第15話 跡地にて
一時保留となっていた八の一番街跡地の工事がいよいよ始まろうとしていた。
ディック・オルソン会長は強引にカジノの建設を推し進めた。
「ニックは外した。私が直々に取り仕切る」
十二月の寒空、早朝。
今、二人の土木作業員がそこへ足を踏み入れた。
氷点下の地表。ザクッザクッと霜が鳴る。
測量の道具を肩に掛け、白い息を吐きながらレベル係のロンが言う。
「うぅ〜〜寒ぃ〜なぁー はぁ〜!」
測量ポールを持つロッドが鬱々と呟く。
「あぁ……しかしマジで
「ああ。NOEAの開店前に見ておきたいって。……この寒さであの禿げ頭も凍るぜ〜」
「ワハハ、ツルピカで眩しい〜ってな!」
「ワハハ」と、二人がふざけ合っていたその先にいたのは――。
「おい、見ろよ。あの猫。知ってるか?」
「なんかずっとウロついてんだろ?」
「なんでもあそこにあったパン屋の飼い猫だったらしいぜ。時には……ぁ、ほら来た。ゴールデンレトリバーも」
「何だ? ご主人様はよ?」
「死んだって」
「えー! ……何でまた」
「その土地売ってから……病気でな」
「例のあれか、ニックさんが五百万で買って、そいで会長が怒って」
「んーでもニックさんも脅されただとか、恨まれるだとか、理由があったみてえ」
「まー元々ソリの合わねえ親子だからな。勝手にしやがれだ」
「しかし見ろよ猫ちゃんとワン公……なんだか可愛そうじゃねえか……スゲーやつれてんぞ」
「うむー。だな〜」
その時だった。門の向こうに一台のベンツが停まった。
「わ! 会長だ!」
二人は慌てて走っていき、門を開け、車を彼らのワゴン車の側に誘導した。
そして並んでペコリと頭を下げる。
「おはようございまーす!」
****
アルフレッドはトムに言った。
『もうここへ来ても、ビンセントさんには会えんぞ。もう帰っては来んのじゃ』
『うん。わかってる。もうわかってきた』
トムは笑ってみせ、アルフレッドが言う前に言った。
『ビンセントさんは心の中で生きてる。だからいつでも会えるんじゃ。……でしょ?』
そして胸を張り、目を閉じて冷気を吸い込んだ。
『じいちゃん、ちょうど今の時季なんだ。ぼくがビンセントさんに拾われたの』
『おぅ、そうじゃった。覚えているとも。小ちゃいお前がぶるぶる震えておった』と、アルフレッドは身震いした後、大きなクシャミをした。
『へぇーーっくしょい! ぅう〜〜! 老体には沁みるわい』
トムは鼻水を垂らしたアルフレッドを見て吹き出す。
『プッ、ぶるぶる
『これ、笑うでない! フフ……ゥホホ』
聳えるNOEAを眺めながら、ディック・オルソン会長は呟いた。
「……ニックのやつめ。どこへ消えやがった……」
それから毛皮のコートを脱ぎ、ロンとロッドを従え敷地を見て回る。
やがてディックはドン! と音を立てるようにある方向を指差した。
「あれは何だ? あの犬と……猫か?」
「あ、あれは、その〜、以前パン屋の親父が飼ってた犬と猫のようでして」
「……はは〜ん。例の土地か、あそこが。何故追い払わん!」
「あ、はぁ……では今から……」
ロンとロッドが顔を見合わせもたついていると、
「えーーい! そいつをよこせ!」
と、ディックはロッドの持つ測量ポールを取り上げ、走り出した。
トムが耳を立てた。
『じいちゃん、人が来る!』『何?』
アルフレッドは振り向き、遠くから一直線に向かってくる人間に吠えた。
『何じゃ? わしらを
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