第81話 ややこしい依頼とチューニの才能
普段臆病なチューニも、もはやこのときばかりはジオへの恐怖心がないのか、ジオの胸倉掴んで泣きながら叫んだ。よほど頭に来たのだろうと、ジオも苦笑しながら後ずさりする。
だが、ジオは引き気味になりながらも、テキトーなアイデアを押し通そうと、チューニの肩を叩いて真っすぐな目で見つめ……
「チューニ。お前は自分を誰だと思ってんだ?」
「……ふぇっ?」
「お前は……あのガイゼンに認められた、拒絶の無限魔導士チューニじゃねえか。そんな、歴史に名前しか残ってねえような会ったことも無い先人を参考にしないで、お前が新しい魔法の理論を生み出せばいいじゃねえか」
「い、いや……そんなこと言われても……」
「魔法なんてもんは、魔力の扱い方さえマスターすれば、後はイメージの世界だ。雷だって、炎だって、そうさ。なら、四次元空間だってできるはず。お前が自分だけの誰にも邪魔されない世界を想像したら、いつか扉が開くかもしれねえ」
「……リーダー……」
「そもそも、お前は魔法の才能の塊なんだから、畑の前に魔法のトレーニングでもしてろ。基礎なら俺が教えてやるからよ。ほら、とりあえず、今は畑は後回しにして、イメージトレーニングでもしてろ」
そう言って、ジオは部屋の隅を指さしてチューニを壁に向けさせて座らせた。
言い包められたことにブツブツ文句を言いながらも、ジオの命令で渋々チューニは従うしかなかった。
「さて、とりあえず、ワガママなガキは放っておいて……」
「リーダーも随分とテキトーだな……」
口八丁で面倒なチューニを静かにさせるジオの振る舞いに、マシンも少し呆れ気味に溜息を吐いたのだった。
「しかし、リーダー……チューニの望みだが、船を改造すれば振動などの無い部屋を作れなくもない。強力なバネなども必要となるが……」
「だが、材料なんてねーだろ? どっちにしろ、次の目的地に辿り着いてからだ」
次の目的地。その言葉を聞いて、マシンの眉が僅かに動いた。
「……ワイーロ王国から遥か北……『ハーメル王国』だったな」
「ああ。それが、あのフィクサの野郎の依頼の場所だ」
そう言って、ジオはテーブルの上に投げ出されていた、ワイーロで貰った報奨金の袋に入っている紙を取り出した。
「俺もこの国のことはよく知らねーが……ハーメル王国の『地方都市ヨシワルラ』って場所に、フィクサの依頼の『本当の依頼人』が居るみてーだ」
フィクサが別れ際に告げた依頼。それは、見てみたらフィクサの依頼というよりは、フィクサに依頼されたものをジオたちに流されたというものであった。
「あまり、自分は気が進まないな。結局、奴のことは謎のままだったからな……」
「ああ、そういやあいつ、お前やナグダのことも結構知ってるみたいだったしな……とりあえずは、ただのD級冒険者兼起業家と呼ぶには、怪しすぎるやつだったな」
「ああ。それに、その依頼文……正直、ややこしい」
あまりフィクサに良い印象を持っていないマシンが少し不機嫌そうに呟くと、ジオもそれには同意した。
フィクサに渡された紙に書いてあった依頼とは……
「確かにな。『ある賞金首の男を討伐したことにして生け捕りにし、ある女に引き渡して欲しい』……『その男と女は戦争で離ればなれになった恋人同士であり、女は恋人と再会出来たら一緒に暮らしたい』……『男は賞金首であることを引け目に感じて意地になって帰ってこない』……『説得や捕獲に向かった冒険者は誰も成功してない』……『依頼が成功したら、男の賞金の3倍の報奨金を支払い、更には『優待券』を進呈する』……だとよ。なんだよ、優待券って」
「分からない。それに、賞金首を討伐したことにして生け捕りにして他者に引き渡すなど……公式では認められない違法行為であろう?」
「まっ、フィクサの持ってきた話である以上、不思議じゃねーけどな」
