第135話 大人たちと尻好き

「ねえ、そろそろさ~、遅いけどさ~、リーダーさんとチューニ君はどこに泊まっ――――」


 そして、そろそろお開きにして、そしてこの後の話をしようと、ヤーリィが手を叩いて声を上げながら戻ってくる。

 まだ考えがまとまってないジオは、少し焦りそうになってしまった。

 だが、その時だった。



「こんばんは~」


「「「「「「ッ!!!???」」」」」」



 店の扉が乱暴に開けられ、外から大勢のガラの悪い大人たちが唐突に店内に入ってきたのだった。


 その人数は、この狭い店では収まりきらないほどで、入り口を完全に外まで埋め尽くしている。

 ボーイも何事かと慌てて出迎えに行くと……


「あっ、お客様。いらっしゃいませ。何名様――――」

「貸し切りで」

「ッ!?」

 

 次の瞬間、大人の一人が鉄の棒を振り回して、ボーイの顔面を打ち抜いた。


「「「ッ!?」」」

「ちょっ!?」

「お、い、あんたら!」

「……あ~……なんだ?」

「ひっく、うい~、おパンツずらしてもいい?」


 突如、肉が潰れて骨が砕けた音が響き、更には鮮血とボーイの歯が数本、床に飛び散った。


「う、うぎゃああああ、い、いてええ、いてえよお、う、うわあああああああ!!」


 激痛のあまりに泣き叫んでのたうち回るボーイ。

 仲間がやられたことに憤慨するグルの男たち二人も立ち上がろうとしたが、あまりにも大人数の大人たちを前に腰を抜かしてしまっている。


「ひ、い、いや、な、なんなの? な、なんで?」

「な、によ、こいつら!」


 少女たちも突然の暴力にうろたえ、子供のように怯えて後ずさりする。

 そんな若者たちの怯えた姿にニヤニヤしながら、大人たちはズカズカと店内に入り込み、一人の男がのたうち回るボーイの背中を押しつぶすように座った。



「こんばんは~、若者の諸君。僕様たちは、この街をシノギの場にさせてもらっている、ゴークドウ・ファミリー直参の『キスキ・ファミリー』です」


「「「ッッ!!??」」」


「君様たちかな? 僕様たちの庭を土足で踏み荒らしている若者たちは。ダメじゃないかな? 大人のエリアを踏んだらさ」



 明らかに堅気ではない雰囲気の男たち。強面で、ガラも悪く、武器も持参している。

 そして、『ファミリー』という名に、若者たちは全てを察して委縮してしまっている。


「若者がね、僕様たちの街で遊ぶのはいいんだよ。その分、街も潤うからね。でもね、踏み荒らすのはダメじゃないかな?」


 そう、街のアンダーグラウンドを取り仕切る、「大人」が出てきてしまったのだ。

 

(やっぱこういうのが出てくるか……にしても、ゴークドウ・ファミリー直参……直参っていうと本家直属ってことか……じゃあこいつら……)


 一方で、ジオは特に驚く様子もなく、落ち着いた様子で状況を見て、そして大人たちの口から出てきた、『ゴークドウ・ファミリー』に気を取られていた。

 チューニは状況をまるで理解できず、ソファーの上で怯えて後ずさりしている少女たちのスカートの下から見えるパンツに合掌していた。


「さて、若頭……どうしやす? ガキども……ガキかと思ったら、女は結構上玉じゃないっすか? 男はバラして、女はどっかに売り飛ばしますかい?」

「まぁ、その前に、楽しませてもらうけどな」

「うへ、うへへへへ、お、おで、一度でいいから、魔法学校の制服着た女を犯してみたかったんだ~」

「俺、あの金髪にしようかな?」

「じゃあ、俺は左ね」


 下衆な笑みを浮かべて、少女たちに卑猥な視線を送る大人たち。

 本来、彼女たちを守ってトラブルに対処するボーイの男は既に叩きのめされ、他の男二人も腰を抜かして立ち上がれないでいた。


「ひ、や、やだ……こ、ころさ、ないで」

「ご、ごめんさい、あ、あーしら……」

「そ、そうだ! お、お金! い、今までのお金は全部渡します! だ、だから……」


 彼女たち自身、こういったことをしていながら、大人が出てくることは予想していなかったのか、その恐怖にひきつった表情は子供そのものであった。

 そんな少女たちの怯えた様子に男たちは気分をそそられたのか、より邪悪な笑みを浮かべていた。

 だが、そんなとき……


「こらこら、君様たち。犯すとか、バラすとか、売るとか……子供相手に言うのは酷いじゃないか。将来有望な子たちなんだから、優しく接してあげないと」

「若頭……」


 そう告げたのは、ボーイの背中に座っている男。

 一人だけ異質の空気を発している、ナヨナヨとした優男。

 だが、態度や周りの空気、そして「若頭」という呼称。


(……こいつが、頭か……)


