第2話 メグとミッチとトム・ジョード
メグとミッチの幼い姉弟は、今日もつま先立ちで通りから窓ガラス越しに店内を眺めている。
十二月。フリーホイール八番街の小さなパン屋〝ジョードの焼きたてパン〟は今日も早い開店だ。
――おやおや、来ておるな。どれ……と、その二人に気づいたビンセント・ジョードは紙袋にクリームパンを二つ入れ、手招きしてメグたちを中へ呼び入れた。
「おはようさん」
にっこり迎えるビンセント。
「おはようございます、ビンセントさん」
メグは上目づかいで礼儀正しく挨拶する。
「はい。持っていきな」
ビンセントが袋を差し出すと、ミッチが照れ臭そうに受け取った。
メグが言った。
「ビンセントさん、これ。ママが」
ポケットから硬貨を。
「いいよ、このパンはサービスさ。いつも遊んでもらってるだろ?」
メグとミッチは顔を見合わせ、ニカッと微笑んだ。
鼻水を拭ってミッチがきいた。
「ねえ、トムは?」
「アルフレッドと公園にいると思うが……。行ってみい」
ビンセントが答えると、二人はわぁっと外へ駆け出して行った。
「車には気をつけてなー!」
「はぁーーい!」
メグとミッチのお目当ては、パンと、トムなのだ。
ビンセントは嬉しかった。
トムのおかげで街の子供たちがずっと身近になったのだから。
****
あれから三年、トムは大きくなった。
ビンセントに大切にされて健やかに育っていた。
店の表の籐の椅子に座って通りを眺めているトムを、街の住人たちはよく知っている。
「ごきげんよう、トム」
「トム、調子はどうだい?」
「わあ! 今日は何捕まえたのー?」
「そう、明日は雨なのね」
「ほーら、トムのためにいっぱい魚釣ってきたぞー!」
「ニャーン」とよく返事をして皆を喜ばせた。
お客様には特別に自分から〝いらっしゃいませ〟と迎えるように。
白く清潔な柔らかい毛の胸元に黒毛の蝶ネクタイ模様。どこか気品のある出で立ち。
見つめると首を傾げ、じっと見つめ返す目が愛らしかった。
老犬のアルフレッドとは親子のように仲がいい。
二匹がビンセントと並んで通りを散歩するとその後を子供たちがついて行く。それは心和ませる光景だった。
****
その日、昼飯時だというのに、トムはまだ帰って来なかった。
――どこへ行ったんじゃ……好物のチキンじゃぞうと、アルフレッドが窓から外を眺める。
ビンセントがアルフレッドの頭を撫でながら言いきかせる。
「必ず帰ってくるさ。……待たんでも、先に食べておけ」
「……クゥン……」
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