外伝 頁-始枚

@I-my

4 Answer

1月24日午前4時29分 60


「んむーーっ」

体と腕を上へ伸ばす。

意識スッキリ、お目々パッチリ。

布団から出て、カーテンと窓を開ける。

キレーな朝焼けが白空を染めていた。

今日も良い朝だ!

凄くいい気分だから、ラジオ体操でもしよう。

あ、でもここってラジオとかあるんだっけ?

ま、いいや。

おいっちにー、おいっちにー。

ふー、やっぱり朝は体操だね。

上の方を見るとまだ5時にもなっていない。

学校へ行く支度をするのにはちょっと早い気もする。

仕方無い、この部屋でも漁ろうかな。

これから過ごすんだもん、当然の権利だよね。

窓の先から、部屋に射し込む紅と颯。

この僕、大神の誕生を讃えるのには相応しいな。

ああ、そうだ!

僕名前無いじゃん。

名字だけじゃ寂しいしね。

どうしよっか。

うーむ…………


…………………ま、いいか。後で。

よくよく考えたら無くても問題ないし。

クローゼットを開けて、制服を取り出す。

さて、僕は以前、誰であったのか。

或いは、誰であった設定なのか。

これで解るかなぁ。

制服の内側のタグを見る。


くそ、大神って書かれてる!

って事は僕が使ってたのか!

っていやいや、そんな記憶無いし。

あれ、でも?

記憶がないなら記憶喪失ってだけかもなのに。

何で誰かがここで住んでて、それから今僕が誕生した、だなんて思ったんだ?

発想が飛躍し過ぎだよ。


………その誰かから記憶を引き継いだ?

その誰かの記憶は無いのに?

少し考える。


あーもう!めんどくさいなっ!

よし、保留。


制服を着込む。

よし、漁ろう。

クローゼット!タンス!棚!床!天井!モニタ!その台!ベッドの下!

うーん、何も分からない!

次は、一番何か有りそうな、机の中を調べる。

今時珍しいだろう、ゲームソフトのパッケージ。

プラモデルの箱。

山積み。


………ん?

底板がやけに厚い気がする。

中身を全てどけてみると。

ああ、二重底ね。

上底は簡単に外せた。

中には、高さを確保する支えと、箱が入っていた。

開けると、綺麗な指輪が。

………以前の僕が隠したんだろうか?

ま、その内解るかな。

折角だから、付けてみる。

右手の中指。

ちょっときついな。

チェーンが一緒に入っていたので、指輪は外して首に巻いておく事にした。


その次は机の上にある、黒っぽい、濃緑の板を手に取ってみる。

さて、これは何だろう。

わ、光った!

えーと、これは…………


………成程、これは「端末」だね。

何故か、解る。

外部存在の意識との通信、或いはそれを介して内部意識との通信をするためのデバイス。

この世界でまま起こる不自然認識は、想像主がこれを介して僕らに干渉した結果、という訳だ。

まあ不自然、て僕が感じちゃってる時点でポンコツなのかな。

つまりこれは僕たちを繋げ、縛るものだ。


………今僕めっちゃ頭良くない?

悦に入ってから、とりあえず部屋を出る。

玄関へ続く廊下だけがあった。

仕方無い、お散歩でもしようかな。

クローゼットの中にマフラーが有ったや。

コートは………いいや。

取って、外に出る。

学校への道は、やっぱり何となく分かった。

まずは、こっちへ暫く歩いて、坂を下る。

ちょっと進むと、やっぱり寒い。

上着てくれば良かったな。

手を制服の中へ突っ込む。

えっと……何だろこれ?

本日何度目かの違和感。

制服内側のポケットに何か入ってる。

……手紙。

どうしよう?

