第132話 ぼったくり
多くの人が行き交うメイン通りから外れた、狭い路地裏通り。
薄暗く、あまり前も見えず、何も目的が無ければ普通は通らないだろうと思われる道を歩く三人の少女たちと、その後についていくジオとチューニ。
すると、通りの先に人の気配をジオは感じた。
「……あそこあそこ、ア・ソ・コ!」
そう言って、少女の一人がいやらしい笑みを浮かべて寂れた建物を指差す。
室内からの明かりは一切無く、店の外には錆び付いた看板が立っているだけで、とても営業しているようには見えなかった。
「んっ? よう、お帰り。お客さんかい?」
店の前の小さな段差に腰を下ろしている一人の男が居た。
緑の短髪という派手な頭をして、シャツとズボンと一応正装はしているが、体格もよい強面である。
「いらっしゃい、今、店開けますから」
ジオとチューニの姿を見て、軽く会釈だけして店の扉を開ける男。
指先で軽く炎の魔法を灯して、部屋に明かりをつける。
明かりのついた店内は、掃除もしてあって、それなりに清潔ではあるものの、小さなカウンターと、五人程度が座れるソファーと椅子とテーブルが二つしかない、こじんまりとしたものであった。
「……まっ、こんなもんだろうな」
「ん? リーダーさん、どうしたん?」
「いや……」
ジオは店内に大して思うことも無く、「こんなものだろう」と頷いた。
(学生がコソコソやってるような店。潰れた店でも安く買い取ってんだろうな……)
予め想定していた、「ぼったくり店」そのものだとジオは苦笑した。
そんなジオの苦笑に気づかず、少女たちは奥のソファーへとジオとチューニを誘う。
両端に逃げ道を塞ぐように少女二人、そしてジオとチューニの間にもう一人少女を座らせて、ガッチリと固める。
「リーダーさんと、チューニくんは何を飲む? あっ、もしよければだけど~、私たちも飲んでいい?」
「えっ? おねーさんたちも? 普通に飲めばいいと思うんで」
「……ちげーよ、チューニ。そうじゃなくて……まぁ、いいや。好きなもん飲みな」
今の少女たちの「自分たちも飲んでいい?」は、「驕ってくれ」という意味なのだが、チューニはそこまでは理解できていない様子。
「「「やったー! ゴチ~!」」」
だが、別に断る理由も無いので、ジオは了承した。
すると……
「……いらっしゃい」
「あ~、今日も研究疲れたぜ」
「ほんとダリイぜ」
先ほどまで裏通りに人影は殆ど無かったはずが、ジオとチューニが店を訪れた瞬間、別の客が店内に入ってきた。
魔法学校と思われる制服を着た男二人。二人は特に案内されるでもなく、慣れた様にそのままカウンター席へ座る。
二人とも、チューニの元クラスメートたちのような気品や育ちのよさはまるで感じさせない、少し荒っぽさを感じさせる容貌だった。
そんな二人が、少しだけチラッと振り返ってジオとチューニの顔を見て、その隣に居る少女たちに軽くアイコンタクトをしたのをジオは見逃さなかった。
(この二人もグルか。最後に支払いで揉めたら、こいつらが出てきて暴力振るったり脅したりして、力ずくで金を取る算段か……優等生が集うトキメイキモリアルの生徒にしちゃ、使い古されたオーソドックスなことをするんだな……)
ここまで想定したとおりだと、却って拍子抜けだと思いながらも、ジオは気づかぬフリをして店のボーイを呼んだ。
「おい。注文いいか?」
「はい、なんでしょう?」
「この店で……一番高い酒を持って来い。あと、チューニはジュースか?」
「ぷじゃけちゃダメなんで、リーダー! 僕は、リーダーに今日はついていくって決めたんで、僕もお酒なんで!」
とりあえず、注文をとジオが手を上げると、なんと酔っ払いチューニまで便乗して挙手。
その様子に呆れながらも、「まあ、もう俺も知らねえ」と開き直ったジオは、好きにさせることにした。
すると、「高い酒」と聞き、ボーイの男の目が急に光だし、丁寧に腰を下ろしてジオに……
「御客様。それでしたら、ロマネポンティがありますが?」
「ほ~う。すげえ酒じゃねえか……(んなもんが、こんな店にあるわけねーだろうが)」
「リーダー!? それって、すごい高いお酒でしょ!? 僕も聞いたことあるんで! 一口でいっぱいおっぱいな値段だって!」
