第28話 親友の神たち


 俺は、死んだのか。


「ゴホッ、ゴホッ!」


 肺に水が入ってたらしい、息が出来るということは、地上なのか?


 柔らかいベットにフカフカの布団。海に落ちてからの記憶が無い、誰かに助けられたのか?


 目を開けようとするが、指すら動かず、瞼すら開けれない。本当に俺は力を全て使い果たしたんだなと思った。


 俺の身体は無事かは、分からない。足と腕が無いと言われても、今の俺なら信じそうだ。


 レベルの高い回復スキルを持った奴がいたって、俺のこの身体はすぐには動けないだろう。


 勇者に負けてから何日経ったのか、何十日経ったのか。



 神器を持った勇者に、俺の全てを取られた。


 俺の全てと言っても、俺の全てはノエルであり、ノエルが俺の全てだ。


 小さな時から二人で一緒の時間を生きていたんだ。テトナが言っていたノエルは死ぬと。もうこの世界にノエルがいないなら、生きている意味が無い。


 クソっ!


 俺はノエルを守れなかった。


 手が動くようになったら、俺は俺自身の手で首をはねる決意をする。



「まだノエルは生きていると言ってもかい?」


 俺はこの声を聞いたことがある、人の神経を逆なでする声、世界樹のテトナだ。


 世界樹だったら、俺を助けられただろうなと納得する。


『ノエルは生きていると言ったのか?』

「あぁ、生きている。君が知っているノエルは居なくなったけどね」


 この世界樹は俺の心の声が聞こえるらしい。


『この世界にはノエルが居て、俺が知るノエルが居なくなった。どういう意味だ』

「セニファトスの銃の力で、記憶を書き換えられているのさ」


『それはもう元には……』


「戻らないだろうね、神器はそれほどに強力だ」


『ノエルは助けても、もう戻らない。いや、神器を持った勇者が相手じゃ、殺されに行くようなものか』

「そう、だね」


 鼻で笑ったように言葉にして思うと、テトナの悔しそうに泣きそうな声が俺の耳に届いた。


 テトナはノエルを気に入っていた、友達になったほどの気に入りようだった。


 でだ、俺は世界樹なら俺を助けられると思った。だが、俺を助ける理由がどうしても考えつかなかった。ノエルのお兄ちゃんだからか? 元勇者だからか?


『ノエルを助けられなかった俺を、何で助けた』

「……」

『助けた俺がまた勇者に挑んで、奇跡的に勇者を倒せると思ってんなら、そんな奇跡は起こりえない。それほどに神器の強さは次元が違った』


 ノエルの死を俺に伝えて、奇跡に掛けたんだろう。その奇跡を俺は創り出せなかった。


 神器を持つ勇者は化け物だった。俺は本気を出しても傷一つ、勇者に付けられなかったんだからな。



「君には生きて欲しかったんだ」


 テトナの真剣味を帯びた声を聞き、微かに目が開いた。


 すると目を疑った。テトナが涙を流しながら、俺の胸の辺りに両手を付け、大量のマナを注入していたからだ。


 ココは妖精の国の世界樹の中か? 俺の感覚は当たったようで、ベットに寝かされている。


 目をキョロキョロされると、部屋には姿鏡があって、そこに映った俺の身体は骨と皮だけと言う感じだ。生きているのが不思議なぐらいだった。


 あぁそれでか、俺はマナを注がれていないと死ぬのか。


 口も動くようになって、心の中じゃなく、自分の口で言葉を紡ぐ。


「俺はお、お前の友達じゃあ、ないはず、だが?」


 死に際になっても、俺の嫌味は健在だ。


「私は君のことを友達と思っているよ、親友だね」

「最近、会ったばかりの、俺たちを友達とか、親友と言うあたり、友達が、少ない、んじゃ、ないか」

「そうだね。1000年前に私は何もかも失ったよ。君がノエルを失ったように」


 俺がノエルを失ったように? テトナも1000年前に何もかも失った? 何を言っているんだ。


「神同士の戦いがあってね。私たちの勝利で幕は降りるはずだったんだけど、一人の裏切りによって、負けにまで追い込まれた」


 神の話か? 何で、


「私は相手にしている神たちに神器の刀を差し出して、助かったんだけど。親友の二人は最後まで戦って、神器の盾と神の力を失ったんだ」


 テトナは左手を上に上げて、ヒビの入った剣が左手に召喚される。


「最後の決戦の時にヒビの入った剣を私が持っててくれって、レクシアが。人の赤子に成り下がった親友の神たちはレディエント家に養子として出したの。妖精の私には人の育て方なんて分からなかったから」


 嘘、だろ!? 



「ねぇ、レクシア。私はどうしたら良かったのかな」


 テトナは俺を見下ろしながら、止まることがない涙を左手の袖で拭く。


 そして静かに泣き喚いた。


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