第35話 道のり
「私は行きたいです」
その言葉を聞いて安堵しつつ、拓哉達に目を向けた。
「奏太はどうする?」
「どうするもなにも、行くしかないだろ」
「そりゃそうだな」
今の流れ的に断る人はいないし、たまには夜ご飯を作らないで外で食べるのも良い。
琴葉はあまり外食の経験もないだろうから、ちょうど良い機会だった。
「よし!そうと決まれば行くか!」
「行こぉ!」
すっかりと行く気満々の2人だが、まだ時刻は6時だ。まだ後1時間は勉強する事ができる。
これは拓哉達のための勉強会でもあるので、するかしないかは拓哉達に決めてもらう。
「まだ時間はありそうだけど勉強するか?」
「えぇー」
「しないだろー。俺はもう行く気になっちまったしよー」
「だろうな」
休憩中という事もあり、2人の意欲は消沈していた。
「琴葉、金持ってきてるか?」
「はい。一応持ってきてます」
外食に必要なのはお金くらいで、その準備も出来ていた。もし琴葉が持ってきてなかったら奏太が出すつもりだったが、琴葉はきっとそれを拒む。
そうなったら取りに帰ると言いそうだが、持ってきているのなら話は早い。
「ならもう行くか、あんまり遅くなっても明日は学校だしな」
「だな。なっちゃん荷物忘れずに持てよー」
「分かってるよ!」
リビングでだらけていたが、起き上がってテーブルの上に散らかしてある教科書と問題集を学校の指定鞄の中に詰め込んだ。
「たっくんこれ重いー」
「来る時は持ててたんだろ?」
「でも持ってよ」
「分かった分かった。持つよ」
そのやりとりの一部始終を見ていた琴葉が奏太の方を向いてクスクスと笑みを零す。
「あのお2人は兄弟みたいですね」
「随分とうるさい兄弟だな」
「微笑ましいです」
外食に出かけた後は、今日はもうここの家に戻ってこない琴葉も、しっかりと荷物を鞄の中に入れた。
その最中にどこか羨ましそうに拓哉達を見ていた。
「どこに食べ行くんだ?」
奏太の家を出てからしばらく先頭を歩く七瀬にそう問う。すると目をキョロキョロさせながら、難しそうな顔をした。
「……私、知らない」
「目的もなく歩いていたのか?」
「……そうなる」
高校生にもなって、目的地が分からないのに先頭を歩き続けるなんて、そんな馬鹿げた話があってよいのか。
「……お前アホだとは思ってたけどここまでとは」
「知らないなら俺達に聞いてみるくらいは出来ただろ」
「いや〜、勢いよく飛び出したあまり、そう聞くのがなんだか気まずくて……」
理由が子供過ぎて怒る気にもならない。怒る元気があるなら近くのファミレスでも探した方が良い。
「………近くにファミレスあるけど、そこにする?」
それを見越して調べていた拓哉が、スマホの画面を奏太達の前に突き出した。奏太の家から進んだ道とは真反対の場所だが、そこが一番近い。
「ここで良さそうだな」
「私はどこでもいいですよ」
「皆んな……」
ゆっくりと近づいてきたと思ったら、またも琴葉に抱きついた。
「ありがとう!」
「こ、こんな所で抱きつかないでください」
以前、路地裏でもっと凄い事をしようとしていた人とは思えない発言だった。何にせよ人間らしさが出てきたというか、あの時と比べて感情がよく出てきている証拠だ。
現に、今は震えもしていないし少しばかり嬉しそうにしているので、年相応の女子高生に戻りつつある。
それとも心を取り戻してきたというべきか。
「ていうかさっきも抱きついて分かったけどさ、ことって結構……」
「はい?何です?」
「いい体してるよね」
「……はい?」
ここには男子もいるのを分かっていないのか、そんな話をし始めた。そういう話は女子だけでして欲しいが七瀬は止まる気がしない。
「大きいし、柔らかい……」
「あの……」
琴葉も突然のことで困惑しているようだった。
「それに顔小さくてめっちゃ可愛いし、男子の視線釘づけだね」
「………別に嬉しくはないですけどね」
「そうだよね。好きでもない人の視線をもらってもね」
女子同士、何か共感できる事があるのか話題が変わった。
「好きでもない人の……」
そう復唱する琴葉をニヤニヤしながら見つめる七瀬。
「ことって好きな人とかいないの?」
「好きな人ですか、」
「そうそう。いないの?」
「………好きっていう気持ちが良く分からないんです」
こうも話題の切り替えが早いと、男子はついていけない。入るタイミングを探しながらも、奏太と拓哉は黙って歩く。
「誰かと一緒にいたいとかは思わないの?」
「………一緒にですか、」
一緒にいたいという人がいるのなら、十中八九奏太の事だろう。それしか琴葉と深く関わる人を知らないし、おそらくいない。
深く関わりそうな人や関わりたそうな人はいるが、現段階では奏太が最も親しいといえる。
「好きかどうかは分からないですけど、ほとんど奏太くんと一緒にいますね」
「あー、そっか。割と一緒にいるのか」
好きかどうかは分からないという言葉付きだが、奏太はそれなりにドキリとした。今の発言は、捉え方によっては認識が大きく変わる。
琴葉がそこまで深い意味を持って発言したとは思えないが、奏太にはかなり効いた。
「おーい、女性陣置いてくぞ」
「あ、今行きます」
「たっくん達早い〜」
立ち止まって話をしていた琴葉と七瀬を動かして、またファミレスへと歩き始めた。
-------あとがき-------
・明日はもしかすると投稿休むかもです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます