第66話 神になる

 かつて仲間だった二人。しかしそこに感動の再会などなく、気まずい雰囲気が流れていた。

 マシンとオーライ。仲間たちが見守る中、皆から離れた船着場の最端にて向かい合っていた。


「まず……いつ、目覚めたんだい?」


 先に話を切り出したのは、オーライからだった。


「数日前だ。大魔王も死に、最早自分の役目も無いのだろうと放浪していたところに、リーダーたちと出会った」

「リーダー? ひょっとして、あのオジオという彼かい?」

「名前は間違っているが……まぁ、そうだ」

「そうか……」


 マシンの返答に俯くオーライ。すると今度はマシンから話をした。


「正直、どうして自分が目を覚ましたのか分からない。お前が、自分を『緊急停止コントローラー』を使って止めたことまでは分かるが……」

「ああ。そして、お前を封印用ということで棺に入れ、封印魔法を使える者たちに厳重に鍵をしてもらい……そのままお前を海の底へと沈めた……二度と出てこられないはずだったが……」

「ああ。自分の予想では……その海が問題だったのかもしれない」

「なに?」

「自分は完全防水で出来ているが、それでも完璧ではない。ひょっとして何年も海水に漬けられて、緊急停止回路に異常が起こったのかもしれない……破損していた。まあ、もうそれ以上の真相は分からないがな」

「そうか……」


 俯き唇を悔しそうに噛み締めるオーライ。

 そんなオーライに、マシンは続ける。



「お前は大したものだ。爆発事故で消滅したはずの『生体兵器研究所』……しかし、その地下施設が無事だったことは、ナグダ職員も気づいていなかった。その遺された地下施設にあった、ナグダの遺産……この世界の者には扱い方どころか文字の読み方まで分からなかっただろうに……お前は解読してここまで辿りついた」


「マシン……僕は……」


「プラズマセイバー……二十日野菜の種……特別兵士強化スーツ……魔力代替エネルギー用太陽光パネル……生体兵器用緊急停止コントローラー……そして……携帯タブレット端末から、環境調整衛星システムにアクセスまでした……。ゼロの知識からそんなことを出来る人間等、ナグダでもいない。お前は傑物だ。それは認めよう」



 マシンは穏やかな口調で、オーライを認めていることを告げる。だが、認めつつも……


「しかし、環境調整衛星……それだけは乱用してはならなかった」

「ッ……」

「二年前も説明したが……あの衛星は、竜巻や台風などの異常気象を防衛するためのシステムだ……だが、一度軍事利用してしまえば、惑星規模で天変地異を自在にコントロールを可能にしてしまう危険な産物。ましてや、当時のナグダの職員は、アレに戦略防衛構想用の『X線レーザー』まで備えていた。断じて個人の私的な目的に使用してはならないものだった」


 淡々と説明していくマシンだったが、そこでようやくオーライは顔を上げて反論した。



「しかし、そんなものを置いていった、ナグダが……あんなものを……あんなものを発見してしまえば……誰だって」


「勿論だ。ナグダが本来衛星も回収しておくべきだった。お前が……衛星の力に心を奪われ、そして他国でワザと異常気象を引き起こし、そして他国に食糧難を起こしてから、二十日野菜を高値で売る……ハウレイムはそれで潤ってしまった」


「っ、ぼ、僕だって後悔したさ! まさか……まさか、あんな魔導書よりも小さなパネルだけで、本当に天候を自在にコントロールできるだなんて思わなかったんだ! それに……それに、あのときは……ハウレイムでも多くの飢えた子供たちが目の前に居て……僕は……」


「分かっている。二年前もそれは聞いた。そして、お前がその罪に苦しみ……その償いとして、せめて衛星の力を利用して大魔王を倒そうとした……それは自分も理解している。だからこそ、自分は二年前のお前の涙と約束を信じた……だから、お前が自分を裏切ったことは咎めない。だが……」


「……でも、でも大魔王を倒したのに、それでも未だに衛星の力を利用している僕に怒っているんだろう? 分かっているよ、マシン。でも……でも、『X線レーザー』で大魔王を倒してそれで終わりなんてほど、世界は簡単じゃないんだ!」


 

