第115話 心の解放
「ジオ~、お前、我の尻触ったり、裸にしたり、お前はすこぶるスケベな奴だな!」
「いや、裸にしたのはワザとじゃねーよ! 大体、俺は大人だ。まだ生え揃ってねーようなガキの裸なんて見たって……ナントモオモワン」
「んなっ!? 違う! わ、我は剃ってるだけだ!」
「……そういう意味じゃねーんだが……なんか、それは申し訳ない……。つか、羞恥心はあるのに、ほんとに最近のお嬢様やお姫様は情操教育が……」
「うるさい! うう~……もう、なんでこんなことに……」
その瞬間、もう何もかもが嫌になったのか、メムスはまた瞳に涙を浮かべてその場で小さく蹲った。
だが、それも一瞬のこと。
ふつふつと、「何で自分がこんな目にあっているのか?」という感情が沸きあがってきたのか、メムスは段々と開き直り、
「お前の……お前の所為だーーーっ!」
「おぶっ!?」
もうどうにでもなれと立ち上がり、自分の裸を一切隠そうとせずに猛然とジオに飛び掛って、顔面を殴った。
「……おま……いくらガキでも……ちったー、隠せっつーの」
「うるさい! お前が引ん剥いたんだろうが! というか、もう全部見られたんだから、今更隠す必要もない!」
「……お、おお……」
「お、お前に見られるぐらい……そんなことぐらいで、我を辱められると思ったら大間違いだ!」
「……ほ、ほう」
顔を赤くしながらも、もう完全に開き直って笑うメムス。
「ふふ……まったく、お前は変な奴だ。お前といるとペースが乱されて……なんだか……悩んでいたことがバカらしくなってくる……お前の所為だ。我がこうなったのは」
そのとき、ジオはメムスの美しい体よりも、その強い笑みを浮かべるメムスの表情に目を奪われ、自然とジオも笑っていた。
「……いいじゃねえか……なんだか、今のでお前がけっこう良い女に見えたぜ?」
「ふふん、今更気づいたか?」
そんなジオの言葉に、メムスも照れながらもハニカミ返した。
「さあ……もう何も恐くないぞ、ジオ! 謝るなら今のうちだぞ?」
もう何も恐いものはないと、堂々とジオに近づくメムス。そのまま拳を振るってジオの頬をまた殴った。
「へっ、誰が……」
何度目か分からぬ拳を受け、折れた歯を血ごと吐き捨てながら、ジオもまだまだ笑みを絶やさない。
「そうか! なら、ぶっとばしてやる! っていうか、我がお前をお仕置きしてやる! お前も尻を出せ!」
「十年はえーよ! 俺の尻はそんなに安くねえ!」
「人の尻を軽はずみに叩いた男が何を言う!」
「自分の尻に値打ちが欲しけりゃ、もっと良い女になるんだな!」
「ああ、なってやるとも! 今に見ていろ! お前が涎を垂らして我に媚びるような良い女になってやる! っていうか、そもそも、お前は人に偉そうに言えるほど、良い男なのか!」
「くははははは、それを言われちゃ、何も言い返せねぇな!」
メムスが拳を足を、堂々と振り回してジオを攻撃し、ジオはメムスの顔などへの本気の打撃は避けるように、転ばせたり、投げたりして反撃した。
笑いながらそんな攻防を繰り広げる二人の間に、黒く染まった負の感情は一切無かった。
「これをこうして、こんな感じで……どうだ!」
「……おっ!? 雷の魔法を……放出しないで……肉体に纏って……お、おいおい、『魔道兵装』か!?」
「ん? なんだそれは? よく分からんが、雷を放ってもお前には当たらないから、私が雷になってお前をぶん殴る方がいいと思っただけだ」
「……くはははは、世の魔法使いもなかなか辿りつけない境地に……無自覚天才が……」
雷を体に纏って、全身を黒い雷で輝かせるメムス。
メムスは負の感情が薄れるだけでなく、ジオに心を解放され、戦いながら力を引き出され、メムス自身の才能もあり、戦いながらどんどん進化していた。
そんなメムスに呆れながら、ジオは……
「やるじゃねーか。どうだ? その力があれば、ムカつく奴らをぶっとばすことも―――」
「そんなことに使うものか! もう、我は自分の力に振り回されなどしない! 飼いならし、そして家族を守り、そのついでにお前をぶっとばす!」
「くははは、……って、ムカつくやつはぶっとばさないのに、俺だけはぶっとばすのか?!」
「お前だけは例外で、特別だ!」
試すようなジオの問いも、メムスは一蹴した。
もう、メムスは自分の力に飲まれないと、自分の口で自然と叫んでいた。
「まったく……ほんとうに……我は何を恐れていたのだろうな……」
「メムス?」