ボーイが進めたのは、酒を知らないチューニですら知っている世界的に有名なものであった。
もっとも、ジオは「どうせ偽物」と見抜いているが、チューニは興奮して大はしゃぎ。
「え~、ポンティ? ポンティがあるの? 飲みたい飲みたい~!」
「あーしも! ポンティを入れて~、入れて入れて~♪ あーしに、ポンティいれて~」
「あは、ウケる~、やらしー! でも、ポンティ欲しいな~、ポンティ」
少女たちも「なんとしても注文させよう」とジオの腕にまとわりつき、胸の谷間にジオの腕を挟んで擦り付ける。
それを受けて、ジオもあえて乗ってやろうと笑みを浮かべて、ボーイに堂々と告げる
「じゃあ、全員分頼むぜ!」
「かしこまりました! ポンティ入ります!」
その瞬間、少女たちとボーイと、カウンターに座る男二人は一斉に親指を一瞬突き上げていた。
大方、「カモが掛かった」と思ったのだろう。
「う~、ね~、リーダー?」
「ん? なんだよ、チューニ」
「リーダーは、ロマネポンティ飲んだことあるの~?」
「あ……ねーよ。(ほんとは、あるけどな……一口だけ口移しで飲ませてもらったな……ティア……ナ……はどうでもいい。どうでもいい)」
正直、ジオは本物の酒を飲んだことあった。だが、それを言うと周りの者たちは警戒するだろうと思って、あえてウソをついた。
「お待たせしました」
そして、ボーイが早速グラスに入れて持ってきた酒は、色も薄く、香りも大して無い、ジュースのような酒であった。
ジオはそれを見て「やっぱり」と思うも、それは言葉にせずに黙ってグラスを受け取った。
「じゃぁ、今日は~、リーダーさんとチューニ君との出会いを祝して~」
「乾杯じゃね?」
「うん、それでいいじゃん?」
「お姉さんたち、後でおっぱい……」
「……もういいや、お前は好きにしろ」
まずは乾杯。少女たちとグラスを付けて、運ばれた酒に口をつけるジオ。
それは案の定、安っぽい普通の酒であり、ジオ自身は特にうまいとも思わなかった。
「はう~、これがポンティ、ブドウジュースみたいで美味しいな~」
しかし、チューニはそれを感動したように飲み、少女たちも露骨に大はしゃぎして、ジオたちにじっくり味合わせないようにまとわり付いた。
「すっご、ちょーおいしいー!」
「もう、リーダーさん、チョーヤルし~! ポンティもうんまいし、チョー感動!」
「ねぇねぇ、今日はとことんしょ? ねぇ、ウチら帰りたくないし~」
ジオにとっては、少女たちの言葉は「搾り取るだけ搾り取ってやる」という風にしか聞こえなかったが、そこは笑って頷いておいた。
「あ、そいや、自己紹介まだじゃね? 私、ガヴァね」
「あーしは~、ユルイね」
「自己紹介今更とか、ちょーおせえ。ウチはヤーリイね?」
そう言って、今更ながらと自己紹介をする、ガヴァ、ユルイ、ヤーリイという三人の少女。
自己紹介ということなので、せっかくだからジオも聞いてみることにした。
「お前らは、トキメイキモリアルの魔法学校の生徒か?」
「そうそう。あーしら、トキメイキにある、キラメイキ魔法高等学校ね」
「結構な優等生だろうが。ベンキョーしなくていいのかよ?」
「え~、リーダーさん、説教タイプ~? それ、チョー気分下がるからやめよーよ~」
当初の目的であるトキメイキモリアルの情報収集。
正直、少女たちは勉強や学校の話題はあまり好きではないのか、一瞬メンドクサそうにするも、ここでジオの機嫌を損ねても仕方ないと思ったのか、話をしていく。
「まぁ、ぶっちゃけ~、ベンキョーはもうアホらしくてやってらんないって感じ? あーしら、『黒姫』に憧れてっし」
「黒姫……?」
「そっ。今、あーしらと同じ学校居んだけど、ダークエルフって奴なんだけど、チョー美人で、胸もデケーし、服のセンスもあるし、セクシーだし、チョーヤバイんだから」
「はっ!? えっ? ……ダークエルフ?」
思わぬ情報。黒姫という異名を持った、ダークエルフの存在。
ソレを聴いた瞬間、ジオも「まさか」と驚いた。
――あとがき――
漫画UPでコミカライズ更新されておりますので、そちらも是非にィ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます