第40話 プレゼント②とお願い
「なるほど、そういう事でしたか」
このメイド服は拓哉から受け取ったものだとしっかりと説明した後、なんとか理解してもらった。
「奏太くんからの物だったらどうしようかと、一瞬焦りました」
「俺からはそのぬいぐるみだけだよ」
自分の送ったプレゼントはくまだけだと主張する。ところで、一瞬焦ったという事は、奏太からのプレゼントの場合は着用していたという解釈で合っているのだろうか。
琴葉の事なので、着たくなくても貰った物だったら着てあげないと失礼という変な責任を感じそうだが、大丈夫そうだ。
「………それで、お願いって何なんだ?」
「そうでした。話の最中でしたね」
奏太がプレゼントを渡したのでタイミングを逃したが、本来なら琴葉の望みを聞いていたところだ。
それを今更無粋にするわけにもいかないし、琴葉も自分なりに決心していたっぽいので、聞かずに逃げるのは男じゃない。
どんな願いでも受けるつもりで耳を傾けた。
「あの、……私と、土日のお昼にお出かけしませんか?」
てっきり無理難題を押し付けられると思っていたが、そんな事はなかった。ごく普通の、どこにでもあるようなお誘いだった。
それくらいならテストの勝ち負け関係なく行くし、一度自分から誘った事もあるはずなので、この場を使わなくてもよさそうだが。
今回は前回とは違って熱もないし、用事が用事なのでこういう場を使わないと発言出来なかったのかもしれない。
少しずつ女子高生として成長してきている琴葉は、いつの日か奏太の元から離れていくだろう。そんな日が刻々と近づいている気がする。
元々付き合ってすらいないので、こんな独占感を出すのも良くない。
「本当にそんなんでいいのか?折角テスト頑張ったんだから、もっと大きな事でもいいんだぞ?」
こんな事を自分から聞くなんて、Mなのかもしれないが、琴葉が遠慮をするのだけは避けてほしいので念のため確認した。
「いいんです。これで……、、これだからいいんです」
自分で良いというのだから、琴葉にとって良いのだろう。
さらに思い返してみれば、琴葉自体が物欲をあまり表した所も見たことないので、本当に一緒に出かけたいのが第一の願いなのかもしれない。
「まぁ、琴葉は欲しい
「………ありますよ。物というか者ですけど」
「………ん?」
「とにかく、一緒に出かけたいって事ですから!」
「そうか」
自分の願いを発せられて、達成感に浸っている琴葉を見ながら夕飯の支度に取り掛かった。
「じゃあ出掛けるのは明後日だな」
手短に夜ご飯を作り終えて、テーブルまで運んだ。健康第一を目指している夕飯は、野菜が多めだ。
琴葉が来る前までは茶色一色な事が多かった食卓も、随分と緑が増えていた。
「はい。明後日ですね」
「どこ行くんだ?」
「どこに行けばいんでしょうか、」
食事を食べながら、琴葉と出掛ける時の話をする。琴葉自身も出かけたいという気持ちはあったものの、具体的にどこに行きたいかなどは決めていなかったらしい。
夏休みでもないので遠出はしたくないが、場所を決めるのは一度琴葉に任せみる。
「俺はどこでもいいぞ?主催は琴葉だろ?」
「一緒に考えてくれないのですか?」
「敗者が勝者と同じ土俵に立ってどうするんだ」
「ですけど1人で決めるのは難しいですよ。それに昨日の敵は今日の友といいますし、勝ち負けは関係ないです」
昨日の敵と言っても、昨日までも普通に奏太の家にご飯食べに来てるので、敵なのかすら怪しい。
そんな事を言っても理不尽と言われるのは目に見えているので、一緒に考えるしかない。
「どこに行くか」
「この近くって何かあるんですか?」
「この近く?」
琴葉は今年の春にこの付近に引っ越して来たので、そこら辺の事情はあまり知識として蓄えていないみたいだ。
それもそのはずで、スーパーとコンビニしか行かないと言っていたので、逆に知ってる方がおかしい。
「うーん、水族館とか?」
「水族館があるのですか?」
「行った事ない?」
「ないですね」
ならここで決まり!と即決で決めたいが、それを判断するのは流石に琴葉だ。
「そこに行きます」
「昼飯はどうする?どうせ家だと不摂取な食生活送ってそうだし、どっか食べに行くか?それとも俺んちで食べてく?」
「……どっちも捨てがたいですね」
「食べに行くか、」
奏太の手料理ばかりというのも飽きが来るはずなので、琴葉が食べたことのない物を食べに外食に行くのも良いのかもしれない。
そう話しているうちに、両者同じくらいのタイミングで食べ終わる。
「ちょっと待ってて」
琴葉も夜ご飯を食べ終わったのを確認した後、冷蔵庫に行って一つの箱を取り出した。
箱の中から物体を取り出し、小さめの皿の上に乗せる。それをもう一度繰り返して、フォークを2本持つ。
何が起きてるの?とこちらの様子を窺う琴葉に、口元に笑みを作ってみせる。
「ほい、食後のデザート兼がんばったご褒美だ」
「これは、ケーキ?」
「モンブランだな」
あの時とは少し違う、今度は前回よりも高級なモンブラン。贈り物は値段よりも気持ちなのは良く理解しているが、お祝い記念なので奮発してみた。
「またご褒美ですか?」
「要らないか?」
「要ります。でもご褒美が多い気がします」
「何言ってんだ。1位なんてそうそう取れるもんじゃないぞ?それを祝わないなんてどうかしてる」
ご褒美にプレゼントやら、今日一日に多くの物を貰った琴葉は、目が潤んでいた。
「何だ?嫌だったか?」
「……違います。祝ってもらうのとか初めてで、ちょっとだけでも嬉しかったのに、ここまでしてもらえるなんて思ってもいなくて」
中学の頃に、1位を取っても祝ってもらうどころか見向きもされず、誰からも相手にされなかった琴葉は、本来は当たり前に起こる事に、凄くありがたみを感じているようだった。
「そして、またモンブランですね」
「迷ったんだけど、思い入れがあるしな」
「そうですよね」
個包されていないので、スプーンを通せばすぐにでも食べられる。
「(((((いただきます)))))」
2人で同時に食べ始める。コンビニのよりも高級なだけあって味のコクが深い。またも、下品ながらどんどん口に運んでしまいたくなった。
「美味しいです。前よりも濃い味がします」
「そうか、」
それこそが、琴葉が成長した何よりの証だった。一度堪えた涙は、モンブランを食べながら流れ始めた。
「奏太くん、ありがとうございますね」
嗚咽混じりに感謝するその言葉は、これまでのものよりもドンと心に響いた。
-------あとがき-------
・色々と事情がありますが、引き続きこの物語をお楽しみください。一応③で進めていく方針ですので、よろしくお願いします。
温かいコメントお待ちしてます♪
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