第35話 虹色の羽根


 僕の役目は簡単だった。


 妖精の国に入って羽根が生えた女の人が出てきたら、神器の斧を持っているだけで良いと教会の人、シャリルさんに言われたのだ。


 羽根が生えた女の人は妖精で、妖精が剣を手放したら、神器の剣でトドメを刺せと命令をされていたが、剣を離すことはなく。僕がトドメを刺すことはなかった。


 妖精は死体に押しつぶされ、人たちに四肢を掴まれたところで、シャリルさんは現れた。


「テトナちゃん、なんで妖精を逃がした? 妖精は貴女の目となり耳となるのに。妖精たちと一緒に迎えられていたら、ちょっとは違う未来があったんじゃない」


 シャリルさんが人たちに立たせてと言うと、人は死体を動かして、妖精を立たせた。もちろん四肢を掴まれたままに。


 シャリルさんは立たした妖精を的にして、弓を引く。


「グッ!」


 矢を離した瞬間に、妖精の右腕に矢が刺さった。それをシャリルさんは一本二本と淡々と行う。


 光の矢は消えるが、妖精の身体は無数の穴から血が吹き出していた。


「私も親友のテトナちゃんにこんな事はしたくないの。早くレクシアの剣を離して」

「私な離さないことぐらい親友なら分かるでしょ?」


 シャリルさんが妖精からの視線を切ると、指を鳴らした。すると地面刺さっている二本の矢が人に変わって、二人が妖精の後ろについた。


「やれ」


 シャリルさんが一言呟くと、妖精の羽根を持って引っ張り始めた。


 ビリビリと、羽根が破れる音がする。


「あ゛がッ! ギッ!」


 妖精は短い悲鳴を上げながら顔を涙で濡らして、シャリルさんを睨んでいる。


 薄く虹色の綺麗な羽根が妖精から取り外されると、歯を食いしばってヨダレを垂れ流している妖精の瞳が上に向く。



 そして妖精はヒビが入った剣を落とした。


「さっさとレクシアの剣を私に上げれば、綺麗な姿で殺してあげたのに」


 シャリルさんは「ねっ」と、僕に同意を求める。


「はい、そうですね」


 僕でも分かった。この人には敵になって欲しくはないと。




 ちぎった羽根をシャリルさんに持ってきた人たちは矢に変わり、羽根は地面に落ちる。


 その羽根をシャリルさんは足で地面と擦り合わせる。


 妖精の四肢を掴んでいた人たちも矢に変わり、妖精が倒れた。



 羽根をボロボロにした後に、シャリルさんが動く。


 今さっきの真剣さが嘘のようにシャリルさんはにこやかに笑っている。


 シャリルさんと気絶した妖精との距離が近づいていく。


「シャリルちゃん楽しそうですね。私も混ぜてくださいよ」

「この声は!」


 シャリルさんの行く道を阻む形で、盾が出現した。


「おい勇者! 盾はどうした!」

「え? ノエルを守るために貸しましたけど」

「お前は、それがどう言う事になるか分かっているんだろうな!」


 なんで僕がここまで言われないといけないんだ。どういう事になるか分かっている? 知るわけないだろ。


 妖精の傍にいつの間にかノエルがいた。


「あら、佐藤さんに言うことではないと思いますよ」


 佐藤? 僕の名前だ。


「ノエル! 佐藤って誰だ! お兄様って言え」

「私のお兄様はお兄様だけです。佐藤さんには悪いですけど、もう貴方をお兄様とか言えないです」

「またお仕置が必要になったんだな」


 僕の言うことを聞かないノエルが悪いんだ。ノエルが悪い、ノエルか悪いノエルが悪い。


 ノエルか悪いと頭の中でずっと反復している。


「まて!」


 シャリルさんに大きい声で待てと言われたけど、僕はノエルにお仕置しないといけないんだ。


 両手斧をポーチにしまって、剣と銃を取り出す。


 もういいや、結婚式まで取っておこうと思ったのに。


 僕は剣で時間に傷をつけて、時間停止をする。


 皆んな止まった時間で、僕だけが動ける。


 その優越感で満たされ、ノエルの為に使っているんだと悦になる。


 これはノエルのファーストキスを奪って、胸の感触を堪能しないとお兄様の怒りが収まらないぞ。


 最後に洗脳の銃で記憶を破壊して、僕をお兄様と言うように。


 帰ったら、僕がお兄様として、ちゃんとベットで躾ないと。


 グへへと笑いが止まらないが、ヨダレを拭いて、と。



「え?」


 僕がノエルに行く道が盾で阻まれている。


 どう言う事だ!


 移動しても盾が着いてくる。時間は止まっているのになんで着いてくるんだよ!


 剣で銃で斧で刀で、時間が戻るまで攻撃しても、効かなかった。


「なんで、なんで、なんでぇぇぇえええ!!!」

「何かやりましたか? 佐藤さん」


 ノエルの腕に盾があり、僕はシャリルさんが言っていた、どういう事になるかが分かった。



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