信書の盗み読みは大変によろしくないけれど。

まあいっか。

検閲開始。


………ふむふむ、ほうほう。

にやにや。


どうやら恋文のようだ。

「大神君へ」「御鏡 深花」

何と古風だろう。

いいねえ。青春だねえ。

僕も欲しい。

相手にもよるって? そりゃそうさ。

それにしても中々読ませる文だ。

あざとすぎず、かつキュンキュンくる。

もうむちゃくちゃキュンキュンだ。

僕も欲しい。


うーん、このマフラーも手作りっぽいし。

この子からもらったんだろうか。

じゃあ、あの指輪も?


3つ。

何かが揃った気がする。


…………そうだったね。

また、解ってしまった。

思い出したのとは、少し違う。

これが僕に与えられた力なのかも。

かつての彼女が時を超えたり、世界を超えたりしたように。

行かなくちゃ。

何故かはわからないけど、そんな気がする。

でも、その彼女はどこに?

あの子の家は知らないし、解れなかった。

どうしよう。

……でも何でだろう。

常識的に、そんな筈無いんだけど。

どうにかなる気がするな。


軽く息を吸う。

「………っ」


眼を開けると、知らない部屋にいた。

見渡すと、教室のようだった。

何か色々機材がつまれてる。

視聴覚室だろうか。

冷たい風。

窓が開いていた。


「大神………くん?」

へ?

「どうしてここに?」

朝焼けの教室に、声だけが響く。

幽霊って朝でも出るの?

人生一日目の僕にはハードモード過ぎるよ……

「?

何できょろきょろしてるんです?」

どこにいるか分からないからです。

「こっち」

いや、だから分かんないってば。


直後、背中に衝撃。

「おはようございます」

振返ると、女の子。

御鏡深花………さん。

「ああ、おはよう」

「大神くん、不法侵入はダメですよ?」

不法って。

んな大袈裟な。


……いや不法だなこれ。

「同じ不届き者同士、協力しないかい?」

「ん、そうしよっか」

楽しそうに笑っている。

はて、何か思ってたのと雰囲気が違う。

「それで御鏡さん、ここで何してたの?」

「分かりません」

「はあ」

これは予想外。

「何でここにいたか、分からないんです」

「そりゃ困った」

「はい。困りました」


………にしても、僕も何故ここに来たんだろう。

何かそうしなきゃいけなかった気はしたけれど。

もう一度、彼女を観察してみる。


「ごめん。

もしかして、泣いてた?」

彼女の制服。

袖が濡れていた。

「ん、そうです。

でもそれも何でか分からないんです」

えー。

何かもう色々訳分かんないよ。


「?

ネックレスですか」

頭を掻いていると、そう尋ねられた。

「ああ、うん。

指環を下げてるんだ」

それを見せると、軽く微笑んだ。

「割りと良いセンスです」

あれ?

この子が贈ったものじゃないのか。


………でも、あの手紙とかこのマフラーとかから考えるに、この子と前の僕はよろしくやってたんだよね?

それを僕が引き継いだんだとしたら、僕は今……

ってなると泣いてたなら慰めなきゃいけない感じですかね?

漢の義務っすかね?

うーん、とはいえ僕からしたら初対面だし……

「それでは、私は失礼しますね」

そう言って、彼女は扉を開けて行ってしまった。


………何だかほっとした。

もしこれで僕があの子といちゃこらしたらそれは、何というか、ほら………

………略奪?

自分が自分のヒト寝とるというのも………アレだし………ね?


