神結び

凪奈多

第1話

 結乃神社むすびのじんじゃには、縁結びの神様がまつられていることで有名だ。

 一度でもその神社へ行き、お願いをしたならその恋は必ず成就し、二人は一生別れることはないと言われている。


 これはそんな結乃神社の神様、つなぐの奮闘の物語。


※※※


 少し前、こんな噂が近所の中高生の間で少し話題になった。


 『結乃神社へ行けば、その恋は必ず成就する。』


 当時の僕はこんな噂など気にしなかったのだが、今はどんな噂でも何でもすがれるものにはすがりたい思いだった。


 初めて『恋』をしたのだ。


 クラスでも私生活でも目立たない僕は、友達

もいるにはいるがあまり多くなく、部活にも所属しないでそこそこな高校生活をおくっていた。

 もちろん、女子に友達なんておらず、恋とは縁遠い生活をおくっていた。


 そんな僕にいつも優しくしてくれる女子が一人いた。

 名前は西条奏さいじょうかなでさんと言う。

 いや、分かってる。僕優しいではなくて、僕優しいということぐらい。


 西条さんは、頭がよく、顔も可愛いため、クラスのいや、学校のマドンナだった。

 そんな人が僕なんかに振り向いてくれないと分かりつつも、好きな気持ちはおさえられなかった。


 そんな時、この噂を思い出した。

 結乃神社。家から三十分程自転車でこいだところにある小さくてぼろぼろな神社で、辺りには家などもなく人通りも少ない。


 そこへ、今週の土曜日に行くことにした。


※※※


 土曜日、僕は朝の十一時頃に家を出て三十分かけて結乃神社へ行った。

 そして、十五円をお賽銭箱に投げ込んだ。


※※※


 「縁結びの神様。どうか僕の恋を叶えてください」


 八ヶ月ぶりの参拝客の声でその神様は起き上がった。

 結乃神社の縁結びの神様、つなぐは、一日のほとんどを眠っている。

 と言うのも、三年程前までは多くの中高生が出入りする神社だったが今ではほとんど人がこない。

 そんな中、久々の参拝客が来た。

 

 起き上がった神様、繋は参拝に来た少年を見てポツリと呟く。


 「久々に頑張るとするか~」


※※※


 月曜日がやって来た。

 いつもなら憂鬱な日だが、今日は少し楽しみな気分だった。

 と言うのも、一昨日行った結乃神社には縁結びの神様がまつられているらしい。

 正直、あまり信じてはいないのだが、それでもあの神社が本物だという期待がないわけではない。

 それが確かめられると言う意味でも今日はすごく楽しみにしていた。

 

 そんな気分のまま、着替えて、ご飯を食べ、歯を磨いて、そして家を出た。


※※※


 「よーし、まずはこれでどうだ!」


 すっかり人の来なくなった結乃神社で、縁結びの神様であるつなぐは、先日参拝に来た少年と、彼の意中の相手である西条奏のことを遠く離れた場所から見ながらそう呟いた。


※※※


 いつもより、軽い足取りで家を出るとそこにはちょうど学校へ向かう途中の西条さんがいた。

 一瞬ピクリと止まった僕に彼女はいつも通り優しく話しかけてくれる。


 「あれ、小鳥遊君、奇遇だね~。こんなとこに住んでたんだ」


 言い忘れていたが僕の名前は小鳥遊結弦たかなしゆづると言う。

 名前はちょっと珍しいって?そうだね、両親に感謝だよ!!


 そんなことはさておき、せっかく話しかけてくれた西条さんに僕はしっかり返事をする。


 「さ、西条さんこそな、なんで?」


 我ながら自分の話下手さに辟易する。

 こんなの西条さんが困るに決まってるじゃないか。


 「ん、なんでって?」


 ほら、やっぱり西条さんが困ってる。

 僕はそんな説明不足だった自分の言葉に補足するようにまた口を開く。


 「そ、その西条さんはもっと早く学校へ行ってる印象があったから」


 そう、西条さんはいつも学校へ行くのが早いらしい。

 クラスでも一、二を争うくらいだと言われていたのを何度か聞いたことがある。

 でも、僕は遅刻すれすれという訳ではないが遅い方だった。

 だからこそ不思議だった。

 西条さんがここにいるのが。


 「あ~、それのこと。今日はちょっとだけ寝坊しちゃってね~ってそうだ!ほら、小鳥遊たかなし君!早く学校へ行かないと遅刻しちゃうよ!」


 そう言って彼女は僕の手をとり走り出した。


※※※


 「うんうん、良い感じ良い感じ。とりあえず少し様子見るか~」


 繋はそう一人で呟き、また二人のことを見始めた。


※※※


 「ちょ、ちょっと西条さん!こんなに走らなくても間に合うってば!」


 約七分間全力で走ったことによって、僕たちは、もうほとんど学校の近くまで来ていた。


 「え、そうなの!?」


 そう言って彼女は急ブレーキをかけた。

 はぁ、やっと止まってくれた……。

 握られてない方の手を膝について、息を整えた後、顔を上げると西条さんが僕と繋がれた手を見て顔を真っ赤にしていた。

 そして、僕と目が合うと彼女は少し慌てたように、


 「ご、ごめん!いきなり手を握られるなんていやだったよね!?」


 と、そこそこの大きな声で、しかもそこそこ学校の近くに来ていることもあり、同じ学校の学生が周りにいる状態で、そして、彼女西条奏さんがその言葉を発したことにより、僕たちは周りの人達からとてもじろじろ見られていた。

