第39話 テスト結果とプレゼント①

「奏太、お前13位って結構勉強したな」

「まぁな」



拓哉達とファミレスに行った日から日付は経ち、テストは無事に終わった。ほとんどの教科の答案も返却され、今日はその結果発表を見に来ていた。



ここの高校は上位30番までは廊下に張り出される事になっていて、奏太は見事にランクインしていた。



これまでの経験で最も良い順位に、奏太自身も驚いた。



「拓哉は赤点とか大丈夫だったのか?」

「あぁ、どの教科も平均よりちょい上くらいだった」

「ならよかった」



地頭もよく、本番に強い拓哉は決して低い点数ではなかったようだ。七瀬に関しては知らないが、拓哉の表情を見るにギリギリで回避できたのだろう。




「それにしても見てみろよ。南沢さん1位だってよ」

「ほんとか?」



自分の成績に満足して、すっかり琴葉と勝負していたのを忘れてしまっていた。



拓哉の言った1位の人の名前を見ると、堂々たる点数差で君臨している琴葉の名前があった。




「圧倒的な敗北……」

「何がだ?」

「あ、いやこっちの話」



負けたという悔しさもありながら、奏太以上に努力している琴葉に尊敬の意を表す。並大抵の努力ではここまでは来れないはずなので、素直に賞賛した。




「南沢さん、頭も良いなんて完璧だな」

「それで可愛くて、お淑やかだもんな」



掲示板に集まる人達がそんな話をしているのが耳に入る。




「……完璧、ね」

「奏太?どうかしたか?」

「何もない」




完璧という言葉を聞いて、すんなりと頷けないのは奏太だけなのか。周りの人は琴葉の事を完璧だとか思っているが、実際そんな事はない。



ちゃんと悩んで、人一倍苦労もしている。そんな彼女に対して、簡単に完璧だのどうこう言ってしまうのは違うと思うが、彼女が置かれた境遇を知らない人達からしてみれば、そう思ってしまうのが自然なのだろう。




「奏太、お前がなに考えてるのかは知らないけど、俺でよければ力になるぜ?」

「拓哉…」

「まだ勉強教えてもらった事に対しての詫びしてないからな」

「ありがと。今度そうさせてもらうわ」

「おう。いつでも頼れよ」



こちらの事を丁寧に気遣ってくれる良き友を持ったものだ。  



勝負には負けたものの、それとは別に、頑張った褒美でプレゼントを渡すのも良いかもしれない。琴葉が勉強して良かったと思えるような、そんなサプライズを密かに考える。




(……本当の琴葉を知ってるのは、まだ俺だけだもんな)



脳内でそんな考えをよぎらせながも、静かに教室に戻った。







「琴葉、1位おめでと」

「ありがとうございます」



放課後、いつも通りの奏太の家で、何よりも先に琴葉を誉める。



今日の放課後は、サプライズとして考えついた、琴葉の頑張ったご褒美を拓哉と買いに行ったので、訪問自体は遅めにしてもらった。



すでにプレゼント自体も準備しておいてある。



「……勝負は私の勝ちですね」

「あぁ、完敗だよ」

「完敗という程、順位に差はなかったですけどね」



そう言いながら、柔らかな笑みを浮かべながらソファに座る琴葉。



目の前にあるテーブルの下には、琴葉がこの家に来る前に置いた、拓哉と一緒に選んだリボンで結んだ大きな袋があるのだが、琴葉は気づくか。



まだ下に目線を向けていないので、気づくわけがないが、早く見てくれと焦りを感じる。手に汗を握りながらも、また会話に参加する。




「……勝った方が言う事を聞くんでしたよね?」

「そういうルールだったな」

「でしたら、あの………」



願いの内容は何なのか、少しずつ頬を上気させる。そこでようやく下を向いた。




「あれ?なんです?これ、」



どう見てもプレゼントの大きな袋に、ここにいる人数的に宛先は自分だと分かったようだ。



赤くなっていた顔は、みるみると熱が下がっていき、箱の正体を冷静に分析していた。




「……奏太くんから、ですか?」

「そうだよ。俺以外に誰がいるんだ」



この家には奏太と琴葉の2人しかいないので、送り主が奏太という事はすぐに判明する。




「開けてくれよ」

「………そうさせてもらいますね」



恐る恐る手を伸ばし、机の下にある袋をゆっくりと取り出した。細い腕で袋を持ち上げ、机の上に乗せるた。



最中に落とさないか心配になりながらも、そこまで重い物は買っていなかったと思い出す。



綺麗に結ばれたリボンをシワがつかないように細かな指先で解いていた。




「ぬいぐるみ?」



大きな袋から取り出したのは、普通のものよりも大きめのぬいぐるみ。それこそ琴葉が抱くにちょうど良いくらいに大きさの物だ。




「これ、どうしたんですか?こういうのって買ったら高いんじゃ…」

「安心していいから、UFOキャッチャーで500円」



ここで自分で取ったと言えないのが悲しい所。以前拓也がゲーセンで商品を何なく取っていた事を思い出し、お金だけ払って取ってもらった。



説明するにはダサすぎるので、この事は内緒にしておく。




「このぬいぐるみ、可愛い…」

「多分クマだな」

「……くま」



ぎゅっと大切そうにぬいぐるみを抱きしめる琴葉に、いよいよ撫でたいという欲求まで出てきそうだった。



それほどまでに幼くて、愛らしい表情でぬいぐるみを抱いていた。




「家宝にします」

「家宝は大袈裟だな」

「私にとっては大袈裟じゃないです」

「そうなの、」

「はい、大切にします」



抱いて離そうとしない琴葉に、このプレゼントにして良かったと安堵する。




「プレゼントなんて、初めてです」

「体温計上げただろ」

「そういえばそうでしたね」



一昔前の事を思い出して、可笑しそうに笑顔を浮かべた。心から笑っているような表情に奏太も頬が緩んでしまう。




「あれ?もう一つあります?」

「あー、それは俺もよく分かんないんだよな」



UFOキャッチャーでぬいぐるみを取ったので、リボンのラッピングは動画を見ながら自分で行ったのだが、その時に拓哉に渡された物を中身を見ないまま包んだので、現段階では奏太も何が入っているのかは分かっていない。




「見せてくれ」

「取り出してみますね」



手探りで袋の中を漁りながら、勢いよくもう一つの物を取りだした。




「………メイド服?」

「えっ?メイド服?」



お互いにハテナを浮かべて、見つめ合う。目が合う時間が経てば経つほど、琴葉の頬は赤く染まっていった。




「……これを着てほしいのですか?」

「違う違う、誤解だ!」



着て欲しいといえば着てくれるのかな?と僅かに下心が出ながらも、必死に誤解を解くのだった。







------あとがき-----


・前の話では、色々とご意見ありがとうございます。そちらを参考に色々と考えさせてもらいましたが、もうしばらくお時間をください。



・拓哉との買い物の話は、今度番外編として書きますので、そちらもお楽しみにしていただきたいです。



・間宮に関してましても、もう少しで登場しますので、暫しお待ちください

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