第196話 イカレている

「ば……あ、当っちまったぞ……? ば……なんで……避けねーんだ?」


 ここまでされても特に反撃もできず、攻撃も弱い。

 自身の必殺の一撃を普通にくらわれてしまい、さすがにジオも驚くしかなかった。

 そしてこうなってしまえば、もう勝負は……


「……と……も……だ……ち……」

「ッ!?」


 その時、全身黒ずんで瀕死なはずのジャレンゴクから消え失せそうな声……から……


「んふ♡ ともだちは、痛みを共有しないとダメだよね!」


 ……から、黒ずんだ全身がまるで再生されるかのように怪我が徐々に治っていく。

 それは、回復魔法などではない。


「こ、これは?! テメエッ!」

「僕はヴァンパイアの血を引いてるんだ……ほとんど不死みたいだから……滅多に死なないし、勝手に回復しちゃうんだ~♡」


 不死のヴァンパイアの超速回復。これまでジオが叩き込んだダメージ全てを最初から無かったかのように元に戻り……


「でもね~、死ななくて回復するだけで……痛いのは痛いんだ~。友達なら、友達を殴った痛みがどれだけ痛いか、ちゃ~んと理解しないとね!」

「おま……」

「あは、そして捕まえた~……鏡地獄ッ!!」


 完全に元に戻ったようで、ジオの左腕は未だにジャレンゴクの胴体を貫いたまま。

 しかし、その腕をジャレンゴクはガッシリと掴み、冥獄眼を大きく見開いて……


「が、がはっ!? ッ、ぐ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ジオに駆け抜ける肉体の痛み。

 鳩尾への一撃。

 アバラが全て砕けていく。

 突如顔面にまで痛みが走り、鼻や頬骨を含めた顔面中の骨が砕けていき、そして最後は……



「ぬぐおおおおおおおおおおおおおっ!!!??」


「「「リーダーッ!!??」」」



 胴体を貫かれ、肉体の内部から全身を駆け抜ける雷の力。

 意識が遠のきそうになりそうなほどの怒涛の勢いで押し寄せる痛みを感じ、ジオは理解した。


「っ、て、てめ……こういうタイプの……」

「んふふふ、これが僕の能力の一つ。自分の受けた痛みをそのまま相手に返す……僕自身は不死だからいくらでも耐えられるから……調子に乗った奴はその後どうなるかも分からずに思う存分やっちゃう♡」


 相手の魔法を跳ね返したり、打撃にカウンターするのではない。

 受けた「攻撃や痛み」をソックリそのまま相手にも返すという能力。


「んふふふ、人を……ましてや友達を簡単に殴っちゃダメなんだよ? そのことを、人は……人を殴った痛みを自分も味わうことで、初めて痛みを覚え、もう簡単に殴らないようにしようと、『耐える』ということを覚えられるんだ」


 一見、相手と自分をイーブンにするような能力に見えなくないが、ジャレンゴク自身はヴァンパイアの血で多少の怪我などすぐに回復する。

 さらに、この能力は積み重ねて叩き込まれた攻撃を全て一気に一度に受ける。

 痛み分けどころかして、ダメージが大きいのはどちらなのか明らかである。

 だが……


「くは……くく……はは……」

「ん?」


 全身をズタボロにされ返されてしまったジオだが、痛みや傷で血を吐き出しながらも、口元に笑みが浮かんでいた。


「よかったぜ……俺の攻撃……でな」

「……?」


 ジオのその呟きの意味が分からずにジャレンゴクが首を傾げる。

 すると、ジオは……


「俺もそこまで自惚れてねえ。俺以上に強い奴はいくらでも居る……だから……俺の人生……俺以上に強い奴と戦って……『こんなもん』じゃすまねえ痛みを負って、生死のギリギリを彷徨った経験も数知れねえ……だから!」

「ッ!?」

「この程度の痛みは知り尽くしてるから、殴ることを逆に躊躇う気にならねえッ!!」


 ハッとした表情を見せるジャレンゴクだが、もう遅い。ジオは間合いの中に居る。

 そして、全身を捻るようにしながら、渾身の左アッパーを繰り出して、ジャレンゴクの顎を砕く。


「がひっ♡ あ……んもう……またやってくれたね」


 だが、それでもジャレンゴクは再び笑みを見せる。

 胴体を貫かれて全身に雷を流されても生きていたジャレンゴクに、今さらこの程度の「痛み」は大したものではなかった。

 だが……


「ん? あれ? へ? あれ?」


 笑みを浮かべていたジャレンゴクが自身の異変に気付いた。両膝がガクガクと震えてその場で尻餅をついてしまい、うまく立ち上がることができないのである。


「あれ? どうして……」

「不死身自慢の仕留め方……まずは顎を打ち抜いて脳を揺さぶり障害を起こさせる……痛みは回復できても、衝動は回復できないみたいだな」

「……あっ、……おお……」

「そして、後は脳の血行を止めちまえばいい」

「ッ!?」

 

 ジオは素早くジャレンゴクの背後に回り込み、その腕をジャレンゴクの首に回して絞める。


「落ちろッ!」

「うが、ひが、あ、あががが!」


 裸締め。気管を圧迫して、もが苦しませて相手の意識を断ち切る、原始的な技。

 これにはジャレンゴクもたまらず、足をバタつかせるが逃げられない。


「無駄だ、完璧に入ったこの技は、そう簡単に逃げられねーよ!」

「あは♡ あ、あへ♡ うひ♡」


 体をビクンビクン痙攣させながら暴れるジャレンゴク。だが、ジオは逃がさない。

 すると、ジャレンゴクは……


「ッ、あ……う……あ……」


 右手を上げる。それを手刀の形にして……


「無駄だ。そんな態勢からの攻撃は俺には通用しねえ。仮に、さっきの能力を使っても、顎と首絞め……来ると分かってるなら、根性で耐え切ってやらぁ!」


 ジオはその手を自分に対する攻撃だと思い、歯を食いしばって耐える決意をした。

 しかし、予想は大きく外れた。

 なんと……


「うひひひひひひ!」

「ッ!? お、おまっ!?」


 ジャレンゴクは己の手刀で、自分自身の首を切断した。


「なんとっ!?」

「な、なにを!?」

「ひいいいい!?」

「いやあああああああああ!?」

「く、首がぁァ!」


 切断面から噴水のように飛び散る大量の血。

 これには流石にジオも驚き、腕を離してしまった。

 その瞬間、崩れ落ちる胴体……かと思いきや、なんと首を失った胴体が動いた。


「ぬわははは……己の不死身をこういう利用するとはのう」

「……だからといって……」


 その瞬間、全てを察したガイゼンも脱帽するかのように感嘆し、マシンも無表情ながらも衝撃を受けた様子。


「テメエ……俺のチョークを逃れるためだけに……首を切断するとか……クレイジーなやつだぜ!」


 ジオもジャレンゴクの行動の意味を理解して溜息を吐く。

 そして、ジオからの拘束の逃れたジャレンゴクの胴体は、そのまま切断されて転がった己の頭部を拾い上げ……そして首だけのジャレンゴクは再び邪悪な笑みを浮かべた。





――あとがき――

明日から黄金週間が完全に終わって日常に戻るわけですね……みなさんファイト! GWなんて無かったぜという猛者たち、お疲れさまでした。


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