短編:アインムーバー~人機一体のワンマンアーミー~

MrR

ヒトの意味

 Side ???

 

 自分が何者なのか思い出せない。


 ただ分かる事は自分はもう人間ではないことだ。


 緑色の鉄の体。


 人間を握り潰せそうな大きな手。


 建物が大きな玩具に見えそうな程の巨体。


 それが今の俺の体だ。


 意識がハッキリした時、俺はワケも分からずに飛び出した。


 理由なんて分からない。


 ただこの国――ディアン帝国には何の義理も感じなかった。



 ひたすら走る走る。


 アインムーバーは基本核動力だ。


 無限のエネルギーだ。


 だからなのか不思議な感覚だ。


 腹も減らず、疲れも知らない。


 眠りたい時はマシンの補佐で好きな時に好きなだけ眠られる。


 そんな事を想うとつくづく自分は人間じゃないんだと思い知らされる。



 人目を避けるように国境線を越え、俺はスレイと言う国に来た。


 目撃したのはディアン帝国のアインムーバー部隊とスレイのアインムーバー部隊とが戦っている光景だ。


 ディアン帝国のアインムーバーはゴライア。

 角張っている外観のアインムーバーだ。

 装甲もあり、パワーもある。

 自分の体の元になった機体だ。


 スレイのアインムーバーはディエッタ。

 ゴライアといい勝負をしている。

 乗っているのは通信からして少年兵達のようだ。


 アインムーバーは量産性が高すぎるせいで乗り手が足らず、子供すら前線に送り込む国が後を絶たない。

 ディアン帝国のように無人機開発に力を入れるのも無理からぬ話だ。


『な、なんだ、敵か!?』


『こんな場所でうろちょろしているゴライアなら帝国の連中だろう!!』


 どうやら気づかれたらしい。

 スレイのアインムーバー達が銃を向けてくる。

 俺は(そういや俺、丸腰だったな)などと思っていた。


 すると都合良くディアン帝国の増援が到着する。

 俺は『丁度良かった――』と行ってディアン帝国の増援へと向かう。


 後ろの方で『あっ!?』と言われたが俺は構わず体内に仕込まれた胴体の機関砲を発射して敵のアインムーバーを攻撃する。


『き、キサマ!? なんのつもりだ!?』


『味方じゃないのか!?』


 当然の事を言われるが――


『生憎俺はディアン帝国が嫌いでね!! 好きにさせてもらうさ!!』


 そう言って先頭のアインムーバーから武器を奪い、銃を発射して時に剣で叩き潰す。

 

『ゴライアなのに動きが速い!?』


『散開しろ!!』


 俺は『もう遅い!!』と思った。

 昔の槍と弓のような時代の軍隊のように密集した状態で白兵戦を持ち込まれると銃は使えない。使うと同士討ちになるからだ。


 対して自分は一人。

 敵を盾にして思う存分武器を乱射できる。


 それに相手の動きがとろい。

 まるでブリキの玩具を相手にしているかのようだ。



 戦いが終わり、改めてスレイのアインムーバー隊に囲まれる。


『本当に味方でいいんだな?』


 隊長らしい少年が声を掛ける。


『ああ。ワケありの体だがな』


『どう言う事だ?』

  

『見て貰った方が早いな』


 そう言ってコクピットハッチを開ける。

 静寂が身を包んだ。

 暫くしてから誰かが言った。


『な、なんなんだよソレは!?』


 と。

 まあこれが当然の反応だわな。


『さあな。人間をアインムーバーの一部にする、Xデバイスって奴らしい。俺がその成果の一つだ』


『そんな研究を帝国はしているのか?』


『俺がその証拠さ』

 