 まるで、泣き叫ぶように苦悶の表情で叫ぶオーライ。そして、マシンが聞きたいのは、そこから先のことであった。



「最初は……大魔王の座標さえ分かれば……そこにX線レーザーを落して終わりだと思っていた。でも、狡猾な大魔王はなかなか魔界から出てこなくて……衛星は魔界まで届かない……だから、そのためにはまず、七天や地上の魔王軍と戦って、大魔王を引きずり出すしかなかった……そのために多くの戦争をして……そして、その多くの戦争の過程で僕は知ってしまったんだ。今の世界や、人間たちの醜い心を」


「醜さ……だと?」


「そうだ。魔族も存在によっては生かすべき者もいれば、同じ人間でも死んだほうがマシだという者たちは腐るほどいる。戦争を利用して金儲けに走るクズ、捕らえた捕虜を使って人身売買、陵辱行為、目を疑うような光景を僕は腐るほど見てきた!」


 

 それまでの苦悶の表情から一変し、突如怒りを露にしだしたオーライ。

 それは、この世界に対する憤りが滲み出ていた。



「そう、重要なのは大魔王を倒すだけじゃない。人間も魔族も関係なく、蔓延る悪しき心を持つ者たちから、正しき者たちを守ること。安心して暮らせる世界を作ることだったんだ」


「…………」


「この世には、クズな心を持った人間の他にも、五大魔殺界などという消し去らねばならない脅威がまだ居る。その脅威を消し、真の平和な世界を創造するまでは……僕は止まるわけにはいかないんだ! 魔界と人間が手を取り合い、真の平和な世界を築くには、どうしても衛星の力はまだ必要なんだ!」


「……呆れた言い訳だな……」


「呆れる? それは心もなく、人工的に作られたお前だからこそ、そう思うんだ。しかし、心のある僕たち人間は違う。そして、私情に囚われることなく世界を正しく導くために、衛星を正しく使えるのは……僕しかいない! これは、僕が天より与えられた使命なんだ!」


 

 全ては正しい世界を作るため。そのために、オーライはマシンとの約束を破ってでも、禁断の力を使うしかないのだと告げる。

 マシンはその言葉を聞いて、まるで納得していない様子だが、構わずオーライは告げる。


「戦争の時、確かに人類は一つになった。しかしそれは一時的なもの。大魔王を倒してしまえば、またそれぞれの国に戻る。それではダメだ。真に一つになるには……世界の国々を一つに統一する必要があるんだ」


 自信に満ちた表情で、一切の迷いのない表情で……



「そう、僕は……大魔王でも勇者でもない……新しい世界の覇王となり……そして、神となるんだ」



 そう、宣言したのだった。



「ふ~……それで……どうして今回……ワイーロ王国に天変地異を起こして襲撃した? そこに何の意味があった?」


「…………僕だって最初はそのつもりは無かった。元々、ワイーロと併合し、悪しきファミリーは解散。それだけで良かった。だが、事情が変わったんだ」



 マシンが尋ねたのは、それは今回のこと。今回、このワイーロ王国で起こった天変地異についてだった。



「実は……捕えていたファミリーのボスが……今、瀕死なんだ」


「……なにっ?」


「少し目を離した隙に……毒による暗殺か、自殺かは分からない。今、意識不明の重態だ。正直真相はまだ分からないが……ただ、僕はそれを利用できないかと考えた」



 マシンは、サラリと言葉の端々に出てくるオーライの言葉、そして予想もしていなかったフェイリヤの父親の状況に驚いてしまった。

 そして、オーライは……


「僕の考えた作戦……それは、ワイーロ王国を半壊させ、僕たちハウレイムの支援無しでは立ち直れなくする。そうやって、僕は献身的な支援をすることで国民からの信頼を得て、更にフェイリヤを僕に惚れさせて、彼女に組織の運営をさせながら、最終的には僕が組織を動かす立場になる。そうなれば、国の併合もファミリーも問題なく手に入るだろうと……そう考えた」


 まるで、当たり前のように自分が起こしたことの真相を話すオーライ。



「ファミリーは……解散させるつもりだったのだろう?」


「だが、その資金力や事業、そしてコネクションをうまく正しく利用できるのであれば……十分価値がある。そう思った」


「そんなことのために……?」


「勿論、被害は考慮した。王都の中心部に被害を与える前に、嵐は途中で止める予定だったしね。ただ、フェイリヤを僕に振り向かせるために雷を落としてから救ったんだが、反応がイマイチだったのが少し予定外だったけどね」



 その話し方、耳を疑うような内容に、マシンは絶句してしまった。

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