 

 「い、いや、全然いやなんかじゃないんですけど……」


 僕は煮え切らない返事をしつつ、周りを見ると、彼女もつられたようにして周りを見たことで多くの人に見られていることに気付きさらに顔を赤くさせた。


 そして、彼女は何も言わず顔を真っ赤にしたまま、また学校へ走って行ってしまった。


 その様子を見て、周りにいる人達はひそひそと他の人と会話をし始める。

 何を言ってるかは聞こえていないけど、大方何を言っているかは予想がついた。


 おそらく、『なんで西条さんがあんな冴えないやつと一緒に』などだろう。

 そんなこと僕が聞きたいくらいだ。


 そんなことを思いながら教室まで向かうと、その噂は瞬く間にひろがっており、西城さんはクラスの女子達から質問責めを受けているようだった。

 そして、僕が教室に入ると、多くの人の視線が僕の方を向いた。

 そして、クラスのカーストトップのグループの男子が三人、僕に向かって歩いてきた。

 彼らは、僕の前で止まると五秒程僕のことを睨み付け、そして、舌打ちをして元いた場所に戻っていった。

 

 その後も、僕はじろじろ見られつつも特に誰かが話しかけてくるようなことはなく、西条さんの方は今朝のことでたくさんの人に質問されていた。


 そのまま時間は過ぎ、放課後になって帰る支度をし、教室を出て、校門まで向かう途中で僕は聞き覚えのある、二人の男女の声を聞いた。

 少し気になってその声が聞こえるところまで向かうと、そこでは今から告白が行われようとしているところだった。

 雰囲気を見る限り恐らく告白される方だと思われる少女は、僕の想い人でもある西条さん。

 そして、もう一人は、今朝僕を睨み付けてきた三人のうちの一人である北条瑠偉ほうじょうるいだった。


※※※


「何の用ですか?北条君」

 

 放課後の校舎裏。私は、クラスメートの北条瑠偉に呼び出されていた。


 「俺と付き合わね?奏」


 「お断りします」


 「へぇ、それって今朝のことと関係あんの?」


 私はその言葉を聞いて一瞬固まってしまったけれど、すぐに身を翻した。


 「帰ります」


 そう言ってこの場所から離れようとすると彼は私の手を掴んだ。


 「へぇ、クラスに小鳥遊の居場所がなくなってもいいんだ?」


 「それは……」


 私のせいで小鳥遊君を不幸にしてはダメだ。

 そんなことになるくらいなら……。


※※※


 「待て待て、どうしてこうなった!誰だよこの男!ちょっと目を離した隙になんでこんなことになってんだよ!」


 繋が見たのは、結弦が見た光景と同じ、奏が告白されているところだった。

 このままだと、結弦の願いを叶えられなくなる、そんなことを考えていたら少し離れたところに結弦がいることに気づいた。

 

 「いや待てよ、これならもしかして……」


 繋は、もう一人この光景を見ている結弦に全てをかけることにした。


※※※


 『お前がここで動かないでどうする!』


 突然どこからか聞こえた声。

 全く知らない声なのにどこか聞き覚えがある気がするのは気のせいだろうか。

 それにこの声が言っている内容。

 今のこの光景を目にしてるとしか考えられない。

 でも、僕がここで動かないといけないのは確かなんだ。

 そう思いながら一歩踏み出すと、思っていたよりすんなりと足が動いて我ながらびっくりした。

 そうして、早足で二人に近付いて行き、西条さんの手を掴んでいる北条の手を掴んだ。


 「手、離せ。西条さんが嫌がってる」


 「小鳥遊くん!?」

 

 「あぁ?何の用だよ。部外者はすっこんでろ!」


 「彼女が嫌がってるから手を離せっていってるんだよ!」


 「うっるせぇなぁ!!」


 そう言って北条は僕に殴った。


 「う──っ」


 「小鳥遊くんっ!」


 暴力では僕は絶対に北条にはかなわない。

 でも、今は放課後。

 多くの生徒が下校する時間だ。

 そんな時間に大声でこんなことをやっていたらもちろん──。


 「あれ、結構やばくない?」


 「小鳥遊が倒れてる」


 「さっき北条が小鳥遊のことを殴ったんだよ!俺見てたから」


 人が来るに決まっている。


 そうしてここに来た多くの生徒が教師を呼び僕は保健室へ、北条は教師につれられ生徒指導室へ行った。


※※※


 「ごめんなさい、小鳥遊君。私のせいで」


 保健室のベッドで寝ている僕に、傍らで座っている西条さんがそう言う。


 「ううん、自分でやったことだから。それに今こんなこと言うのは卑怯かもしれないけど僕は好きな人が守れて幸せだし」


 そう言うと彼女はみるみると顔を赤くしていった。


 「あの、私もずっと前から好きでした」


 「えっ!?」


 「だから私と付き合ってください」


※※※

 

 「へぇここが結乃神社か~」


 「うん。縁結びの神社」


 あれから二週間。僕は西条さんと付き合うことになり、そして初めてのデートの帰りにこの神社に寄ることにした。

 願い事は来る前に二人でもう決めていた。

 そして、口を揃えてその願い事を言う。


 「「結ばれた糸が二度とほどけませんように」」

 



 

 

 

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神結び 凪奈多 @ggganma

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