第19話 黒服の男
これは私が友人と呑みに行った帰りの事だった。
下戸の私が運転手となり、友人を家に送り届けている所だった。夜はだいぶ遅くライトで先の道を照らしながら車を走らせた。
「いや〜、久しぶりに呑んだ〜」
「明日も仕事なんでしょう? 二日酔いにならなきゃいいけど……」
「平気、平気! いざって時は病欠にするから」
「悪い大人だなぁ」
そんなたわいの無い話をしながら車を走らせていると、十字路に差し掛かる。
この道を左折すれば友人の家への近道だと知っていた私は、ウインカーを付けてゆっくり左折をした。
左折した先にいる何かをライトが照らした。
道路の真ん中にスーツを来た男が立っているのだ。
「え! キャッ⁉︎」
「うわ、何⁉︎」
驚いた私は思わず叫んでブレーキを掛けるが、男は反対車線の真ん中にいたので衝突せずに済んだ。
こちらがブレーキをかけて止まったにも関わらず、男はピクリとも動かない。
何とも不気味な男に私はゆっくりと車を発進させて、男の横を通り過ぎた。
バックミラーで男の姿が米粒程の大きさになった頃に私は大きく息を吐いて友人に愚痴った。
「びっくりしたー。なんなの、あの人!」
「ビックリしたね。幽霊かと思った」
「前に幽霊が視えるって言ってたけど、さっきの人は幽霊じゃないの?」
友人の何気ない言葉に彼女には霊感がある事を思い出した私はそれとなく聞いてみる。
「ううん。あれは人間」
「そっか、あんな姿で突っ立っていたら危ないよね! 反対車線を運転してたらと思うと肝が冷える」
私は体をブルリと振るわせながら最悪の想像をした。
「そうだね。それに……」
友人の一言で私はここの夜道を通らないことを誓った。
「あの人、喪服を着てたよね? 手にも菊の花束を持っていたし……」
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます