11話 報酬


 コカトリス討伐の依頼を完了した俺たちは、あれから無事に冒険者ギルドへと戻ってきたところだった。


「も、もう攻略なされたんですか!?」


 証明用のコカトリスの爪を見て、受付嬢イリスがびっくりした顔を見せるのも当然か。


 なんせ、五日以内にこなしてほしいって言われてるC級の依頼を、二日もかからずに攻略してしまったんだから。


「さすがモンド様、お疲れ様です、やっぱり私が見込んだ通りでしたねっ!」


「いやいや、イリス。俺の力だけじゃここまでできなかったよ」


「あ、G級パーティー……い、いえっ、【深紅の絆】のご一行様もお疲れ様でした!」


「ハッハッハ! 受付嬢よ、貴様、いくらなんでも私たちのほうにお疲れ様を言うのが遅いぞ!?」


「まあ、グロリア、そうは言うけどよ、モンドとその他って感じの貢献度だったんだししょうがねえよ」


「まさしく、その通りですね。僕たちは最後の最後までモンドさんに頼り切りでしたし」


「ガムラン、ワドル、貴様らなあぁ……私もまったく同感だ!」


「「「ハハハッ……」」」


 なんとも気まずそうな笑い声を上げるグロリアたち。


「フフッ、面白い方々なんですね!」


「……あぁ、正直かなり心配してたんだけど、【深紅の絆】はほとんどなんの問題もなかったよ」


「モンド、貴様も、追放されたくせに中々言うな!」


「まったくだぜ。やっちまえ!」


「これはお仕置きが必要ですねえ」


「ぐ、ぐるしいっ……」


 グロリアに後ろから腕で首を絞められ、俺はイリスと苦い笑みを向け合う。


【深紅の絆】パーティーは実力的にもあまり問題はなかったし、素行に問題があるどころか、追放された俺の助言を聞き入れてくれる寛容さや素直さがあった。正直、ここで別れてしまうのが惜しいと思えるくらいだ。


「それでは、これが今回の報酬の銀貨12枚です。それと、【深紅の絆】ご一行様は、G級からC級へと格上げとなります!」


「「「「えぇっ!?」」」」


 これには俺も驚かされた。依頼攻略によってパーティーランクをどれくらい上げるのかは受付嬢の判断に委ねられるわけだが、G級からC級まで一気に上がるなんて今まで聞いたことがない。しかもたった一回の依頼攻略で。


「この卓越した依頼達成速度はA級並みですし、全員が怪我一つ見られないというクオリティに加え、【深紅の絆】パーティーに助けてもらったという報告も入っておりますので、妥当な昇格と思われます!」


「「「「なるほど……」」」」


 そういえばそんなこともあったな。それも含めて冷静になって考えてみると、グロリアたちはもっと上を目指せるパーティーだと思うし、確かにイリスの言う通り妥当な気がしてきた。


「モ、モンドオォ! これも全部貴様のおかげだ! 報酬は全部もらってくれ! ガムランもワドルも異論はないな!?」


「あぁ、それくらいの働きをしてくれたぜ、モンドは……」


「本当に、これじゃ足りないくらいですよ。モンドさん、是非受け取ってください」


「い、いや、さすがに――」


「「「――頼む、受け取ってくれ!」」」


「……じゃあ、こうしよう。報酬の銀貨は一人3枚ずつとして、コカトリスの爪を貰ってもいいかな?」


 銀貨3枚でもすっかり無一文になった俺にとっては大きいし、コカトリスの爪を貰えるだけで充分なんだ。


「なっ!? そ、そんなもので本当にいいというのか……?」


「こっちとしては全然かまわねえっていうかむしろありがてえんだけどよ、それって高く見積もっても銅貨10枚くらいの価値しかねえんじゃ?」


「確かに、何に使うんですかっていうレベルですし、銅貨10枚でも買い取ってくれるところがあるかどうか……」


「いや、それでも銀貨1枚分になるわけだからありがたいよ。珍しいものを収集してる知り合いがいるんだ。昔世話になってたから恩を返しておきたい」


 そういうわけで、俺はコカトリスの爪を譲ってもらったあと、このベグリムの都からすぐに発つ予定のグロリアたちを見送ることに。


 これはついさっき知ったことなんだが、バゼリアというここからそう遠くない都で、黒魔導士のジンらしき男を見たという目撃証言があったらしい。


「それじゃ、また機会があったら……」


「うむ、モンドよ、貴様とはほんの短い間だったが……だ、だ、だのじがっだぞおぉ……!」


「「「……」」」


 グロリアが俺の両手を握りしめて、片方の目から涙をボロボロこぼしながら言うのでなんとも気まずかった。


「俺もだ。正直、ただの臨時メンバーとは思えなかったぜ。モンド、お前みたいに強くて優しいやつが追放されるなんて、世も末だな」


「僕も同感です……。それとここだけの話、グロリアさんだけでなく、ガムランさんも時々鼻をすするくらい、モンドさんとの別れを惜しんでたんですよ」


「お、おいワドル、余計なこと言うんじゃねえ! そういうお前だって目が赤いぞ?」


「こ、これは目にゴミが入っただけでして……」


「みんな、ありがとう。今までのことはきっと忘れない。ジンと会えるといいな。それじゃ……」


 馬車に乗り込んだグロリアたちは俺から少しずつ遠ざかりながらも、ずっとこっちに手を振り続けていた。あれ、なんだか視界がぼやけてきたな……。

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