第102話 添い寝
「雷がそんなに怖いのか?」
「怖いです」
停電しているので詳しい表情までは見えないが、奏太の体の上で震えているのは分かる。
「今までよく乗り越えてこれたな」
奏太と琴葉が出会ってからは、運が良いのか悪いのか、雷が落ちたのは今回が初だった。なので、雷に怯える琴葉を見るのは初めてだ。
今日は奏太がいるのでしがみつくなりの対処法があるが、これまで1人だった彼女が寂しく雷に怯えているのを想像すれば、それはあまりにも可哀想すぎた。
怖くても誰も助けてくれないし、それでいて心は虚しいまま。自然災害は、琴葉にとって内的な被害もあった。
「今まではずっと我慢してきました。怖くても外には出さないように……」
「今は違うな、」
「そうですね。だって奏太くんがいますし」
閉ざした心は奏太との出会いで開き、これまで内側に隠していた感情が、次から次へと表に出てきている。
心を閉じていた分、幼さが強く目立つ琴葉は、ほんのり眠そうな瞳をしていた。
「きゃっ!?」
どこにあるのか分からない手を動かせば、それは琴葉の腹部の下、自分の腹部の上に埋められていた。
琴葉の体が乗っているので手全体を動かす事は出来ないが、指先だけは不自由なく動かせる。
雷を怖がる琴葉をリラックスさせるためにも、指の届く範囲をゆっくりとなぞった。
旅館の浴衣を着ているので肌の感触はないが、細いながらに女子らしさを残している、というのが印象だった。
「奏太くん、私以外にそんな事したら駄目ですよ?」
「するつもりはないけど、嫌だった?」
「私は嫌じゃないですけど、色々と気にしてる方もいらっしゃるので」
奏太が触れている事に安心感を覚えたのか、少し落ち着いたのが口調からも分かる。
「だったら琴葉も嫌だったよな。最近気にしてるって言ってたし」
「私は……」
「すぐに手どかすからな」
弱い力じゃ、両者の腹に挟まった手は抜けない。女性の体に許可なく触れたのはやはり良くない事なので、とりあえず指先を動かすのは辞めた。琴葉もいつもの呼吸を取り戻しつつあるようなので、ここらで切り上げた方が良いのかもしれない。
「あ、私は、その……。確かに気にしてるといいましたけど、」
「琴葉の嫌な事はしたくないし」
「それとこれは別といいますかー、、」
自身の発言に否定したいのか、それとも言いたい事があるのか、琴葉は奏太の胸元に埋めていた顔を勢いよく上に上げる。
顔を上げれば、掴んでいた奏太の浴衣を離して、肘を真っ直ぐ伸ばしながら上半身を持ち上げた。
その隙に空いた手を体の横に戻す。琴葉の下半身は変わらず奏太と密着しているので、奏太の体は未だに寝転んだままだった。
琴葉が上半身を上げ終わるのと同時に、停電は直る。
「奏太くんになら……、別にお腹触れられてもいいです」
琴葉の恥じらう顔が照明と被り、後ろからは陰影が見える。顔の左右には銀色のカーテンがかかっており、天使が舞い降りてきたのかと疑った。
直視したら何か持っていかれそうだったので、目線をずらそうと下を向けば、先程奏太にくっついた反動でずれたのか、胸元がはだけていた。
いつもは上からの視点でしか見ていないが、下から見ればかなりの重量感を出している。手に収めるには少し溢れそうな大きさだ。
それでいて大人びた黒のレースや紐がチラついており、上下に目を逸らす事は出来なかった。
「俺以外にはそんな事言うなよ」
「言いませんよ」
「なら俺専用か?」
「奏太くん専用です」
奏太の上でにっこりと絵に描いたような笑みを浮かべる琴葉は、腕が疲れたのか肘を曲げた。そしてまた、奏太の胸元に顔を埋めた。
自分専用という独占欲をくすぐられる発言に、顔に血が昇るのを感じる。
「琴葉さんや、ちょっとどいて」
「嫌です。また雷鳴るかもしれないです」
「無理に倒されたから体が痛い。また乗っかっていいから、体制直させて」
「それならいいですよ」
1人離れるのが嫌ならしく、またそばにいると言えば、満足して足を動かしてくれた。
はだけていたのは胸元だけでなく、足元も見事なまでに浴衣が開いていた。女子の絶対領域までは見えないものの、その近くまでは視界に入れてしまった。
太腿とは思えない細さと白さをしており、水着の時に気づかなかったのが嘘のようだった。
「奏太くん」
「何だ?」
お互いにはだけた浴衣を直して座っていれば、琴葉が近くにある枕を取って抱きしめた。口元は隠れており、膝を曲げた。
体育座りに見えるが、枕があれば全くの別物と化する。
「……今日は添い寝して欲しいです」
次に琴葉の顔を見た時には、口元だけでなく顔半分を隠していた。前髪で目元も隠れているので、もはやその表情は読めない。
それでも空いた隙間からは、照れた琴葉の紅色の肌が見えていた。
-----あとがき-----
・文字数短くなりました。学校があるとどうしても厳しい。すみません。
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