第63話 茶番勇者
「つか、それよりお嬢、いーのか? あんたの親父って、確かその勇者さまたちに取っ捕まってんじゃねーのか?」
「あっ!? そ、そうでしたわ! 復興云々もそうですが、まずはパパを捕えているとメルフェン姫から聞きましたわ! それどころか、ファミリーの壊滅を目論んでいるとか! そんなことは断じてさせませんわ! そして何よりも、パパを返して戴きませんと!」
オーライの際どい態度が気になるものの、昨晩の話を思い出したフェイリヤは顔色を変えてオーライに言い寄る。
すると、オーライは神妙な顔で首を横に振った。
「それはすぐにはできない」
「な、なんですって?!」
「君のお父さんは違法な取引をハウレイムで行っていた……それはやはり許すことは出来ない。だから、申し訳ないけど、返すことも会わせることもできない」
「そ、そんなのっ――――――ッ!!??」
オーライの言葉に納得できないフェイリヤが食って掛かろうとするが、その瞬間、オーライがフェイリヤを抱きしめた。
((こいつ、女を抱きしめんの好きだな~……))
ジオとガイゼンが心の中でそう思っている中、一瞬何をされたか分からないフェイリヤは呆けてしまった。
そんなフェイリヤの耳元でオーライは……
「今の君がすべきことは、この国と傷ついた民たちのために動くこと。違うかい? 良くも悪くもファミリーは巨大な組織で、そして経済的にも大きく国に貢献していた。だから、違法な取引そのものは断じて許されないが、ファミリーの存続自体を無くすのは痛手だと思う」
「そ、そんなの……っというか、無礼ですわよ! まだオジオさんにもここまで抱きしめられては……っていうか、離しなさいな! 無礼千億ですわ!」
「僕は思うんだ。君が次のファミリーのボスとなって皆を導くんだ」
「……はっ? わ、……ワタクシが?」
「もちろん、いきなりは無理だと思う。僕も協力する。顧問のような形でね。是非そうさせて欲しい。そうすれば君のことも良く知ることが出来るし、何よりも国の復興のため、民のため、君はそうすることが一番だと思うよ?」
そう告げるオーライだったが、その時、ジオもガイゼンも首を傾げた。
「ん? ……サラッと言ってるけどあいつ……」
「……ふ~~~ん……なるほどの~。そういうことか」
オーライは何故か話の流れでサラリと自分をファミリーの顧問となって口出しすることを宣言していた。
それが、ジオには微妙な引っかかりを感じ、そしてガイゼンはそれで大体のことを理解したかのように頷いた。
すると……
「あーーー、また女の子増えてるー! あんの、歩く女吸い寄せ勇者ってば!」
「んもう、ナジミちゃんはすぐに嫉妬しないの。でも~、弟君ってば、目を離すとすぐにこれね~」
「まったく、また増えたのですね、兄さん。やはり、兄さんには私が傍に居ないとダメですね」
その時、少し怒った女たちの声が響いた。
「あっ、どうやら仲間たちが到着したようだ!」
オーライが笑みを浮かべて手を振ると、多数の馬の蹄と共に武装した兵や荷物を積んだキャラバンたちが足場の悪い街の中を突き進んできた。
彼らの甲冑、及び掲げる旗はワイーロ王国の物ではなかった。
そして……
「ちょっと、あんた新入りね! でも、言っておくけどオーライと今日寝るのは私だからね!」
「んもう、ナジミちゃんってばそんなに怖い顔をしないの。私たちの新しい家族でしょう?」
「またローテーションを考えるのが面倒ですね」
集まった者たちから更に飛び出す三人の女たちは、民たちには目もくれず、オーライとフェイリヤの三人へと飛んだ。
「ちょ、何ですの!? というより、あなたもいつまでワタクシに触れているんですの! いい加減、お放しなさい!」
急に集まった者たち、そして何故か見知らぬ三人の女たちに睨まれるフェイリヤ。
その状況に耐え切れず、身を捩って無理やりオーライから離れて距離を取る。
すると、三人の女たちはキョトンとした顔になり……
「あれ? ひょっとして、まだ素直になれないとかってやつ? ……なんだか、少し前の私を見てるみたいかも」
「ふふふ、でもね~、弟君が相手だもんね」
「はい、すぐにデレデレになるのは目に見えています」
そして、フェイリヤを哀れむかのように溜息を吐いた。
「まあ、いいわ。私は、ナジミ。いちおう、このバカの幼馴染で……そして仲間で……バトルマスターで……で、こいつの最初の妻なんだから! 言っておくけど、素直になれない奴の応援なんてしないし、エッチの順番だって譲ってあげないんだからね」
そう告げるのは、真っ赤な髪をポニーテイルでまとめ、全身を紺と白の上下色違いの胴着を来た女。
「私はー、みんなのお姉ちゃんで、お怪我を治し、そして弟君やみんなが大好きな、アネーラです」
紫色の髪と、ムッチリとして男を誘うような体を教会のシスター服で覆い、その手には金色の錫杖を持った女。
「私は兄さんの妹……血は繋がってないのでセーフです。シスといいます」
薄く青いショートカットで、全身を魔導師のローブで覆い隠いた少女。
彼女たち三人は、まるでフェイリヤが「自分たちと同じ立場になる」と思っているかのように、それぞれ自己紹介と歓迎の言葉を送った。
「はぁ? 言っている意味がわけわかめですわ! それにあなた、助けてくださったことに礼は言いますが、あなたワタクシの好みではありませんので」
しかし、女たちの話がまるで理解できず、フェイリヤがイラついたように叫んだ、その時だった。
「やはり、自分にも感情があったようだな……これほどの所業をしておきながら、その白々しい茶番……もはや、許しがたい……オーライ」
―――――ッッッ!!!???
「ッッ!!?? ……え……なっ!? えっ?」
「そして……誰よりもオーライの傍に居ながら……あまりにも無知すぎるお前たちも救い難い……ナジミ……アネーラ……そして、シスよ」
「「「あっ……え?」」」
キャッキャと騒ぐ女たちの空気を打ち消すかのように、静かに、そして重苦しいプレッシャーを放ちながら、ある男が自分の脇に男を一人抱えて、ゆっくりと空から舞い降りてきた。
「うわ……何がどうなっているんで!?」
脇に抱えられていたのは、チューニ。
そして、それを抱えていたのは……
「リーダーと初めて会った時……黙って殺されずにいて良かった。何も無かったはずの自分の生きる意味が……一つだけ残っていた。それは……これ以上、ナグダの遺産を悪用されないため」
無表情でありながら、しかしその瞳は悲しみに満ちているマシン。
「約束を破ったようだな、オーライ。かつてお前が……貧困で苦しんでいたハウレイムを潤わせるため、『異常気象』で大打撃を負った他国と作物の取引をして国を救って発展させたあの功績……そして、同時にその罪は……もう、お前にとっては軽いものになってしまったのか?」
「……あっ……なん……で……ま……ま、マシンが……ど、どうして!?」
「そして今度は、そこのお嬢様を手籠めにしてファミリーとやらの資金やビジネス、コネクションでも乗っ取るつもりか? まぁ、どちらでも構わない。重要なのは……今回……使ったな? 『衛星』を。大魔王を倒すまでという約束を破り……それどころか……」
そして、同時に失望と怒りがマシンから滲み出ていた。
「もう、言い訳は無用。全て、回収させてもらう」
マシンの姿を見て、爽やかに微笑んでいたオーライの表情が青ざめて、女たちはただ驚愕の表情で固まっていた。
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