プロローグ
彼女は空を見上げて、もう
大陸の北に位置するロデニウム国──その王都ラファエラよりさらに北にある大地は、一年のうち三分の一は雪に
針葉樹に囲まれた中にあるコの字形をした優美な
離宮の
長いまつげをそっと
──
ふと、ずいぶん昔に言われた言葉が
──大丈夫。きっとこの子は──……。
思い出して泣きたくなっていたら、ホゥ……、と遠くで
冷たく、そして何もかもをあきらめたような、
彼女はきゅっと
プロローグ
大陸の北に位置する大国ロデニウム。
王都ラファエラにある城の国王の私室には重たい空気が
年の割りに童顔なことを気にしているロデニウム国王チェスターは、童顔対策に生やしている
息子は金色の目をじっと父の方へ向けていたが、それは明らかに
生まれてすぐに
「ユーリ……」
息子と二人きりなのもあり、王の
「これはそなたのためでもあるのだ。可能性はわずかでも残しておいた方がよいし、それに……」
「二十年前にそう言って
ユーリの口から冷ややかな返答がある。
うぐっとチェスターは黙り込み、それから大きく
「だって考えてみろ。ノーシュタルトがここまで手こずるとどうして想像できたのだ。私だって文句を言いたいのを
「我慢した?」
「……いや、相応の文句は言ったが、だが、これでもかなり
「だろうな。ノーシュタルト一族相手に
ユーリは金色の
「別にいい。俺はすでにあきらめているから。だけど、呪いに関してはあきらめていても、これ以上の
「
「あたりまえだ!」
ユーリが
ユーリははあと息を
「ユーリ」
「わかっている。呪われていても王子だ。後に引けないなら引き取ってやる。だけど、送られてきた嫁をどう
ふんっと鼻を鳴らすユーリにチェスターはひとまずほっとして、それからその背中に
「母に、会って行かぬのか?」
ユーリは
「俺を見たらあの人は泣くから、だから、このまま帰る」
チェスターは「そうか」と目を伏せて、息子が去って行くのを黙って見送った。
* * *
大陸の西の果て──
ノーシュタルト一族の暮らす半島で、少女は
つぎはぎだらけの色あせてくたびれたワンピースのスカートを、きゅっと
「お前の
それは、少女の十七回目の誕生日の朝のことだった。ノーシュタルト一族の
(……嫁ぎ、先)
少女──エレナは自分の未来に、
けれどもエレナには、父の言葉に
父からの命令──いや、この地に住まうノーシュタルト一族の人間からの命令は絶対で、エレナに口答えする権利は
もちろん、
だが、父がわざわざエレナに説明するはずもない。何故、どうして──そのような疑問を持つことすら、エレナには許されていない。
どこの誰に嫁ぐのかとも、いったいどうして急に嫁ぎ先が決まったのかとも、それが本当に嫁ぎ先なのかどうかも
「わかり、ました……」
どこへ行こうともエレナの生活は変わらないだろう。
なぜならエレナは「無能」なのだから。
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