第29話 全能の剣



 テトナは俺にマナを注ぎながら静かに泣き喚いていたが、随分な時が経ち、涙も止まり落ち着いた。



 テトナの言うことが本当なら、俺は記憶の書き換えと、成長の時間を弄られて、神の力をも奪われたことになる。


 散々だな、俺は。レクシアの名前はムーリク王国にある教会の名だ。俺を祀った教会だったとはな。


 神の時の俺が、テトナにヒビの入った剣の神器を渡したと、じゃあノエルが神の時に持っていた神器は盾か。


 神の力っていったいなんだ? 神器と何が違う。


「神にはそれぞれ力と言った形で役割が存在してたんだよ。ある神は時間を、ある神は空間を、と言う風に役割を司る神として存在してたんだ。神の力が無いと神器無くしては神の力を使えなくなる」


 神器の剣は時間、弓は空間、それなら分かる。


「神器はその役割の力を具現化したものだよ。この世界は目に見える力が武器として存在したことで変わってしまった。最初は神たちは自分の信者に神の力を分け与えるために武器を創ったんだ。なのに」


『神も、人と変わらないな』

「君の思う通りだよ。神は、他の神の力が欲しくなり、一人の神が力を、役割を奪ったことで争いが起こった。そして君たちを犠牲にして、この世界は助かったわけなんだけど」

『神同士が争っただけで、世界が助かったわけではないだろ』


 聞いてれば神同士が争って、俺たちは敗北したのに、この世界はまわっている。世界中も巻き込んだ争いと言うよりも、身内同士の争いと言う方が合っている。


「それは違うよ。相手の神たちは神だけの世界にしたかった、でも君のおかげでそうはならなかった」

「俺のおかげ?」

「その場にいた神たち全員は、君の力のおかげで人に成り下がったんだ」


 神の力を奪われたと思っていたが、自分から捨てたのか。


「神はこの世界に私しか居なくなった。人に成り下がった神たちは、唯一の神の私が怖くなった。そして負けた君たちを殺さないで、神としての記憶を消し、赤子にして私に返した。それもノエルが考えたか、君が考えたのか分からないけど、命を繋いで世界も助けるなんて、あの時の私は考えつかなかった」


 テトナは俺たちの親友だと言う、人の身では神に敵うかは分からない。だから勝利した神たちも、負けた俺たちを殺すことができなかったのか。


 俺たちを殺したら、テトナが動く可能性があったから。


 俺の神器があるなら、その神器を俺に渡せば、そうしたら勇者の奴とも神器ある者同士で戦えたんじゃないのか?


「それ本当に言っているのかい?」

『もちろん冗談だ』


 そう、神器の剣を持って行っても時間を停止されて、剣を取られてボコボコにされていた。


 テトナも神器を持った勇者が現れるとは思わなかったようだ。ノエルの死は予知したけど、死ぬ方法が分からないと言っていたしな。


「私が持っているレクシアの剣を持ってたら、結末は違った。レクシアの剣は全能の剣、何にでもなれて、何にでもなれない剣」

「それは?」

「簡単よ、相手がスキルを使えば、その場にいる全員同じスキルを使える。で、全能の剣からスキルを使った人がダメージを受ければ、そのスキルは消える、そのスキルが復活する事はないわ」


 だから神は人に成り下がったのか、まだ神器があると言うことは武器のスキルは消せないと分かる。


 レクシアの力を知ってれば、神たちはレクシアに手を出さなかったはずだ。神だけの世界を創る計画を進めていればなおらさだ。


 あぁそうか、俺だったら、平等に力を振りまける力だと言って、スキルが消えることは話さないと思う。


「そうだよ、私にも話してくれなかった。争いが終わった後にレクシアが人に成り下がった事を発表したらしい。私は見てないけど、赤子の君を神たちは凄い剣幕で睨んで、人に成り下がった経緯を説明してくれたよ」


 ほう、神の時の俺も随分と愉快な奴だったのだろう、レクシアも俺と性格は似ているようだ。


「私が君に神器を渡さなかったから……」


 またテトナが泣いた。しょうがねぇなと、腕に力を込める。俺の胸辺りに両手を置いているテトナの手に俺の手を置いた。


 テトナはビクッと肩を震わせて、目を閉じる。


『神器を持った勇者が現れることもお前は知らなかった。俺に神器を渡していたら、人に成り下がった神たちがお前を殺しに来るかもしれない。神の力を持っているお前が狙われなかったのは、レクシアの剣を持っていたからだろ』

「それはそうだけど、でも!」


『でもじゃない。お前を守りたくて、神の時の俺はお前に神器を渡したんだと思うし、それ返してくれだなんて言えねぇよ。さっきも言ったろ冗談だと』

「うぅ〜」


 テトナが可愛く唸っている。


 人に成り下がった神たちの狙いは、テトナだろう。テトナには予知があるから、もしも神器を持った勇者が来ると分かったら俺にレクシアの剣を上げただろう。


 そして何も分かっていない俺が勇者に倒されると、神たちはテトナを殺しに行ったと予想できる。


 それはノエルの死だけを見たテトナの予知で失敗に終わった。


『神たちに俺は生きていると思われているのか?』

「もう君は死んだことになっている。どうせ君たちはオマケだよ、次に狙われるのはこの国だ」


 そうか、神たちは随分と身勝手だな。


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