意味が良く分からない依頼内容に加え、違法な香りのする案件。
この依頼内容が分かった時、ガイゼンは乗り気であったが、マシンとチューニは微妙であった。
だが、ジオは……
「まっ、どうせ目的地もないんだし、話だけでも聞いてみても面白いかもしれねーよ。この依頼……賞金首の男が誰なのかは、このヨシワルラに居る依頼主の女……『プロフェッサーP』とかいう女と会わないと詳しく教えてくれねーみたいだしな」
「依頼の内容から、その女もカタギではないのだろう……」
「なーに。別に相手が誰でも構わねーさ。結果的に俺らをハメて何かしようとしてるんなら……それならそれで、そのたくらみ事ぶっ潰してやりゃいいさ。十倍返しぐらいでな」
まともな話ではなくとも、刺激的な話になるかもしれない。
それならそれで、面白そうだから、話しぐらいは聞いてみてもいいかもしれないというのがジオの考えであった。
どちらにせよ、目的地も目的もなく世界を遊び歩くのが自分たちのチームのテーマであるのだから。
「ふっ……確かにな」
イザとなったらぶっ潰せばいい。ジオの単純明快な思想だが、マシンは呆れ半分、納得半分といった様子で口元に笑みを浮かべて頷いた。
すると、その時だった。
「り……リーダー……マシン……」
部屋の隅でイメージトレーニングしていたチューニが震えた声でジオとマシンを呼んだ。
「ああ? んだよ、チューニ。集中力がねーぞ? 飽きたか?」
「何かあったか?」
まだ、トレーニングを命じて数分しかたっていないのに、もう飽きたのかとジオが呆れると、チューニは顔面を蒼白させながら……
「……べ……別の空間できちゃった……」
「「……………??」」
チューニの呟きに思わず首をかしげるジオとマシン。振り向くと、チューニの目の前の壁との間の空間に、真っ白い靄のような物が出現していた。
「「……えっ??」」
改めて更に首を傾げる二人。するとチューニは……
「思えば僕は……誰にも邪魔されない自分だけの世界が欲しいって小さいころから妄想していたから……そのイメージに魔力を通すような形で考えたら……なんか、できた……」
そう言って、チューニが靄に触れると体ごと姿を消してしまった。
「お、おいおいお、チューニッ!?」
「この魔力反応は……ッ!」
突如靄の中に姿を消したチューニに慌ててジオとマシンが駆け出して後を追う。
すると、二人が靄の中に入った瞬間、そこには見渡す限りただの真っ白な、どこまでも続く広大な世界が広がっていた。
「う……うそ?」
「……こ、これは……」
流石の二人も開いた口が塞がらずに呆然とする中、ポツンと真っ白の世界で立っていたチューニが恐る恐る振り返って……
「ど、どーしよう?」
「「いや、そんなことを言われても……」」
こんなもの、ジオとマシンでもいきなりでは何も言葉が出ず、しばらく三人はその空間で立ち尽くしていた。
その際に、靄の向こうから……
「おーい、リーダー! しばらく寝室に籠るから、入ってくるでないぞ?」
「な、なあ、あんた……ほんとに……あ、あたいみたいな醜女を抱く気かい?」
「何を言う。醜女じゃと? もし、それを頭蓋骨の上に被っているだけの面の皮を言っておるのであれば、つまらんことじゃ」
「……あんた! ああ……あたいも女だったんだ……あんたみたいな強くて逞しい男に……こうして……抱かれ……た……かった」
「分かっておる。海賊稼業の二十年で失っていた、ウヌの女の悦びをワシが目覚めさせてやる」
「嗚呼、あたいはもう負けたんだ! 好きなようにしてくれ!」
ガイゼンが女海賊をあっさり倒しただけでなく、口説いて抱く展開にまで進んでいた声が聞こえたが、正直、今のジオたちにはどうでもいいことであった。
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