第44話 チェンジ


 剣を構えて、横に剣を水平に振る。レクシアの剣で斬った巨人の皮膚からは禍々しいオーラが消えた。


 よし、と勝機が見えたら、それを繰り返すだけだ。


 禍々しいオーラが消えた所に回し蹴りをして、巨人を吹っ飛ばす。



「チェンジ」「チェンジ」「チェンジ」「チェンジ」と、繰り返す。


 チェンジをして、斬って吹っ飛ばすまでがセット。


 光の矢は減ることは無い。場所を入れ替えているだけだからな。



 すっかり禍々しいオーラが無くなって、裸になった巨人を見下ろし、上段に剣を構えて、


「チェンジ」


 叩き落とす。


「グェ!」


 巨人がくの字に曲がり、短い声を出して、一瞬で地面に落とされた。


 地面も剣で斬られたように割れ、巨人がいる地面にはクレーターが出来ていた。



 ふぅ、とポーチから杖を取り出して、呪いを解く。



 俺も地面に着地する頃には呪いも治り、杖をしまった。


 レクシアの剣を持ってても、禍々しいオーラが俺から湧くことはなくなった。巨人になってから取得したスキルは消滅したと言うことだろう。


 クレーターの中を覗くと、巨人は四つん這いになろうとして失敗していた。


 手も足も歪に曲がっているからか、身体を支えること自体無理なのだろう。



「グェア゛アアァウ」


 巨人は俺が見ていると分かると、首をコチラに向ける。


 目が無いのに俺が見えるのか? と、今更そんな事が頭を過ぎる。


 身体を支えることは不可能でも、身体の位置を変えることは出来るようだ。


 巨人は頭はないが、首を下げる。敵対の意思はないと言いたいのか? 犬みたいだ。


「頭が無いから、これがシャリルの本能か?」


 強い者に媚びて、弱い者にはキツくあたり、強い者にも隙をついて寝首を搔く。


 ノエルには負けるが、シャリルも顔は良かったからな。


 顔も無くなって、首無しの巨人になれば、その醜悪さに磨きが掛かる。


 俺はレクシアの剣をしまってから、タダの剣を取り出す。


 もう曖昧な死は消滅した。じゃあ殺すか。



 マナを無尽蔵に剣に注入する。身体全体をマナが激しく加速する。


 剣を上段で構えて、集中する。


 何故か巨人がバタバタと手や足を動かした。俺に命乞いをしても助からないと思ったんだろう、賢いな。


 その通りだよ。



 マナをしっかりと取り込んだ剣。


「死ね」


 上から下に振り下ろす。



 パチパチパチと青緑の火花がクレーターに咲き乱れると、その瞬間に天まで届くような光りがクレーターを起点に立ち昇った。



 光りが収まると、巨人なんかはチリも残さずに消えていた。



「終わった」


 俺は別に神になろうが、勇者になろうが、どうでもいい。だが、ノエルに危害が加わることになるようならダメだ。


 次に目の前でノエルの友達が危害を加えられているもダメだ。


 それ以外なら好きにやればいいが、勇者とシャリルはやり過ぎた。


 テトナはノエルと友達だが、俺とも友達らしいからな。親友って言っていたかな。



「お兄様ぁ!」

「とッ!」


 ノエルが俺の背後から勢い良く抱きついて来た。


「なんだノエル?」

「神の頃の記憶も戻って、久しぶりにお兄様に会えたらその止まってた時間の分なんだかずっと会えなかったみたいに思いまして、私は今はそんな複雑な気持ちです」


「そうか、俺はどんな時でもノエルに勢い良く抱きつきたいけどな」


 ノエルは背後から抱きつくのを止める。俺がノエルと向き合う形に振り向くと、また抱き着いてくる。


 ボロボロになった剣を手放して、ノエルに抱きつく。


「お兄様」

「ノエル」


 俺はノエル成分を身体に取り入れる。


「あんたら兄妹なの分かってる?」

「あぁ、分かっているが? 今は心は兄妹でも、身体は他人って言う複雑な状況だ」


 ソフィアが俺とノエルの兄妹の再会にケチを付けてくる。


 ソフィアの肩を借りてテトナも来ていた。


 俺がノエルが抱き着いたままにポーチを外して、テトナに投げる。


 テトナはポーチがなんなのか分かっていなかったから、「そのポーチの中には杖が入っている」と言うと、ソフィアから離れて、ポーチから杖を取り出す。


 杖を取り出した瞬間から羽根が元に戻り、テトナはみるみる回復した。


 そしてちっこい妖精シフルもテトナの後ろで涙を流していたが、テトナの回復を見て、嬉しい泣きに変わっていた。


 おっと、俺に周りを見ている暇はない。


 ノエルとの再会を十分に堪能しなくては。

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