『狂ってる・・・・・・』


 狂ってるか。

 確かに狂ってるな。


『まあ俺は何の間違いかこうして自我を持ってるのさ』


『・・・・・・信用していいのか?』


『逆に聞くが、人体をアインムーバーに埋め込んでパーツにするような連中に忠誠心が湧くと思うか? それにここまで暴れたんだ。ここまで来たら一蓮托生だ』


『分かった。信じよう』


『助かる』


 隊長の少年は思いの他肝が据わっているらしい。


『まあ整備は帝国の連中の棺桶から拝借すればいいか』


『上にどう報告するんだこれ?』


『まあ俺達みたいな少年兵なんて使い捨てだし、適当に報告するいいんじゃない』


『そうそう。私達の代わりなんて幾らでもいるとか言うような連中だしさ』


 どこの国もなにかしらの問題を抱えてるんだなとか思った。

 

 まあそんなワケで俺達はこの少年兵の部隊と一緒にしばらく過ごす事になった。


『そう言えば名前を聞いてませんでしたね?』


『ああ、名前は――』


 思い出したかのように俺はこう告げた。


『俺の名はトラヴィスだ。よろしくな』



 こんな身の上だ。


 最初は警戒されて距離を取られたが慣れと言うのは恐ろしいと言えばいいのか。

 

 ディアン帝国の連中を倒して行く内に敵味方ともにディアン帝国の凶弾の二つ名で恐れられるようになってしまった。

 

 自分達を受け入れてくれた少年兵達の担当戦域が静かな時は静かで、激しい時はとても激しい。


 帝国の連中は俺を殺したくて躍起になっているようだった。


 ある時、少年兵の連中に尋ねられた。

 敵からの攻撃をガキ共から庇って右腕が吹き飛んだ時の事だ。


 どうしてそこまでして戦ってくれるのかと。


 俺はこう答えた。


『正直俺もよく分からん』 

 

 と。


 本音を言えばお前らガキ共がほっとけないと言うのが本音だったが照れくさいので誤魔化して置いた。

 

 家族を持つ親の気持ちってのはこう言う事かもしれない。

 

 出来れば長く続いて欲しいと思った。



『まさか俺と同じ身の上の無人部隊とはな・・・・・・』 

 

 動きからして自分と同じ身の上の連中だろう。

 違いは自我があるかないかだけ。

 だが動きは素早いが単調なのでどうにでもなる。

 

 だが数が多い。

 

『よくもまあこんな失敗作どもを揃えたもんだ!! 帝国って本当にクソだな!!』 


 と言いつつ敵を引きつけ、傷つきながらも確実に一体一体倒していく。


 それを何時間続けたか。


 無傷とはいかなかったがようやく全機倒した。


『チッ――やっぱり潜んでやがったか・・・・・・』 


 そして敵の増援。

 かなりの大部隊だ。

 目的は大方俺だろう。

 

『トラヴィスさん、援護――』


『お前らは逃げろ!!』 


 子供達はもう限界は近い。

 

『でも――』


『お前らはまだ未来がある。その未来に進む義務がある。このクソッタレな戦場で死ぬ事は許さん』


『あっ――』


 俺は子供達を置いて敵の大部隊に特攻した。


 これが俺の旅の終着点だろう。



 悪運が強いらしい。


 なんだかんだで生きていた。


 あのガキ共、俺の言う事を聞きやしなかった。


 自分の体がどうなっているのか考えたくもないが、補修用のパーツは腐る程、その辺に転がってるので整備のおやっさんが頑張れば戦線復帰は可能だ。


 それよりもこれからどうするか。


 ディアン帝国もクソだがスレイも大概だ。


 面子だどうとかで上手い具合に上層部に手柄泥棒されているしな。


『・・・・・・なあ皆、考えた事がある』


 ふと子供達のリーダーがそう言った。


『俺は――軍を抜けようと思う』



 俺は子供達と一緒に軍を脱走した。

 

 スレイの軍上層部では適当に名誉の戦死として報じるつもりだろう。


 もしくは口封じのために追っ手を差し向けるか。


 ともかく戦争とは無縁な平和な国にでも潜り込むなり亡命するなりして暮らそうと考えた。

 

 そこで皆と暮らす道を模索したい。


 俺達はそう思って前に進む。

 

 何時かこの体が朽ち果てる身だとしても今の俺には希望や未来がある。


 不安は感じなかった。

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