異世界の不思議道具店
蒼猫
第1話 異世界
人生は何が起こるか分からない。例えばそう、いつの間にか異世界に来てしまっていたりとかね。
異世界に来るなんて、映画や小説のような出来事だと思う。目が覚めると周りには何も無い草原の上いた。その時は、自分の頭がおかしくなってしまったのかと思った。
ただいつも通り、学校に通って家まで帰る。その日は疲れていて、部屋着にも着替えず制服のままベッドで寝てしまっていた。それが、いつの間にか草の上にいる。信じられるか?とても信じらることではないと僕は思う。
何の変哲もない日々。何にも成れず、何にも成せない。そんな人生がだらだらと続いていくものだと思っていた。
目の前にある、いろんな色の液体が入ったガラスの小瓶を、割らないようにそっとカゴに入れる。小瓶が置いてあった棚をタオルで拭いて、カゴから取り出し、小瓶を置き直す。
棚の後ろの窓から差し込む光が、小瓶に反射してキラキラと輝いている。隣の棚に目を移して、同じように拭きあげていく。
瓶に詰められている大きな飴玉に、籠に並べられているクッキー。夜空のような色をしたランタン。赤や青の小さな宝石がはめ込まれた杖。綺麗な模様が彫られた道具箱。
僕には何に使うのか想像もつかない、不思議な道具が沢山並べられている。
次は窓だ。ぐっと背伸びをして道具を手に取ろうとした時、後からドアを開ける音と共に僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。後ろを振り返ると、道具が入った木箱を抱えた女性が立っていた。
「もう道具並べ終えちゃった?これも並べて欲しいのだけど。」
僕がいる部屋をぐるっと見渡して彼女は申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
そんな顔されて、断るような男はいないだろう。
「大丈夫ですよ。並べておきます」
窓の掃除をするための道具を置いて、木箱を受け取ると、彼女はありがとうっと言って素敵な笑顔を浮かべている。
今更だがこの素敵な女性はマリンさん。薄水色の長い髪で、美人さんだ。いつも笑顔でとっても可愛らしい。マリンさんの笑顔の為に異世界で生きていると言っても過言ではない。
ちなみに、僕の名前は真白。異世界に飛ばされた高校生だ。これで十分だろう。
10秒ほどマリンさんを眺めた後、我に返ってそっと視線を木箱に移す。
木箱を机に置いて、中を覗く。中には、よく分からない歯車と鈴のついたお守りのようなもの。それと、宝石がはめ込まれた杖。
歯車やお守りは並べていた時にはなかったものだ。この杖はさっき見たものと一緒の見た目をしている。ただはめ込まれている宝石の色が違う。赤や青じゃなくて琥珀色をしている。何が違うのだろうか。
道具をじっと見つめていた僕に、マリンさんが説明してくれる。
「その杖は乾燥させる魔法で、こっちの歯車は植物の時を止めるの。」
魔法。異世界なだけあって、この世界には魔法が存在している。それに、人間以外の種族も。僕は見たことないけれど。
それに、魔法があるとは言っても、全員が全員つかえる訳では無いらしい。
自分にも魔法の力が目覚めたり、凄い力が宿ったり、なんて、よくあるファンタジー小説のような出来事が起こることはなかった。
異世界に来て数週間。僕が会った人の中で魔法が使える人はマリンさんだけだ。マリンさんは特別なのだと、出会った人が話していた。
「鈴がついているのはお守りね、ケガしないようにマシロも持っていて。」
そう言って差し出したお守りを有難く受け取った。リンと鈴の音が1回鳴る。
それから、動かしても鈴の音は聞こえなくなった。
このお守りも魔法がかかっているのだろうか。少し、いやとても気になるけれど、今はこの木箱に入っている道具を並べてしまおう。
歯車を小さな箱に入れて、机に置く。杖は色ごとに分けて、赤と青の杖の隣に。お守りはカウンター横にかけておけば大丈夫だろう。
「マシロ。私は奥に戻るわね。」
マリンさんが、後はよろしくね。と言って僕の手を握る。そして、奥の部屋へと消えていった。
僕は握られた手を少し見つめて、今日も一日頑張れそうだとか考えながらドアを開けて外に出る。単純?僕もそう思う。
いかにもファンタジーです。と言っているような外観の家のドアに、この世界の字でオープンと書かれている札をかける。
周りのには草原が広がっていて、少し遠くに、街を囲んでいるであろう壁が見える。
大きく息を吸い込んで深呼吸をして、また家の中に入る。
少し前の僕は、いつの間にか来てしまった異世界の魔法の道具を売っているお店で働く、なんて思いもしなかっただろう。
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