第38話 海底都市と光の剣
海底都市探索。
突如依頼された任務を気まぐれで引き受けることにしたジオたちは、自分たちのイカダをそのままに、フェイリヤたちの潜水艇に荷物ごと乗り込んだ。
「あなた、お名前は?」
「ジオ」
「分かりましたわ。では御ジオさん、しっかり働くことですわ!」
「おじお……」
中は広く、海底の見晴らしも良く、ジオたち四人にとっても初めての海底ということもあって、興味深そうに海中を眺める。
「では、華麗に優雅に出発ですわ!」
暗い海底の中には、小魚から大型の魚までが至る所に生息しており、徐々に潜っていく潜水艇に驚いたように魚たちは慌てて逃げていく。
「ぎゃああああああああ、ししし、沈んだ―――! 息がああああ!」
「大丈夫だよ、この船内には魔法で酸素も充満しているから。で、大型のモンスターが来た場合は、この床の扉から出て、私たちで迎撃するんだ」
「無理なんで! 無理無理! っていうか、海の中で戦うとか息ができないんで!」
「それも心配ない。私たちは海の中でも呼吸したり会話できる魔法を使える。ブツブツブ……えい! これで君も海中で……」
「あれれ~、なんか僕には魔法が効かずに無効化されちゃってるんで、僕は仕方ないからモンスター来ても留守番してるんで」
「な!? なんで!? 魔法が砕け……えっ!?」
そんな中、唯一泣き叫ぶ男が一人いた。
「おま、無効化できる魔法を自分で選べるんだから、無効化されちゃったじゃねーだろうが!」
「だって、リーダー!?」
「まっ、仮にこの船がモンスターに破壊されて海の中に投げ出されてもいいってなら、別に構わねえが」
「それも嫌なんでええええ!」
怯えて騒いで頑なにあらゆることを拒否しようとするチューニは、海の中で行動できる魔法も無効化して、自分はあくまでこの船内から決して出ないと意思表示する。
「えっと……」
「ああ、気にすんな。いざとなったら、このジジイが何とかするからよ」
魔法が何故か無効化されたことにポカンとするフラグ冒険団たち。とはいえ、チューニが戦おうが戦うまいが、特に問題はない。ガイゼンも戦いたくてうずうずしているので出番も無いだろうとすら、ジオは思った。
「ま~ったく、随分と情けない悲鳴を上げますわね。臆病は空気感染すると言われておりますので、広がる前に放り出しますわよ?」
「いや、それも勘弁してくださいなんで、お嬢様」
「では来たるべき作戦の時まで大人しくしていることですわね!」
来るべき作戦? そんなものがあると知らず、ジオたちは首を傾げた。
「作戦? どういう―――」
「決まってますわ! 華麗に突撃粉砕ですわ!」
「……あ~、シーボウ……何をやるかなんだが……」
「あ、うん、とりあえず説明させてもらうよ」
とりあえず、フェイリヤは放っておき、苦笑しながらシーボウが説明する。
「実はこれまでの探索で、海底都市ではないかと思われる場所は大体把握している。これまで潜った者たちの話では、遺跡のような場所とのことだが……」
「ほう。都市っていうから、人魚でも住んでんのかと思ったが、そうじゃないんだな」
「ああ。ただ、ソレも分からない。というのも、その遺跡のようなところまでたどり着いたが、その遺跡の内部までは誰も入れなかったそうだ。非情に厳重な扉があり、更にそこにたどり着くまでに強力な深海モンスターも居る。私たちも何度か挑戦しているが、まだそのモンスターを越えられずに苦戦していたんだ」
「ふ~ん、強力な深海モンスターか……海の中のモンスターって、そういえば戦うのは初めてかもな」
これまで、ジオはほとんど陸地での戦ばかりをしてきた。過去に帝国海軍にも所属したことはあるが、戦闘は全て船上で行われ、海中での戦闘は経験が無いため、海のモンスターと戦うことは初めてだった。
だが……
「ぬわはははは、リーダーもチューニも港町で少し暴れたであろう? なら、次はワシじゃ!」
モンスターと戦う気満々のガイゼンが柔軟体操をして目を輝かせていた。
「まっ……俺らに出番ねーかもな」
「恐らくな」
「いや、是非とも出番を無くすぐらい大活躍して欲しいんで! 神さま、闘神様、ガイゼン様!」
ガイゼンがやる気を出して戦うのであれば、恐らくモンスターに同情するような展開になるだろうと予想ができ、ジオたちは苦笑した。
なら、モンスターはガイゼンに任せるとして、問題なのは……
「で、話を戻すと、その海底都市ってのは結局なんなんだ? どういうものなんだ?」
ジオたちの疑問。そもそも、海底都市とは何なのか?
「いいでしょう。教えて差し上げますわ。海底都市とは……数十年前に、ハウレイム王国の冒険家が偶然に辿り着いたと言われている伝説の地。そこには神々の御業を使う者たちが居たのですわ」
神々の御業を使う者たち。一気に胡散臭くなったと、ジオたちは微妙な顔を浮かべた。
「そこには、この世のあらゆる場所を見通す千里眼の鏡……魔力を消費せずに遠くの人物とテレパシーできるマジックアイテム……全ての謎に答える知識の本。そんな神々のアイテムを使う者たちが、かつてそこに居たとのことですわ」
「居たとのことって……そんなの、その冒険家が嘘ついてんのかもしれねーだろうが。そんなもんを、ワザワザA級クエストにしてんのかよ、冒険家たちは」
「おーっほっほっほ! 甘々ですわね、オジオさん!」
「お、オジオはやめい」
「確かに話だけではお伽噺ですが、その冒険家……偶然そこに海難事故の末に辿り着き、神々の御厚意で地上に戻ることが出来たそうですが、その際にその冒険者の方は海底都市からコッソリと、あらゆるものを切り裂く『光の剣』や、その他にも珍しいものを何点か持ち帰っているようですの」
「……光の剣~~? 余計に胡散臭いが……」
「とんでもありませんわ! なぜなら、あの大魔王を倒した勇者オーライは、その光の剣を携えて魔王軍と戦ったのですもの!」
「ッ!!??」
胡散臭いお伽噺が、今の一言で満更嘘ではないかもしれないと思わせるには十分すぎる情報がフェイリヤから語られた。
「ほ~、光の剣の~」
「……オーライの剣……海底都市……なるほど……」
「ん? マシン、どうしたの? なんか、難しい顔しているけど……」
流石に、ガイゼンたちも大魔王を倒した勇者の剣が、かつてこの近海の海底都市からもたらされたものだと聞けば流石に興味が沸いた。
特に、マシンはかつて勇者の仲間だったために実物も見たことがあるためか、何やら納得したように頷いていた。
「なるほどね。その話が本当なら、確かに面白そうじゃねえか」
「ええ、そう思うでしょう? ワタクシ、これほどの美貌と頭脳と、更には国家どころか大陸をも左右させることが出来るほどの大金持ち。手に入れられないものなど無く、どんな珍しいものを見せられても驚きがなくて、困っていましたのに、そんな伝説を聞かされてはこの目で確かめずにはいられませんでしたの!」
「つまり、お嬢様の道楽ってわけね」
「いいえ、ロマンですわ! そして、そのためにもフラグ冒険団や、あなた方も存分に働いてもらいますので宜しくお願いしますわ!」
そう言って、クルクル回りながら劇団員のように叫ぶフェイリヤに、ジオは呆れて溜息を吐きそうになるが、一方でフェイリヤの話に中々興味がそそられて、少し楽しみになってきたのも事実であった。
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