第38話 食

「あの子達よくない?」

「ほんと!最近の高校生は整ってるわね」



トイレから座っていた座席に戻っている途中に、そう囁く声が聞こえてくる。




「良かったな奏太、周りの人から見られてるぞ」

「………見られてるのはお前だけどな」

「俺だけじゃないぞ。ちゃんと奏太も見られてるよ」



励ますように言われても、トイレに向かう最中にも話す声は聞こえていたので、自信なんて持てるはずがない。




「ただいまー!」

「たっくん達おかえり、って奏太は何で肝心の髪型隠してるの?」

「……恥ずい」



今になってどうしようもなく恥ずかしくなってきた。最近の男子高校生は髪型をきちんとセットしているので、拓哉は気にしていないが、そういう経験が少ない奏太には一種の罰ゲームのように感じられた。




「早く手どけてよ。琴も見たがってるよ」

「………見てみたいです」

「……分かった」



これだと琴葉にだけ甘いみたいだが、実際事実なのでしょうがない。仕方なく髪型を隠している手を下ろして、太腿の上に乗せた。



ジロジロと視線を感じるが、決して目を合わせないようにしながら、女性2人が声を出すのを待った。




「いいじゃん!たっくん程ではないけどめっちゃ似合ってる!!」

「かっ、かっこいいと思います」

「………そう。ありがとう」



面と面で褒められると少し気恥ずかしいが、女子2人にここまで言ってもらえるという事は、決して悪くはないという事だ。




「その軽い七三みたいな分け方が絶妙にうまいね」

「なんていう髪型なんだ?」

「俺も知らん。練習してたらいつの間にか出来る様になった」

「才能なのか?」

「だとしたら、もっと他の才能が欲しかった」



名称すら知らない髪型にセットされたので、実験されたような気分になりつつ、未だに悶えている琴葉に目を当てる。




「琴葉さんや、どうしたんですかい?」

「赤野さん、ちょっとあの奏太くんに見慣れないので、やっぱり髪を戻しても良いですか?」

「え、や、駄目とは言わないけど………せっかくセットしたのにもったいなくない?」

「いえ、あの駄目です。直視出来ません」



隣でいつもよりも大きくニヤつきながら、ツンツンと叩いてくる拓哉に数倍返しのゲンコツを喰らわせる。直視出来ないほどに見慣れないとまで言われると、奏太自身も若干凹んだ。




「奏太、あれはカッコよすぎてというやつだ。だから落ち込むなよ」

「そ、そうか」



琴葉にそう思ってもらえるのなら大満足だ。




「お待たせしました。チーズハンバーグのライスセットと和風ソースハンバーグのライスセットのお客様」



キリの良いタイミングで注文した品が届いた。じゅ〜と音を荒げているハンバーグは、食欲を数倍に跳ね上げさせた。



ナイフでハンバーグを切ってみれば、熱々の肉汁が溢れ出てくる。




「美味いな」

「やっぱり美味しい!!」



先にテーブルに置かれた拓哉と七瀬は、奏太達を待つ事なく食べ始める。




「琴葉、俺たちも食べるか」

「はい。ですね」



しっかりと和風ソースを絡めて口に運んだ。まだ煙が出ているので熱々なのに、口の中が白米を欲しがる。



一旦落ち着いた後に一気に白米を流し込めば、それだけで充分に味わう事が出来る。




「どうだ琴葉、美味いか?」

「とても美味しいですね。かなり熱いですけど」



小さく切り取ったハンバーグにふぅふぅと息を当て、パクリという効果音が聞こえてくるような食べ方をしている。



(子供みたいだな)



なんて思いつつも、自分の料理に手を戻した。




「奏太はうまそうに食うな」

「そうか?」

「うん。確かに人一倍美味しそうに食べてるね」



自分で自分の食べている所なんて見たことがないので、真偽は分からないが、食に楽しみと幸せを感じているので、あながちそうなのかもしれない。




「ごちそうさま」



黙々と食べ続けて、あっという間に皿の上が真っ新になる。




「時間も遅いし、今日は帰るか」

「えー、まだ話とかたくさんしたいー!」

「来週はテストだからな?俺と琴葉ならまだしも、お前らにそんな余裕はない」

「んー!!」



時刻はもうすぐで9時になりそうだし、この2人はこの辺りに住んでいるわけでもないので、そろそろ帰った方が良い。




「奏太の言う通りだな。今日は帰るか、」

「私今日たっくんの家泊まろうかなー?」

「あぁいいぞ?泊まってくか?」



2人は家も近いらしく、頻繁にお泊まりをしてるんだとか。明日は土日なので泊まることに問題はないが、こうも簡単にお泊まりというのは決定するらしい。



多少勉強になったなと思いながら、自分の鞄から財布を取り出した。




「もう会計に行くけど、忘れ物すんなよ」

「子供じゃあるまいし、しませんよ」



一応当たりを確認した後、伝票を持ってレジに向かった。1人ずつきちんと会計を済ませて、店の外に出る。




「俺らこっちだから、じゃあなお2人さん」

「お前らも、ちゃんと勉強しろよ」

「気が向いたらな」



やれるだけの事はやったし、最後に忠告もしたので、これで赤点を取っても自業自得だ。



流石にこの後どうなろうとの責任は取らないし、土日にも教えてやるつもりはない。



1人そんな事を考えながら歩く。




「奏太くん、楽しかったですね」



今日一日を振り返るような顔をして、小さく微笑んだ。




「どうだった?勉強会やらご飯は」

「どれも初めての事ばかりで、キラキラして見えました」

「そりゃ良かった」



楽しい、そう思って過ごせていたのなら、奏太に言う事はない。




「それに奏太くんのあの髪型は、駄目ですね」

「褒めてくれたけど、似合ってなかった?」

「………似合いすぎてたのでダメなんです」

「なんだそれ」



これが男には分からない女の気持ちというやつなのか。ほんのりと頬を赤らめた琴葉は、モジモジとして隣を歩く。




「………今度は、また2人で、、、、、、」

「どうした?忘れ物でもしたのか?」



突然止まったので何かと思ったが、さっきよりも一段と顔を赤く染めて、奏太の方を向いていた。




「………やっぱり今のはお預けでいいです。ちゃんと自分の力で願いを叶えてもらうので」

「あ、そう?琴葉が納得してるのならそれでいいけど」



ゆっくりと同じペースで歩いていた琴葉は、急にスピードを上げて前に突き出た。そしてくるりと後ろを向いて、奏太に一言放った。




「私が絶対にテストで勝ちますからね!」



夜の街の街灯に照らされたその姿は、舞い降りた天使とでも表したくなった。






-------あとがき------



・いくつか内容を変更しようと思っているのですが、ご意見をください。



①琴葉が誰ともセックスをせずに、奏太と出会う展開。(出会いの場所と時間は変わりません。また、奏太が誘いを断る展開からスタートし、間宮は未遂)



②奏太とだけセックスをした事にして、間宮もしていなかった事にする。(間宮としたという事実だけをなくし作品を見て自体には登場する。また、奏太とは経験有り)



③何も変えない




①、②、③のどちらが良いかを教えてくださいな。



また、今話は急いで書いたので、描写が薄くなっておりますが、ご了承ください。

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