第51話 ブラックな生活2
その後俺たちは教師が見回りに来るまでずっと作業を続けた。今はやっとの思いで家に帰ってきたが時刻はすでに10時を回っている。今朝は7時には学校に行っていたから何というか……、よく働いたもんだ……。
「ただいまーーっ。家に着いたよおにい! もう休んでいいから早く上がって!」
「ただいまぁ……。桐葉、俺はもう限界かもしれない。でも早くしないと締め切りが……」
「おにい、しっかりして! 今日の分の仕事は終わってるから。おにいは早くお風呂に入って!」
俺は今にも力尽きそうだというのに桐葉はいつも通り元気そうに話しかけてくる。俺は桐葉に肩を借りて不甲斐ない姿でお風呂場に向かった。
お風呂から上がるとすでに桐葉は完璧な中華料理を作り上げていた。酢豚にチンジャオロースにチャーハン……、俺と同じように十二時間以上は労働しているはずなのにこの差は何なんだろうか? 俺が敗北感とともに遅めの夕食を味わっているとなぜか恥ずかしそうな顔で桐葉が口を開いた。
「それにしてもおにい。最近すごく頑張ってるよね。今日もほとんど休憩せずにずっと作業してたし」
「そうか? まぁ締め切りも近いからな。早くしておかないといけないって思っただけだ」
「ふーん。本当にそれだけなのかなぁ?」
桐葉は少し疑うような目で俺を見る。ここで俺が少しでも動揺すれば先輩や水蓮寺との約束も完璧に見通してしまうかもしれない。俺は全神経を集中して演技をしようとする……が……、ダメだ。これまでの疲労でそんなことできる余裕はもう無い。俺は仕方なく自然体で質問に答えることにした。
「うん……。まあ、本当にそれだけだからなぁ」
「そっか。確かに何かあるならこんなに顔が死んでいる訳がないもんね。単におにいが頑張ってるだけか」
度重なる疲労のせいでもはや動揺することすらもできなくなっていた表情筋が幸いしたのか桐葉からの疑いを何とか回避することができた。安心から俺は大きくあくびをつく。その瞬間、とてつもない眠気に襲われた。俺はなんとか倒れそうになった上半身を起こし、
「ヤバい。桐葉、俺今めちゃくちゃ眠くなってる。今日は明日の分の仕事も前倒しでやっておきたかったのにこれじゃもう無理だな」
「なんやかんやで解放祭まであと一週間だもんね。また直前の準備も追加で来るだろうし……。よし、おにい今日は一緒にリビングで作業しよっか! 私は全然平気だから何時間でも付き合うよ!」
「分かった。今夜はオールで作業してさっさと終わらせるぞーー!」
「おおーーーーっ!!」
もうすぐ深夜になろうとする時間帯に似合わない大声で俺と桐葉は気合を入れる。……よし、とりあえず先に食器を片付けるか。俺はまた省エネモードに切り替えて片付けと作業の準備を始めた。
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