しかし、となると僕は本当に何の為にここに来たのだろう。

無駄足極まりない気がするんだけど。


さて、僕もさっさとここから出た方が良いだろう。

万に一つ、せんせーにでも見付かったら面倒だ。

いやそれだって、こんな世界なら多分どうにかしてしまえるのだろうけど。

多分、認識への干渉とかも出来てしまいそうだ。


………全く、イカれた世界だね。

しかし不思議な事に、これを「イカれている」とは認識できるんだ。

そもそも、そうとすら思わないように僕を造れば良かったのに。

解ろうとしたけれど、これはまだ出来ないようだ。

この世界の想像主。

Master……Mは何を思ってこんなのを創ったんだろう。

悪趣味……というか極悪趣味だ、爆散しろ。


こういう時は、清々しいものを見るに限る。

ポケットから手紙を取出す。

もはや精神安定剤だよね、これ。


しかし、強風。

手紙がゴミ箱へ飛んで行ってしまう。

あーもう、ふざけんなよ世界っ。

ゴミ箱の中には、プリントやら何やら、色々つまっていた。

その一番上から手紙を拾う。

全く、こんな人類の至宝をゴミ箱に入れたりなんかしちゃめっだ。

手紙の下から、ぐしゃぐしゃになった書類の山が顔を出す。

何だかやけに沢山積まれていた。


……何故か気になる。

ホント今日こういうの多いな。

いや僕まだ今日しかないんだけど。

何かよく分からないまま理解したり強迫観念したりしてるや。

良くないな、このままだとアホの子と化してしまう。

気を付けよう、僕はインテリジェンス溢れるインテリジェントのはずだ。

山の中、2番目に捨てられていたゴミ。

今は1番上。

それを手に取る。

そうするべきのような気がした。


丸められていたそれを、伸ばす。

『進路希望調査』。

何だか、拾わなきゃいけなかった理由が分かる気がする。

名前の欄には何かが滲んでいた。

なぞってみる。


…………『大神』。


そっか、これは前の僕が書いたものなんだ。

この世界に同じ名字は二人いない。

どうして、このゴミ箱に?

それは分からない。

けれど………

「?」

首元から光が漏れている。

チェーンを引くと、指環が光っていた。

反応している?

眩しい。


第1希望には、×××と有った。

誰かの、いつかの、願い。

わざわざ隠しているのだから、それを知ろうとするのは褒められた事じゃない。

それなのに、知らなきゃっていう直感と、知りたいって欲望でそれを晒していいの?


………言い訳はしないよ、ごめんなさい!

眼を瞑って、開く。

胸の中の指環が光っている様な気がした。

×××を指でなぞる。

第1希望は………


………『主人公』。


後悔と安堵が溢れる。

前の僕は、こんなにも、こんなにも、………………。

苦しみ抜いて、必要とされたくて。

特別でありたくて。

そして多分、それが叶わないまま今の僕となった。

それが解った。解ってしまった。

何故かなんて分からなくても、解った。


なら僕は何だ、どうすれば良い。

どうも出来ない。

………ホント全く、人生初日からハードモードだよね。

こんな寂しいなんてさ。

まだ、何も分からない。

彼女の事、彼の事、僕の事、この世界。

今まで。

そしてこれから。


知るべきだろうか。

僕がこうしてここに来る前に有ったのは、きっと寂しい事だ。

少なくとも、どうも感受性豊からしい僕にはそうだし、ヒト1人消えたまま、なんてのは絶対にダメだ。

彼を連れてきて、彼女に会わせてやるべきだと思う。

この精神安定剤も、マフラーも指環も返さなきゃいけない。

まあなら、僕は知るべきだ。

知らなくちゃいけない。

でもそしたら、僕はどうなるのだろう。

彼の代わりが僕なら、彼がもう一度表れたら、僕は。

彼のように消えるのだろうか。


不安はある。

けどま、ここで退く訳にはいかないよな。

一丁カッコつけるとしようか。


彼は自分を主人公じゃないと嘆いたらしいけど。

少なくとも僕は主人公だ。

それは力があるからじゃない。

だれだってそうなんだ。

他人からなんて思われようと、世界にどう定義されようと、自分をモブだなんて思ってたまるか。


再び、風が吹いた。


凍えた空気が、部屋の中を巡る。

不快じゃない。

むしろ興奮してる。


さ、まずはここを出るんだ。

手紙も、指環も、マフラーもポケットに仕舞い込んで。


朝焼けが、最後に輝き。


彼の物語をまた始めるために。

オープニングを終えて。

僕のゲームを始めよう。


一歩踏み出して、部屋を後にした


_____________________


/Continue…………?


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