続けていたからか今にも眠ってしまいそうだ。


「はぁ、なんだかめちゃくちゃ疲れたな……。私はこれから帰るだけでも精いっぱいなのに桐葉ちゃんは……、凄いなあ」


 俺の隣にも自分の体力の限界と衰えを感じている同期がいた。俺と水蓮寺は高校生とは思えないほど衰弱したオーラでとぼとぼ歩いていく。そしてそんな体に目が覚めるような鋭い痛みが襲うのはそれから数分後のことだった。

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