24話 決断
「――血湧き肉躍れ! 愚かな獣たちを蹂躙せよ! さあ、僕たちの力を合わせて新たな歴史を作り出すんだっ……!」
吟遊詩人のラダンによって高揚の歌が響き渡り、いよいよカースフラワーとの戦いが幕を開けた。
「あんなの、ズタズタのボロ雑巾みたいにしちゃってえぇっ!」
続いて、白魔導士メルルが高々と杖を掲げる。攻撃的な台詞から察するに、防御力低下のデバフだと思われる。
「いっくぜええええぇっ!」
斧を振り上げた戦士バルダーが、勇猛果敢に敵の足元へと向かっていく。
『シュルルルルルッ……!』
そうはさせじと、漆黒の花が鞭のような
「頼むぞ、バルダー!」
その間にシーフのキールがナイフを複数投げて、バルダーのほうへ向かう蔓を刈り取っていく。
「うおおおぉっ! 俺に任せろおおおぉぉっ!」
『ウジャアアアアアァァッ!』
バルダーが木の幹よりも太い茎に斬りかかり、カースフラワーの体が大きく揺れるとともに、傷口から透明な体液が勢いよく飛び散る。
「ぐぐっ!?」
このまま一気に倒してしまいそうなくらいの迫力だと思ったが、無色の液体を左肩に食らったバルダーがその箇所を押さえながら後退した。
なるほど、カースフラワーの血液自体が強酸のようになっているのか……。
「バ、バルダー、大丈夫!?」
メルルが血相を変えてバルダーの元へ駆け寄り回復するものの、デバフに比べると極端に不得意なのか全然癒えてはいなかった。これじゃ俺がアドバイスしても厳しいレベルだな。
一方で討伐対象は既に傷も癒えて全回復してるみたいだし、このままじゃ倒すのに非常に時間がかかりそうな相手だと感じる。
「それなら、俺がやってみせる……!」
キールがまたしても幾つものナイフを同時に投擲し、今度は花びらの中央にある口に全部命中するも、効いている様子はまったく見られない。
「ちっ、ダメか……」
ん-、こりゃ確かに彼の言う通りダメそうだな……。
実は、植物系のモンスターには総じて明確な急所というものがない。それは冒険者にとって周知の事実であり、再生が追い付かなくなるほどの火力でどんどん攻めるしかないってわけだ。
つまり、俺たちの中で最も攻撃力の大きいバルダーが接近戦を仕掛けるべきなんだが、あの致命傷にもなりうる強烈な体液が邪魔になるからどうしようもない。
『シュルルルルルルッ』
「み、みんな、危ないっ……!」
その間にカースフラワーから多数の蔓が伸びてきたが、ラダンが注意喚起とともに小型ハープで放った弓矢により、ことごとく射抜かれて事なきを得た。
それでも、今のままでは埒が明かないってことで俺たちは一旦その場を離れることに。
「――バ、バルダー、大丈夫かい……?」
「ぐぐっ……ぜ、全然大丈夫じゃねえよ、ラダン……。あの体液を食らったらよ、激痛が襲ってくるだけじゃなくて、肩がまともに上がらなくなるんだ……イテテッ……」
「そうか……痛むだろうが、耐えてほしい。メルル、頼む、バルダーの傷をなんとかしてやってくれ!」
「はぁ、はぁ……なんとかしてあげたいのは山々だけど、私の未熟すぎる回復魔法じゃ治すのは無理だよ……」
「……お、おいメルル、それならポーションがあるだろ……!?」
「ポーションはもうとっくになくなってるよ。バルダーが全部飲んじゃったんだよ? こんなことになるならもっと持ってくればよかったぁ……」
「ち……ちくしょおぉっ……ここまで来たっていうのに、俺たちは結局失敗してしまうというのか……」
ラダン、バルダー、メルル、キールの表情は、いずれも陰鬱としたものだった。もうなすすべがないと意気消沈しているのが痛いほど伝わってくる。そりゃそうだろう。実際にはまだ俺がいるわけだが、戦力として数には入ってないだろうから。
「……」
やっぱり俺がやるしかないのか。
正直な話、カースフラワーに関しては倒すのが難しい相手ではないと感じた。ただ、B級のそれなりにタフなモンスターということで、これ以上犯人にバレないように力を隠して戦うのは無理だとも思える。
俺が今まで本気を出さなかったのは、ただの無能の振りをして犯人を大いに油断させるためだ。
そのことにより、犯人は無能の黒魔導士が側にいるから、こいつを襲うことでいつでも依頼を失敗に持ち込めると楽観視したはず。その結果、呪い――すなわち妨害行為は緩やかなものとなったわけで、俺の狙い通りここまで順調に来ていると見ていい。
それでも、よくよく考えてみたらもうこれ以上爪を隠す必要性は薄いとわかった。
何故なら、討伐対象さえ倒してしまえばあとは帰還するだけだし、ここからいくら妨害行為を強めようとしてもできることは限られてくるからだ。
そうだな……よし、決めた。この際、俺の力をみんなに見せてやるとしよう。魔力が低くてもちゃんと黒魔導士としてやれるんだってところを……。
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