25話 伏線


「みんな、話があるんだ。聞いてくれ……」


 意を決して、俺はみんなに言葉を投げかけた。


「モ、モンド君? そんなに改まって、一体どうしたっていうんだい……?」


「さてはモンド、俺がカースフラワーの体液で負傷したのを見て、すっかり怖気づいちまったんじゃねえだろうな? それなら大丈夫だって! やつはここまで来られねえから」


「うんうん、バルダーの言う通りだよ、モンドおにーちゃん。ここなら蔓も届かないし……あ、もしかして、私たちがあの花と戦ってる間に、ほかのモンスターにやられちゃうなんて思ったの?」


「チッ……だとしたら本当に世話の焼けるやつだな、モンドは。それなら俺が戦いの合間に索敵してるから大丈夫だ」


「……」


 ラダンたちには勝手に色々と解釈されてしまってるみたいだが、俺は構わず話すことにした。


「今から俺がカースフラワーを倒してくる」


「「「「えっ……?」」」」


 俺の発言がよっぽど意外だったのか、みんな揃って呆然とした顔で固まってしまった。


「モ、モンド君……? き、君は自分が何を言っているのか、本当にわかってるのかい……?」


「モンド……お前なあ、パーティーの役に立ちたいって気持ちはわからんでもないけどよ、こんなときに寝言なんか言ってる場合かっての!」


「モンドおにーちゃん……らしくないよ。一体どうしちゃったのぉ?」


「モンド……ジョークで盛り上げようってつもりかもしれないが、無駄だ。もうどうしようもない……」


「いや、寝言でもないし冗談でもない。俺は本気で言ってるよ」


「「「「っ!?」」」」


「……」


 殴られたかのような反応を見せるラダンたち。いや、何もそこまでびっくりしなくても……。


「よかったら支援を頼む」


「……わ、わかったよ。モンド君がそんなに言うなら……」


 それでも、俺の雰囲気がいつもとまったく違うと感じたのか、しばらくして吟遊詩人のラダンが心身向上効果のある高揚の歌を演奏してくれた。助かる。


「モンドおにーちゃん、無理だけはしないでね……?」

 

 白魔導士メルルもリーダーに続けとばかり、カースフラワーに防御力と身体能力が低下するデバフをかけてくれた。


「モンド……死んじまったら絶対許さねえからなあぁ……!?」


 戦士のバルダーには気合を入れてもらった。闘気にはそんな効果もあるみたいだ。


「……よし、モンド、敵は周りにいないから安心しろ。お前がもしダメでも当たり前だから非難はしない」


 キールに至ってはこの心遣い。


 仲間たち全員からなんとも不安そうな表情で見送られる中、俺は単身で討伐対象のカースフラワーの元へと歩を進めていく。


 あのモンスターの倒し方に関しては、みんなの戦う様子を見ていたらすぐにわかった。


 俺の氷魔法は魔力が最弱なだけに、バフがあってもちょっとサイズが増した氷柱程度しか出せない。傍から見ればブーストで強化されてもあまり変わらないように見えるだろうが、俺にとってはそれがかなり大きいんだ。


 というわけで、俺は氷柱を出す代わりにそれを小さくした氷の破片を沢山飛ばし、カースフラワーの全体に棘のようにこれでもかと食い込ませてやる。


 もちろんこれだけじゃ倒せないが、戦いにおいてはミスをしないことはもちろん、いかに伏線を張れるかで決まるんだ。相手が強敵ならば二重、三重と相手に悟られないように慎重に仕掛けていく。


 俺は魔力が低くて力押しができなかったから、昔からその辺りを重点的に鍛えてきた。


『ウジュルッ……?』


 カースフラワーがこっちに向かってシュルシュルと蔓を伸ばしてきたが、まもなく止まった。


 どうやらこっちが仕掛けた伏線に気付いて棘を払おうと考えたようだが、遅かったな。知能がそこまで高くないのは植物型モンスターだから仕方がない。


 やつの全身にびっしりと刺さった氷の破片を、俺は風魔法で同時に動かし、細かく切り刻んでやった。再生することも、断末魔の悲鳴すらもあげられないほどに。凍っているから血飛沫もないというおまけつきだ。


 戦いが終わったこともあり、討伐証明用の花びらの欠片も拾っておく。


 それと、俺が戦ってる最中にもしかしたら犯人による妨害行為があるかもしれないと一応探っていたが、まったく殺気を感じなかったので意外だった。俺が力を隠していることがわかって、それで警戒心を強めたのかもしれないな。


「倒してきたよ――って、みんな、どうしたんだ……?」


「「「「……」」」」


 俺が戻ってきても、ラダンたちは揃ってポカンとした顔のまま無言だった。


 多分、どうしようもない無能キャラが普通にパーティーに貢献しちゃったもんだから、そのあまりの緩急に驚いたんだろう。力を隠していたことも当然バレただろうし。


「今まで黙っててすまなかった。これには事情が――」


「――モ、モンド君、いくらなんでも強すぎじゃないかい……!?」


「おいおい、モンド、なんだよ今の。ほぼ一瞬でやっつけてたよな? あ、ありえねええぇ……!」


「モンドおにーちゃん、急にどうしちゃったの? 凄すぎだよぉ……」


「……モンド……お前は一体何者なんだ……」


「……」


 なんだ、この状況は? 俺はラダン、バルダー、メルル、キールに質問攻めされている。


 今の戦闘がやたらと凄く見えたようだが、俺にはまったく実感が湧かなかった。こっちとしては普通に倒してみせただけだからだ。なのにラダンたちのこの異常な驚き方は、こっちのほうがびっくりするほどだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る