第53話 あたおか姫
「ちょ、何をおバカなことを仰ってますの!? ファミリーを解体? 国を併合? 言っていることが意味不明すぎて、ぱっぱらぱ~ですわ!」
面倒なことになったというのは分かったものの、突然のことすぎてジオたちもどう動くべきかをまだ判断できないでいた。
今はただ、花柄ドレスのお姫様と、全身金ピカのお嬢様の二人の様子を見ていた。
「本当におめでたいね、あなたは。フェイリヤは何も分かっていないんだよ。この国に蔓延っていた黒い霧を……」
「黒い霧……ど、どういうことですの!?」
「歓楽街で女の子たちを使ったいやらしい店、それを使っての国の上層部たちへの接待とか……」
「そ、それは……」
「みかじめ料だって言って不当にお金を巻き上げたり、魔界の悪い組織と繋がりがあったり……それに、フェイリヤ自身だって街の人から色々と貰ってるでしょ!」
悪いことをたくさんしている。そう言われてどこかショックを受けて言葉に詰まるフェイリヤ。
一方で、それをヘラヘラした顔で聞いてソファーに座ったままのフィクサは、フェイリヤに助け舟を出さずに黙っている。
すると……
「ちょっ、待ってください、姫様!」
「そうです、ファミリー解体って……そんなの……」
街の者たちが姫に対して異議を申し立てるように声を上げた。
「私は父と母を亡くして妹と二人暮らしで……だから、そういうお店で働くしかなくて……でも、国の支援やファミリーの管理があるから、私も体を壊さずに安心して働けているんです! この仕事が無くなったら私は……」
「戦争中、あんたら騎士団たちは居なかったじゃねーかよ! その間、手薄になったこの国を魔族や賊から守ってくれたのは、自警団として戦ってくれたファミリーなんだよ!」
「俺たちはいつも美味しそうに俺らがあげたもんを食ってくれるフェイリアちゃんの笑顔が好きで、そこに何も裏なんてないんだ!」
「だいたい、今でも十分うまくいってんのに、なんで他の国に併合されなくちゃいけないんだよ!」
「そうだゴラぁ! ファーザーが魔界の組織と繋がってんのだってなぁ、奴らと友好関係を築くことでこの国には手を出さないでもらうためなんだよ! テメエらもし、あの『五大魔殺界』と呼ばれている、『禁断異端児・ジャレンゴク』や、『超淫幼狐・ポルノヴィーチ』たちが率いるチームが攻め込んだら、この国を守れんのかよ!?」
それは、民や構成員たちも含めて訴える、ゴークドウファミリーという組織の必要性であった。
一人、また一人と国に対して声を上げていく民たち。
その大勢の声は、広場を取り囲む騎士たちを怯ませていく。
だが……
「皆さん、聞いてください! 皆さんの不安は全て分かりました。でも、悪いことは悪いことなんです。そこは理解していただかないとなりません」
何も疑うことなく、自分を信じきった表情で、女王メルフェンは皆に告げた。
「まず、女の子が『そういう仕事しかない』なんて悲しいことを言ってはだめです。女の子の体も心も全て好きな人に捧げるものなんです。その気持ちを持って頑張れば、きっともっと素敵で相応しい仕事だって見つかると思います!」
「……はっ? えっ? ええ?」
「騎士団不在でファミリーが自警団として戦ったって言ってますけど、だからってそういうことを勝手にされると困ります。国を守るのは騎士団の役目です。仮に居なかったとしても、その時はまず国に相談していただいて、そこで皆で協力し合えばもっとちゃんとした解決策があったはずです」
「いや、だ、だって、あいつら急に襲ってきたのに、そんな相談もくそもそんな暇……」
「フェイリヤへの貢物だってそうです。裏が無いとか、何も無いとか、悪いことをしている人は皆そう言うんです。本当かどうかは、フェイリヤに貢物をした人たちがその後に何か得するようなことがあったかどうかをしっかり取調べします」
「いや、そ、と、取調べって……」
「国が合併することが何で問題なんですか? 世界中の人たちが輪になって一つの国になる。オーライくんはそんな世界を作ろうとしているの。国とか種族なんて悲しい種類分けをしないで、誰もが平等で同じ国の人として安心して暮らせる世界。その素晴らしい考えをどうして理解してもらえないんですか?」
「い、いや……い、意味がまったくわかんねーんですけど……」
「魔界の悪い人たちが攻めてきてももう大丈夫です。だって、オーライくんは約束してくれたから。もし、私が困ったら、必ず助けに来てくれるって! だから、大丈夫なんです! もう、ファミリーやフェイリヤたちに頼るような国じゃないんだから!」
「……な、何言ってんだ? この姫さんは……」
国民の不満に対して一つ一つ答えていくメルフェン。
しかし、答えられたものの、その答えに民は誰もが口を開けて固まってしまった。
そして、この瞬間、ジオたちも含めて皆が同じことを思った。
(((((だめだこりゃ……)))))
この姫はダメだと、誰もが呆れ果ててしまったのだった。
「いや~、驚いたな。お嬢様がとても可愛く見えるぐらい、とんでもねーお姫様が居たもんだな」
「オーライも……余計なことをしようとしているものだな」
「ぬわははははは、自分を疑わぬ純真な愚か者ほど面倒なものはないのう」
「うわ……さすがの僕でも見ていてイラッとくるんで……つか、極端にもほどがあるんで」
思わず口に出してしまうジオパーク冒険団。
その率直な言葉に、フィクサも腹を抱えて笑った。
「ひはははは、そうでしょそうでしょ! いや~、イライラして逆に面白いでしょ! つか、何の具体案もなく、皆で協力すればとか、挙句の果てに勇者が助けてくれるとか、真顔で言う分、一周回って半端なコメディアンよりも面白いじゃん! まさに、あたおか姫!」
そう、フィクサの言うように、ジオたちも一周回ってもはや笑ってしまうしかないという状況であった。
ただし、その笑いは、苦笑であるが……
「しかし、そんなことより、興味深い話が出たのう。五大魔なんたらって、なんのことじゃ?」
と、そのとき、「そんなことより」とガイゼンが興味を引いた話題についてフィクサに尋ねる。
それは先ほどの話の中で出てきた名前のことだ。
「ああ、五大魔殺界ね。単純に、今の魔界においてその名を轟かせる五つの組織……そのそれぞれのボスを五大魔殺界って呼ばれてるじゃん。魔王軍、七天、大魔王、……その全てが崩壊した今、間違いなく魔界最恐にして、次期大魔王候補って呼ばれてるじゃん」
それは、ジオたちの誰もが知らなかった今の時代の力であった。
「へぇ、そんなもんがあったのか。知らなかったな」
「自分もそれは認識していなかった」
「ほほう。面白そうじゃ。戦ってみたいの~」
「ってか、そんなのが本当に攻め込んできたら、勇者勝てるの!?」
関心を持って聞くジオたちと違って、チューニだけは恐怖で顔を引きつらせて怯えてしまう。
「マスターは私が守ります」
その際に、ギュッとチューニに抱きつくセクの言葉が割って入るも、チューニのその悲鳴のような叫びを聞いて、ようやくメルフェンや騎士団たちはこちらに気づいたのだった。
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