「確かに皆……我を恐れた……だけど、すぐに手を差し伸ばしてくれたのに……我は意地になって、怯えて、そして逃げ出してイジけていた……みんな、ゴメンって謝ってくれたのに……我はまだ、ロウリに謝ってもいないのに……」
そして、進化した力を振り回す……かと思えば、メムスは途端に大人しくなり、ジオへ向けた攻撃も途中で手が止まってしまった。
「ジオ……お前は言ったな? 我はまだ戻ることができると……」
もう一度教えて欲しいとジオに問いかけるメムス。
その問いに、ジオも笑みを止め、
「お前が村人をゴメンで済ますことが出来るなら……傷ついた妹がお前をゴメンで済ますことが出来るのなら……戻れるはずだ……お前は……戻れるさ……まだ、お前は戻れる」
自分はゴメンで済ますことはできなかったから、もう戻れなかった。
だが、メムスたちならば……。
そんな想いを抱きながら、ジオはメムスに頷いた。
「……まっ、ガラにもなくエラそうに説教してやったが、戻るかどうかはお前次第。お前の自由だ。後悔する生き方も、後悔しない生き方も、どっちの生き方だろうとお前が決めて責任を持て。大人になるってのは、そーいうもんだ。だから、俺が言えるのはここまでだ」
「ジオ……」
「お前は戻れる。それを踏まえたうえで、自分で決めろ」
そして、ジオはここから先の選択はメムスに委ねた。
「そうか……うん……そうか……そうか! ……なんだか……もう、色々とスッキリした」
ジオの言葉を受けて、メムスは嬉しそうに頷いた。
「そうか。なら……決着を付けねーとな」
「ジオ? ……いや、我はもう」
「ダメだ。中途半端じゃな。物事にはしっかりケジメはつけねーとな。寸止めはつらいもんなんだぜ? って、子供には分からねーか?」
「そう……なのか? まぁ、お前がそう言うなら……これも、大人になるために必要なら」
メムスはもう答えを出して清々しい表情をしていた。
なら、残るは決着だけ。
特に勝負しているわけでもなく、メムス自身はもう十分だと思っていたが、これも必要なことなのだとジオが告げると、メムスも納得して頷いた。
「なら、最後にもう一度だ! 受け止めてくれ、ジオオオオオ!」
メムスの熱い想いに呼応するように、メムスの全身を纏っていた雷が激しく唸り、その勢いのままジオに向かう。
「これが我の今の全力! お前から学んだ力……ふ、まるでお前色に染められたみたいでちょっと不服だが……」
対してジオは……
「ああ……そしてお前は……この最後を経て、また一つ学んで……今後の人生に活かしてみろ」
両手を広げて待ちかまえ、体内に内在する魔力と気、二つを融合させて身に纏う。
これまで禍々しい闇の魔力ばかりを纏って戦っていたジオとは打って変わり、眩い光のオーラがジオの全身を包み込む。
それは、ワイーロ王国で大嵐に立ち向かったときに使った力。いや、それ以前の頃から戦場で振るっていた、ジオの本当の力。
「お前は魔力を身に纏って戦う魔法使いの戦闘術、『魔道兵装』を身に着けたが……こいつはその上位互換」
「ッ!? な、なん、この力は……」
「人が持つ生命エネルギーである気と、体内の魔力を融合させる……俺のオリジナル……『武装暴威』だ。そして、これが俺の―――」
その力は、尋常ならざる破壊力を秘めたメムスの攻撃を真正面から打ち消して……
―—ジオインパクト!!!!
突き出した拳から発せられる強烈な閃光にメムスを包み込んで吹き飛ばす。
「……お前……強かったんだな……」
「ああ、男前だろ?」
その力強くも温かい光は、メムスにはどこか心地よく感じ……
「ふふ……ジオ……ありがとう……」
「……ああ」
「今日……お前が居てくれて……良かった」
「ああ」
メムスはハッキリとそう告げた。
「……いっぱい殴っちゃって……迷惑をかけて……本当にすまなかった……」
「……ああ」
「……我は自分と向き合う。この力も制御してみせる……」
「ああ」
「皆とも向き合って……自分がロウリにしてしまったことからも……逃げない」
「ああ」
「迷惑をかけたカイゾーにも謝る」
「ああ」
「そして、我も大人になる」
「ああ」
「我は人間だが……魔族という血とも向き合う」
「ああ」
「だから、もっと色々と教えて欲しい……我の血や……その根源……大魔王についても」
「ああ」
「そういえば、我はお前のこともあまり知らない。お前のことも教えてくれ」
「ああ」
「ン法教えてくれ」
「断る」
そして、ふっとばされながら最後の最後にメムスの舌打ちが響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます