第77話 さらば過去。そして、ようこそ
自分たちは、ジオを探し、ジオの危機を救い、そして状況によっては止めるためにここまで来たつもりだった。
しかし、事態はもっととてつもない真実があるのではないかとティアナは察した。
そして、その時、ナジミたちがハッとした。
「えっ? じ……ジオ? ジオってその名前……えっ? だって、この人……オジオって名前じゃ……」
ティアナや帝国の口から出た、ジオの名前。
これまでフェイリヤが勘違いされる呼び方を使っていたため、ワイーロ王国の民、兵、そしてハウレイム王国の救援部隊たちも誰もが分かっていなかった。
「ちょ、そ、それって、確か……暴威の破壊神・ジオ!!??」
ようやく明かされたジオの正体に衝撃が走る。
ワイーロ王国の者たちも、まさか昨晩大暴れした男が、かつて世界に轟いた英雄だとは思っていなかったのである。
「ええ、そうよ。だからこそ、彼は……私たち帝国において大切な男なの! 教えて、一体何があったの?」
だが、今はそんなことよりも、早く何があったのかを教えろとティアナが急かす。
一秒でも早く、何があったのかを理解しなければならないと、切羽詰っていた。
やはり、何か自分たちの想像もつかない出来事や事情があったのかもしれない。
それを察した帝国兵やティアナが必死に叫ぶ。
自分たちはもう裏切らない。どんな真実も信じると。
だが、もうそれも遅かった。
「なあ、フェイリヤ」
「は、はい?」
「男はちゃんと見て選べよな。じゃねーと、お前もあの女たちのように……泣くことになるからよ」
突然のジオの言葉にまるで意味が分からずフェイリヤが首を傾げると、ジオは続ける。
「でも……あんたはそのままで居ろよ?」
「な、なにを……」
「あんたはそのままで十分……イイ女だからよ」
「ッ!!??」
そう言って、ジオは最後に不貞腐れでもイラついた不機嫌な顔でもない、フェイリヤには本当の笑顔を見せた。
その笑顔は、帝国の者たちが三年前に失った、自分たちが知る、自分たちが愛した男が見せた本当の笑顔だった。
もはや、自分たちには決して向けられず、自分たちの知らない女に向けられたその笑みに、帝国兵たちが衝撃を受ける中、ジオはマシン、ガイゼン、そしてチューニを見る。
「おい、お前ら、いいな?」
「……確かに、これ以上は不毛。この場にとどまっても、余計な面倒に巻き込まれる可能性が高い」
「やれやれ。本当にどいつもこいつも、不器用な人生を送っておるの~」
「えっ? な、なに? えっ?」
ジオの送ったアイコンタクトを理解したガイゼンとマシン。チューニは理解できていないようだが、関係ない。
奇しくもこの瞬間、そのアイコンタクトの意味を理解できたのは、ジオパーク冒険団以外では一人だけだった。
「ひははははは……遊びに行くなら、オススメを教えようか?」
「……ん?」
そう、フィクサだけだった。
「オススメ? けっ、テメエのことだ……危険な香りしかしねーぜ」
「ひははは、危険とスリルこそが人生を盛り上げるスパイスじゃん?」
そう言って、フィクサはジオに大きな布袋を押し付けた。
それは、宴会の時に放置していた、ジオたちがフェイリヤから貰った褒章金。
「ほら、嵐で飛んだら危ないから、回収しといた」
「おいおい、ここでこんなもんを貰ったら、どっかのバカたちが賄賂だと勘違いするぞ?」
「ひはははははははは、おぬしも悪よの~ってかい?」
冗談交じりで会話する二人の様子に、まだ誰もその意味について理解できないでいる。
そんな中、フィクサは馴れ馴れしくジオの肩を組み、耳打ちするように荒れ果てた街の一角を指差して……
「なら、ジオ君。俺からの賄賂はアレにしてくれるかい?」
「ッ、おいおい……アレは……お嬢様の『モノ』だろう?」
「な~に、妹がゴネたら、妹には新しいの俺から買ってやる。君らはアレを使って……俺の依頼でもこなしてくれりゃいい。だから、アレは賄賂というよりは、正式な成功報酬として貰ってくれりゃいい」
「……なにっ?」
「金の袋の中に依頼のメモを入れといたから……楽しんでくればいいじゃん? エロエロと……じゃなくて、イロイロとね」
「おい、待て。どういう言い間違いだ?」
ジオにとって、結局最初から最後まで何一つ理解することの出来ない男、フィクサ。
そのいやらしい笑みに含まれた意味をジオは今の時点では読み取ることは出来ない。
だが……
「まぁ、いいぜ。せーぜい、嵌められてやるぜ。あいにく俺たちは、裏切られることには慣れてるんでな」
「流石はジオ君。まだまだ楽しませてもらおうじゃん!」
今はもう何が来ても構わないという気持ちで、ジオもあえて乗ることにした。
そして、ジオは頷き、もう一度フェイリヤを見て……
「じゃあな、お嬢様。今度は、もうちょいゆっくりと遊びに来るからよ」
「ッ!?」
「短い間だが、世話になったな。元気でな」
そう言って、ジオはフィクサが指差した荒れた街の一角へと向く。
そこには、嵐で陸に打ち上げられていた、フェイリヤの使っていた潜水艇。
他の破損してバラバラになった漁船等と違って強固に造られているのか、表面に傷は見えるも壊れてはいない。
「さっさと行くぜ!!」
「承知した。チューニ、掴まれ」
「ぬわははは、どれ、ワシがアレをぶん投げるわい」
「ぎゃああああ、なな、なんで!?」
次の瞬間、チューニだけはマシンの脇に抱えられ、ジオ、マシン、ガイゼンはその場から駆け出した。
「えっ……? ジオ……ジオっ!? 待って、ど、どこに行くの!?」
「隊長ぅッ!?」
「くそ、おい、ジオを追いかけろ! 必ず捕まえるんだ、早く!」
ジオ達の逃走に誰もが驚いて反応が遅れてしまい、既にもう手遅れであった。
「オジオさん!?」
「マスター!?」
「えっ!? マシンさん!?」
ジオたちの後ろ髪を引くように、フェイリヤたちが必死に叫ぶが、もうジオたちは振り返らない。
「ジオッ! 待ちなさい、ジオッ!」
もはや、ティアナにも一瞥もしない。
なぜなら……
「ちょ、なんで!? えっ、これ、逃げてる!? えっ、なんで!?」
「だって、メンドクセーし……もう、関わりたくもねーし……もう、こっから先はカンケーねーし」
「ちょっ!? で、でも、い、いいの?」
何故こうなっているのか納得できないチューニにジオはそう告げ、マシンもガイゼンも笑みを浮かべた。
「ところで、リーダーよ。銀竜に跨っていた娘は何者じゃ? 只ならぬ関係だったようじゃが」
「……さぁ? もうどーでもいいだろ?」
「ふっ、ひどい男じゃの~」
結局ジオは最後まで、ティアナの名を一度も呼ぶこともなかった。
そして……
「ふんぬりゃあああああああああ!!」
「「「「なななあ、なんだ、あの魔族!?」」」」
陸に打ち上げられていた巨大潜水艇を、素手で真上に持ち上げるガイゼン。
その圧倒的な腕力に、追いかけて来た帝国兵たちも思わず驚いて腰を抜かした。
「ぬわははははあ、どりゃあああああああああああっ!!」
「「「「ぶ、ぶんなげ―――――ッ!!?? 飛んだぁぁぁあ!!??」」」」
そして、ガイゼンは、港に停泊している帝国の巨大軍艦を飛び越えるように、力任せに潜水艇を投げ飛ばした。
すべては一瞬の出来事。
弧を描いて軍艦の帆を越えていく潜水艇の軌道を誰もが口を開けて呆然と見つめてしまっている間に、船の後に続くように、背中から火を噴いたマシンに抱えられた男たちが同時に軍艦の帆を飛び越えていった。
「くははははははは、海上海底どちらも移動可能! 便利な船もーらい!」
「すぐに出る。運転は自分が行おう。初めてだが造作もない」
「ぬわはははは、そーれ! ペガサスたちが追いつく前に、出発じゃあ!」
「ぎょわああああ、はあ、びっくり……って、どういう話の流れでこれ貰えたの!? ってか、どういう展開なんで!?」
大きな水しぶきを上げて着水する潜水艇の甲板に降り立つ、ジオ、マシン、ガイゼン、チューニ。
陸からは慌てて飛行可能な騎獣に跨った兵たちが追いかけてくる。
とはいえ、まだ距離も十分にあることを確認してジオたちは船内に入り、出航と同時に海上からでは追跡不可能な海底へと船ごと姿を消したのだった。
「っていうか、リーダー……なんか……ほんとに良かったんで? こんないきなりで」
「あ? 別に大丈夫だろ? ほら、それにこの船には昨日から置きっぱなしにしていた、俺らの旅の道具もそのままだし……まっ、嵐で散らかってるけど」
「そういうことじゃ……ま、まあ、リーダーがそれでいいなら……いいけど……」
急な出発だったが、幸いなことに船内には自分たちが港町エンカウンより持ってきていた最低限の旅の道具も置きっぱなしになっていたので、出発に何の支障もなかった。
「あっ、そうだ、マシン」
「ん?」
「さっき言うのを忘れていた」
「……何をだ?」
唯一出発の前に忘れていたことを思い出したジオはマシンに……
「ようこそ、ジオパーク冒険団に」
「ッ……ああ」
儀式のような言葉を贈ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます