第36話 ファミレス

「ついたぞ」

「意外と近いんだね」



去年までは度々きていた、家からさほど距離のないファミリーレストランに到着した。



七瀬の分の鞄も持っていた拓哉は、肩を痛そうにしながら鞄を返していた。




「ここがファミレスですか、」

「ここも初めてか?」

「そうですね。来る機会なんてなかったですし」



………しまった。口を滑らせたと後悔してからでは手遅れだった。



奏太と琴葉はそんな会話をたまにするが、琴葉の事情を知らない拓哉と七瀬は、今の話に耳を疑っていた。




「……琴、初めてなの?」

「そうですけど…」



七瀬の口からそう出るのも仕方がない。それが普通の反応であるし、最初に出てくる言葉だ。



一方の拓哉は、人それぞれ事情があると判断したらしく、言及はしなかった。




「えっと何か理由があるの?」

「………理由というか、何というか」

「なっちゃん、そんな事よりも早く中に入ろう」



追求しようとする七瀬に制止に入った拓哉は、そのまま引っ張る様にして店内へと入って行った。




「………中島さんは良い方ですね」

「こういう時は気が効くからな」

「いつかはお話した方が良いのでしょうか、」

「話しても話さなくても、友達になったらどんな過去だろうと関係ないよ」



一見すれば酷い言い方だ。しかし、友達になるのにその人の過去を一々気にする人なんていないし、それで判断する様な人もほとんどいない。



過去を知ってしまったら気を使ったりする事もあるだろうが、そもそも友達だったら助け合ったりするのは当たり前なので、過去を知っていても知らなくても、起こる事は何も変わらない。




「関係ない、……そうかもですね」



過去に引きずられる人なんて大勢いるし、奏太・・もその1人だ。人にそれっぽい事を言っている奏太だが、これは全部受け入りの言葉だ。




「俺たちも店内に入るか、このまま待たせるわけにもいかないしな」

「これ以上迷惑をかけるのも申し訳ないですしね、」

「……誰も迷惑だとは思ってないと思うぞ」



奏太が発したその言葉を理解するのは、もう数分先の事だった。




「ごめん。待たせた」



時間的にも人が多い時間なので、先に店に入った拓哉達が受付を済ませてくれていた。数名の順番待ちなので、空いている席に4人が腰を下ろした。



奏太の左に拓哉、右に琴葉。その隣に七瀬。先についていた2人に挟まれる席順になったのには、理由でもありそうだ。




「俺らは気にしてないから」

「琴、ごめんね。私は琴の事が心配で…」

「心配、ですか?」

「そうなの。別に琴について変な疑問を抱いてるわけじゃなくて、純粋に心配だったから」



コテンっと首を傾げる琴葉に七瀬は言葉を続ける。




「友達だから、何かあったんじゃないのかなって思っちゃって……」

「友達……」



友達と心配、その両方の単語が琴葉の頭の中に響いた。次は琴葉から七瀬へと話した。




「そう。友達だからさ、力になりたくて」

「心配してくれてありがとうございます。私、今とても嬉しいです」

「よく分からないけど、琴が嬉しいなら私も嬉しいな」



少し友達という関係について理解を示した琴葉と、それを見て喜ぶ七瀬は店内に入ってすぐの入口付近で笑い合っていた。




「奏太、お前の彼女さ、色々ありそうだけど笑ったら可愛いじゃん」

「女の子は誰だってそうだろ。あと彼女じゃないし」

「女子全員の笑った顔が可愛いと思うなら、とんだ口説き上手になれそうだな」

「ならねぇし、なんねぇから」



いつも通りふざけた会話をする。奏太達が話している間にほとぼりが冷めた女性2人は、真面目な顔をして、また話していた。




「私は、迷惑をかけてしまったと思ってました」

「迷惑!?何で?」

「……隠し事というか秘密事をしていて、さらに時間もかけてしまったので」



琴葉の今の主張に呆れた様な表情を見せる七瀬。琴葉もまさかそこまであからさまな態度はされるとは思っていなかったらしく、驚いていた。




「友達にだって、秘密の一つや二つくらいあるのは人として常識だよ!」

「………そうなのですか?」

「自分の秘密を全て教えるんだったら、世の中にプライベートという言葉は生まれないでしょ?」



無茶苦茶な理論ではあるが、言われてみればその通りでもある。この世にプライバシーやプライベートという言葉が生まれたのは、それが必要だからだ。



何故それらが必要なのかというと秘密を守るため。つまり七瀬は、人は秘密を作るのは当たり前だとそう言いたいのだ。



秘密なんて、ないならないに越した事はないが。



珍しくまともな意見を述べた七瀬に、拓哉ですら仰天していた。




「でも、時間を…」

「時間なんてかけるだけかければいいんだよ!友達だったらそれくらいで迷惑なんて思わないよ!」

「思わないんですか……」

「全く思わないかといったら嘘になるけど、あれくらいでは全然だよ」



心配しないで!と七瀬は笑顔で表現する。琴葉が迷惑という言葉などに固執するのは、またも両親に影響されていそうだ。



これは奏太の予想でしかないが、連絡の電話に数分遅れたりしただけで、酷い罵倒を受けたりしたのだろう。



そんな事をされた事のない普通の高校生には、想像を絶する痛みになるはずだ。




「だからいいんだよ琴、友達でしょ?」

「はい、友達です」

「いつか話したくなったらでもいいし、話したくなかったら話さなくてもいいし。とにかく力にはなるからね!」

「赤野さん…」



琴葉が七瀬に心を許した様なそんな雰囲気を感じた。奏太も、琴葉が成長していく姿を間近で見て、親の気分を味わった。




「七瀬でいいよ!」

「七瀬さん、ありがとうございます」



また笑顔で笑う。出会った頃の寂しそうな面影は感じられないくらいに、立派で楽しそうな表情をしていた。




「奏太くん、本当に迷惑をだなんて思っていなかったですね」

「だから言ったろ?あれくらいじゃ誰も迷惑だと思わないよ。むしろ琴葉はもっと迷惑をかけてもいいからな」



店内に入る前の落ち込んだ表情は消え去り、友達という関係を以前よりも強く意識したような、表情をゆるゆるにしている琴葉が、耳元付近にきて呟いた。




「奏太くんには一番感謝してますよ」



深い意味はない純粋な感謝の気持ちなのだらうが、耳元で囁やく吐息と横目にちょこっと映る琴葉に、自分の心臓の鼓動を強く感じた。






-------あとがき-------



・拓哉:「俺の出番ほとんどなくね?」って言ってそう。



・次話は普通に食べるだけなので、早くそこを書き終えて次に行きたい!次話もお楽しみに!!



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