 ジオは男を眺めながら、その男こそがこの大人たちのリーダーのような存在なのだろうと理解した。

 すると、男は優しく微笑みながら……



「そう。たとえば、最初は僕様もお仕置きと考えていたけれど……実際に会ってみると、やはりかわいいね。とってもキュートなお尻があるじゃないか。こんなお尻の持ち主を、僕様はひどいことはできないよ」



 そのとき、ジオは一瞬聞き間違いかと思った。

 男は今、「お尻」と口にしていた。

 だが……


「やはり、人は顔でも胸でもアソコでもない……お尻だよ。お尻こそが全ての真理なんだよ。だからね、ふふふ……若者のキュートなお尻を……何日でも何か月でもいくらでも時間をかけて、優しく滅茶苦茶にしてあげたい! うふ、あは、あははははははははははは!」


 優しい笑みを浮かべながら、歪んだ瞳と狂ったように笑いだす男。

 聞き間違いではなかった。

 そして、それは少女たちにとっても同じ。


「い、いや、やめて! ひどいことしないで!」

「お尻とか、嫌! いやだってば!」

「たすけて……や、や、いや……」


 必死に尻を抑えながら泣き叫ぶ少女たち。

 痛めつけるとか、ただ犯されるとか、それ以上の恐怖を男から感じたのだ。

 すると、男は……


「当たり前じゃないか。うぬぼれるな。君様たちじゃないよ。僕様の好みのお尻は……この子だよ」

「ッ!?」

「大体、僕様はお尻と言っただけで、一度も君様たちだなんて言ってないよ。本当に醜いね、君様たちは。こういう恐怖に怯えるような状況下でも、自分は可愛いだなんて思っている。なんだか、君様たちこそバラしてやりたいかな?」


 そう言って、男は自分が今座っている、傷ついたボーイの尻を触った。

 その瞬間、その場にいた全員が表情を青ざめさせた。


「男と女は体が違う。顔つきも、胸も、そしてアソコの形も。でもね、お尻は同じなんだ。そう、魔族も獣人も動物も同じなんだ。お尻は。お尻こそが神が作り与えし、全生命全性別における共通の器官。つまり、お尻を愛することこそが、その生命を愛すことにつながると、僕様は信じているんだよ」


 誰にどんな風に思われようとも一切関係ないとばかりに、己の持論と性癖のようなものを誇らしげに語る男。

 ボーイは傷の痛みなど忘れ、それ以上の恐怖で全身をカタカタと震わせている。

 そんなボーイの尻を優しくなでながら、男は告げる。


「ふふふふ、かわいいね。ねえ、君様の名前は? 僕様は、オシリスっていうんだ。キスキ家の長男にして、現在ファミリーの若頭もやっている、『オシリス・キスキ』。よろしくね。ぜひ、僕と素敵なお尻愛……お知り合いになってくれないかな?」


 それが、その男の名。大人たちを率いる、ファミリーの若頭。オシリス。

 そんなオシリスの発する悍ましい空気が、店内を埋め尽くしたのだった。


「へへへ、一番ヒデーのは若頭だぜ。おい、そこの魔族の兄ちゃんとガキ。あんたら客か?」

「運がよかったな。ここはクソぼったくりの店でな。まだ金を払ってないなら、あんたらラッキーだぜ」

「ほれ、今からここは俺らが貸切るからよ、あんたらはとっとと出ていくんだな」

「若頭の可愛がりを見たいなら、話は別だけどな」


 そのとき、この場に居たジオとチューニを、ただのカモられている客だと思った大人たちが、愉快そうに笑いながらジオたちの肩を叩き、出ていくように促す。

 すると、ジオは……

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