第536話 呼びかけ

 パトラが斬首されようとしている時から数時間前のこと‥


 斗馬は屋台のおばちゃんに教えてもらった宿屋で寛いでいた。


「斗馬さん、どうぞ。」


 No.9さんが紅茶を淹れて渡してくれる。


「ありがとう。

 う〜ん、良い香り。」


 紅茶の香りを嗅いで思わず感想がもれる。


「そうですか?

 市販のティーパックですけど‥」


 No.9さんの口からは情緒のない言葉が返ってくる。


 いや、別に市販のティーパックでも良い香りするよ!


 No.9さんのせいで微妙な空気になってしまったので、それを誤魔化すかのように他愛のない会話が続いていた。


「ちょっと外が騒がしいですね。」


 もともと騒がしかった外がさらにうるさくなっていた。


 俺たちは宿屋の窓を開けて外を見る。


 すると見知った2人が馬上から叫んでいた。


「使徒様はいらっしゃませんか?

 使徒様!!」


 馬車の中であった女性騎士のリアさんとレアさんが声を枯らせながら叫んでいる。


「使徒様!」

「使徒様!」


 リアさんとレアさんが使徒様を連呼する。

 2人の剣幕に通りの人々が騒ぎだす。


 きっと緊急事態何だろうが、眼下の騒ぎを見ると名乗り出るのに躊躇してしまう。


「使徒様!」

「使徒様!」

「使徒様!」

「使徒様!」


 やはり見過ごせるわけがない。

 俺はアリアに合図を送る。


 アリアは弓矢を取り出すと2人を狙う。


 馬の足元でも狙ってこちらの存在を伝えるつもりだと思っていた。


シュッ


 アリアが弓を射る。


 弓は馬の足元ではなく、リアさんの顔ギリギリかすめていく。


 ツー


 リアさんの頬から血が流れる。


「アリアさん!!」


 思わずアリアに詰め寄る。


 アリアは顔を背ける小声で呟く。


「帝国兵は好きじゃない‥。」


 いじけたアリアは可愛かったが、さすがに時と場合を考えて欲しかった。

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