第65話 思い込み
「アネーラお姉ぇ、シス……こいつら、やるわよ!」
「ええ、そのようですね……」
「彼らがマシンを……何者ですか?」
勇者オーライを守るように立ちはだかる三人の女。ナジミ、アネーラ、シス。
ジオもまた、三人がやはり普通ではないと感じて身構えた。
「ま、待つんだ、三人とも!」
「ダメよ、オーライ! あんたが優しくて甘い奴なのは知ってるけど、マシンだけは危険よ? 『あんた』が、そう言ってたじゃない!」
「そ、それは……」
「同情すんじゃないわ! それに、どうしてこいつが復活してんのか分からないけど……早くどうにかしないと、世界は破滅するわよ!?」
三人の女たちをオーライは止めようとするが、ナジミたちはそれを拒否する。
まるでマシンが、「この世に存在してはいけない奴」だという様子であった。
そのことに、マシンは特に弁明しようとはしない。ただ、無言の怒りだけが滲み出ているのだけはジオにも分かった。
「ちょっと、状況を教えて下さいませんと、ワタクシにもわけわかめですわ!」
と、そのとき、この状況に我慢できずにフェイリヤが両者を嗜めるように入った。
「ここに居る御マシンさんをご存知のようですが、こちらの御マシンさんにはワタクシたちも助けられ、先ほどの災害時にも率先して動いてくださいましたわ。つまり、ワタクシたちの恩人。それをどのような事情かは知りませんが―――」
だが、そのフェイリヤの言葉にイラついたかのように、ナジミが感情的に叫んだ。
「あんたはそいつのことを知らないから言えるのよ! かつて……私たちだって、そいつを仲間だと思っていたわよ! でもね……そうやって取り入って……私たちを裏切ったのよ!」
かつて、勇者の仲間でありながら裏切った。
その言葉に民たちがどよめく中、ナジミは続ける。
「そいつは、二年前……私たちの仲間になって一緒に戦った。何度も助けてくれて……私たちだって信頼したのに……ある日こいつは! こいつは!」
当時のことを思い出し、怒りと一緒に悲しみも思い出したのか、ナジミは瞳を潤ませながら……
「こいつは、ある日、『オーライと二人で話しがしたい』と言ってオーライを呼び出して、二人になった瞬間、オーライを殺そうとしたのよ!」
人類の希望でもある勇者を殺そうとした。とはいえ、その話ならば聞いていた。
「ああ。なんか、あいつが暴走して暴れたんだってな?」
「そうよ……それに、そいつの目的や備わっている力は……とんでもないんだから! あんたたち……ナグダって知ってる?」
ナグダ。ここ最近で何度も聞いた、かつての亡国。
「ナグダ……カラクリ大国として名を馳せたその国の技術は……カラクリなんてレベルじゃない。小国でありながら、未開の山の中、手の届かない深海の中、マシンと同等のカラクリ兵器を大量に生産し、虎視眈々と地上と魔界の征服を目論んでいたのよ!」
山や深海……セクを見つけた深海の都市という例がある以上、ジオもその話はそうなのかもしれないと思った。
だが……
「ナグダは既に滅んだけど、マシンは世界各所に封印されたままのそのカラクリ兵器たちを一斉に呼び出せる能力を持っているのよ! そしてその力を使って、世界を破滅させようとしてたの! オーライが何とかその野望は阻止したけど……また復活したのであれば……」
……と、そこでジオは話が少しおかしくなったと感じた。
「ま、まてまてまて……マシン……そうなのか?」
「……初耳だ」
案の定、マシンに尋ねるとマシンは溜息を吐いて否定した。
そう、ジオが感じた不可解な点、それはマシンが自分たちと出会ったときは、「死にたがっていた」ということだった。
世界を破滅する目的やその力があるというのなら、復活した時にやればいい。
しかし、マシンはそんなことをしようとはしなかった。だからこそ、ジオはそこに疑問を感じた。
「ウソついてんじゃないわよ! 知っているんだからね! 『オーライ』がそう言ってたんだから!」
勇者がそう言っていた……。
そこで、皆が顔を青ざめさせている勇者に顔を向けた。
「ン? ちょっと待て……ん? 勇者がそう言ってたって……マシンがそう言ってたんじゃないのか? ってか、お前らは聞いただけで、その場を見てたわけじゃねーのか?」
「違うけど……それがなんだってのよ! じゃなきゃ、オーライがマシンを封印なんてするはずないでしょ!?」
ますます話が変なことになっていないかと、ジオが首を傾げた。
それならば、マシンが『そういう奴だった』という根拠はどこにあるのかと……
「ぬわーっはっはっはっはっは! あ~~、そ~いうわけか……な~るほどの~……だ~いたい分かってきたぞ。の~? マシン~?」
その時、ガイゼンは大体のことが理解できたのか、手を叩いて笑った。
「恋は盲目か~、それはメンドーなもんじゃ。そやつが言っていたのだから間違いない……冷静に考えればおかしいことぐらい分かるというのに、アホな奴らじゃ」
「な、なんですって?! ちょっと、それはどういう意味よ!」
ガイゼンにバカにされたと思ったのか、ナジミがまた感情をむき出しにして怒鳴る。
しかし、ガイゼンが何を理解できたのかとジオも気になって聞こうとしたら……
「みんな、それまでにして欲しい」
これまでうろたえているだけだった、勇者オーライが場を制した。
「……とりあえず……僕と……マシンを……二人だけで話をさせて貰えないだろうか?」
なんと、オーライの提案。それは、マシンと二人で話がしたいということだった。
「ちょ、オーライ、何を言ってんのよ!?」
「弟君! 何をバカなことを言ってるんですか!」
「そうです、兄さんはアホですか!」
勿論、その提案に女たちは猛反対の声を上げる。
だが、オーライはどこか焦ったかのように、三人に向かって……
「御願いだ。僕を信じて欲しい。ただ、マシンと二人で話をしたいんだ」
自分を信じて欲しいと、三人の頭を撫でてどうにか説得しようとする。
そして……
「マシン。お前にも頼む。お前は、言い訳は何も聞きたくないと言ったが……お前が封印されて何があったのかも含めて……少しぐらい話を聞いて欲しい」
「…………」
勇者からの懇願。本来、封印されて裏切り者扱いされているマシン側から話を聞いて欲しいというならまだしも、まさかの裏切られた側からの提案であった。
「……いいだろう」
マシンはそのことを不快そうにしながらも、了承した。
「ありがとう。あっちの、船着場で話をしよう。皆は来ないでくれ」
とりあえず、会話は誰にも聞かれたくないのか、船着場の先端を指差して先に歩き出すオーライ。
距離は離れているので、声は聞こえないが、仮に何かあった場合はすぐに駆けつけられる距離。
一応姿は見えるということで、三人の女たちも渋々了承して堪えた。
すると……
「リーダー……これを……」
「ん?」
そのとき、マシンはコッソリと自身の耳穴から何かを取り出して、それをジオに手渡した。
それは、黒く小さい塊のようなもの。
「はっ? なんだこれ? 耳クソか?」
「耳クソではない。『スピーカー』というものだ」
「……すぴかー?」
謎のアイテムを手渡されて首を傾げるジオ。
するとマシンは……
「リーダーたちは自分の過去を特に聞こうとはしなかった。気にしてはいても、自分を気遣って無理に聞くことはなかった」
「ん? ああ。だが、そんなのお互い様だろ」
「ああ。だが……自分は……リーダーたちには真実は知ってもらいたい。そう思っている」
そう告げて、マシンはオーライの後を追うように船着場の先端に向かっていった。
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