本日、魔女の処刑が行われる
あきかん
判決 魔女ムーラン・ルージュを火炙りの刑に処する
主文
魔女ムーラン・ルージュを火炙りの刑に処する。
この判決確定の日より1年後、龍創紀1967年10月7日16時47分より刑を執行するものとする。
事実
被告人、魔女ムーラン・ルージュは龍創紀1962年4月17日明朝、聖職者以外の者の立ち入りが禁止されている禁聖区キララウス山に無断で侵入し、神龍ニーズヘッグを刀剣により逆鱗を刺し殺害。同日、祈祷に訪れた司祭により神龍ニーズヘッグの死体の横にいる魔女ムーラン・ルージュが目撃された。司祭は警告を発するも魔女ムーラン・ルージュは摩訶不思議な術を行使し逃亡をはかる。後日、4月23日3時ごろ、厳戒態勢のなか祀られていた神龍ニーズヘッグの死体が発火。これもまた魔女ムーラン・ルージュの犯行であると本人が後に証言をした。
争点
争点は①キララウス山への無断侵入②神龍ニーズヘッグの殺害の是非である。
①魔女ムーラン・ルージュの禁聖区キララウス山への無断での侵入は罰せられるべきなのか。神竜ニーズヘッグの伝承によれば、かつてキララウス山は魔女ムーラン・ルージュの物であった。しかしながら、創世紀の大戦で神竜ニーズヘッグが降臨した際に、この地をニーズヘッグ及び神聖国家ゼスティリアに明け渡した、とされている。この伝承が真実であれば、魔女ムーラン・ルージュのキララウス山への侵入は神龍法第二条の、神竜ニーズヘッグに認められた者以外の立ち入りを禁じる。との条文には反しないとも考えられる。この伝承にはいくつか異なるものがあり、神学者によりこの点の是非を明確にする必要がある。
神学者アラババイスの見解によれば、魔女ムーラン・ルージュによって召喚されたのが神龍ニーズヘッグであると言う。創世紀前の碑文や伝承を辿ると、大戦が勃発して間もない頃、侵略者一行に対抗していた勢力において魔女ムーラン・ルージュは重要な地位にあり、この侵略者に対抗するために編み出した秘術こそ神龍ニーズヘッグの召喚術であった、と記されている。
この説には1つの疑問が残る。創世紀の大戦において最大の功労者であるはずの魔女ムーラン・ルージュが信仰の対象となっていない事だ。少なくともそれなりの地位にあって然るべきであるが、現在、神聖国家法において魔女ムーラン・ルージュは一般市民と同等の地位にある。
これに答えたのが神学者マブラハマスだ。神龍ニーズヘッグを利用した魔女ムーラン・ルージュに対して、神龍ニーズヘッグが激怒し仲違いした、という説だ。大戦後、魔女ムーラン・ルージュは辺境の町ベルエポックに引き籠もる。それは現在捕縛されるまで続いた。故に神龍ニーズヘッグと何かしらの因縁があり、それを鑑みて時の帝王ポナパルトは魔女ムーラン・ルージュを一般市民の地位に留めたと考えられる。
この両者の意見を参考にするのならば、魔女ムーラン・ルージュの禁聖区キララウス山への無断侵入は神龍法第二条に反するものである。今回の裁判の為に集まって頂いた神学者十名中八名もこの判断を支持するとの意見を述べている。
②神龍ニーズヘッグの殺害は本当に魔女ムーラン・ルージュによる犯行であるのか、本人の自供のみしか証拠がない。現場検証を行うにしても、殺害現場は神龍ニーズヘッグのご遺体共々紅蓮の炎で灰燼となってしまっている。魔女ムーラン・ルージュが神龍ニーズヘッグを殺害したという客観的証拠がない。
しかし、神龍ニーズヘッグを刺した刀剣が魔女ムーラン・ルージュの物であると推定するに十分な検証がなされた。検証した刀鍛冶全員が自分には作れない、と証言した。刀剣の硬度及び血を帯びてなお衰えぬその切れ味は、ただの刀剣ではなく魔剣と呼ばれる類の物だろう。
ここで伝承に再び触れるが、かの侵略者は魔剣と呼ぶに相応しい刀剣を有していたとされている。魔女ムーラン・ルージュは、侵略者を撃退した後にこの刀剣等の装備品を自らの物とした、と語られている。故に、この度の事件で使用された刀剣はこれらの物の1つであるとしか考えられない。神龍ニーズヘッグの殺害に魔女ムーラン・ルージュが関与した決定的な証拠である。
理由
魔女ムーラン・ルージュの禁聖区への無断侵入は、一般市民と同様に認められるものでは無く、厳罰をもって処するべきだと考えられる。
(中略)
また、神龍ニーズヘッグの殺害に至っては、本人による動機の証言もない事から反省の色もなく、社会全体へ与える影響も考慮し、火炙りの刑が妥当である。
龍創紀1966年10月7日
神聖国家最高裁判所
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