第6話 黒い雌猫
フリーホイール川の橋の下。
枯れ草の上、そこには一匹の猫の死骸が。
それを三匹の猫が悲しく見つめていた。
『こんな死に方、見たことねえ』
巨漢のゴツがそう言った。
『ヒョロ……。お前病気だったのか?』
いつも舌を出してるペロが、死んだヒョロの肩の毛をペロッと舐めた。
『そうじゃない。これは人間どもの仕業だ』
『え?!』
ゴツとペロは彼らのボス、カシラの方を見る。
彼は怒りを滲ませて言った。
『その脇に転がってる魚の頭を見ろ。目は潰れ、口はただれている。これは川の上流の建物(工場)から垂れ流された毒(廃液)のせいだ。その毒にヤラれた魚をヒョロは食った。だからこんなに苦しそうに身をよじって死んだんだ』
『まぁたあいつらか!』
『なんてこった!』
嘆くゴツとペロ。カシラはキツく戒めた。
『気をつけろ。こうやって人間どもは魚もおれたちも殺そうとしている。油断してると、明日は我が身だぞ。いいな?』
『はい!』
二匹は確と受け止めた。
カシラはヒョロの冷たい首筋をくわえ、橋のたもとの暗い藪の中に引きずっていった。
『アーメン』
カシラは辺りを見回した。
『……ところでゴツ。やはりここにも娘はいない。情報屋のネトを呼べ。ペロはおれと川下へマナを捜しに行くぞ』
****
トムとアルフレッド、二匹は買い物帰りだった。
ビンセントのメモを店主か奥さんに渡し、今夜の食材を仕入れ、その籠を首に下げてアルフレッドが歩く。その後ろをトムがちょこちょこついて行く。
それは彼らの日課であり楽しみの一つでもあった。
ずっと静かだったアルフレッドがトムに言う。
『トム。このところビンセントさんはご機嫌斜めじゃ。何か知っておるか?』
『……うん。多分、この前来た男の人のせいだよ。店の前に乗りつけて長く話してた人。ビンセントさん……怒鳴ってたもん』
心配げにトムは答えた。
『ほぉ。あの人を怒らせるとは、よほどの話をしておったんじゃな』
『感じの悪い人だった』
『ふむ……』
そんなことを話しながら、二匹はてくてく通りを渡った。
渡り終えた時、トムの耳に何かが聞こえた。
『……ぅ、うう……ぅぅ』
それは声。誰かが苦しみ悶える声だった。
『え? どこ?』立ち止まるトム。
『待って、アルフレッドじいちゃん……見て、あの建物の影に誰か倒れてる!』
『何じゃと?!』『行ってみる!』
トムは駆け出した。その後をアルフレッドも。
花壇を越え、暗がりに目を凝らす。
『ハッ、こりゃいかん!』
『きみ! どうしたの? しっかりして!』
トムは呼びかけた。
そこにいたのは一匹の猫。
猫は横たわり、気を失いかけていた。
左足が変に曲がっている。骨が折れているようだ。
その場所まで這っていった跡があり、通りで車に撥ねられたのを察した。
それはちょうどトムと同い歳ほどの、艶やかな黒い毛の雌猫……。
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