エッチなのは夜だけではないお姉さん

「たか君、おはよう♪」


 朝、起きた場所は当然俺の部屋だ。

 そして寝ている俺を覗き込んでいたのが真白さんである。目を覚ました瞬間顔面に人の顔があるとビックリするのは当然だが、すぐに真白さんだと理解してしまうと驚きよりも愛おしさが勝ってしまう。


「おはようございます真白さん」


 そう言って朝の恒例行事……みたいなものだが、俺は目の前に居た真白さんを思いっきり抱きしめた。朝一番、基本的に真白さんと一緒に寝ているからこそ彼女はいつも傍に居てくれる。だからこそ、こうやって真白さんを抱きしめてその感触、そして香りに包まれて俺の一日は始まるのだ……ってなんて贅沢なんだろう。


「本当に朝のたか君は可愛いわよね。いやいつもなんだけれど……うふふ~、もっと甘えていいのよ~♪」

「もっと甘えます」

「うんうん♪」


 スリスリ、ぷにぷに……うん、本当に幸せな感触だ。

 何度こう思ったか分からないけど本当に慣れたものだ。慣れたというよりは遠慮がなくなったって感じなのかな。

 ……あれ、そういえば酒の臭いが……まああれから数時間経ってるし当然か。


「たか君がお姉さんの匂いを嗅いでるのってなんかこう……いいわね!」


 普通なら匂いを嗅がれるのは嫌だと思うんだけど、まあ普通ならいいのかもしれない。俺も汗掻いたりした時とかは嫌だけど、真白さんはそういうの気にせずに引っ付いてくるからなぁ……オマケに舐めたりもしてくるし。


「真白さんから良い香りがするのはもちろんなんですけど、何というか凄く落ち着くんですよね」


 香りだけでなくこうして頭を撫でられる感覚……大人の女性が持つ包容力に安心するのか、それとも真白さんだからなのか……ま、後者だろうな。


「ねえたか君、もっとお姉さんを感じられる方法があるわよ?」

「え?」


 ニコニコと笑みを浮かべる真白さん、そんな彼女に促されて起き上がり見つめ合った。一体何をするのだろうか、そう思っていた俺の目の前で真白さんは昨日の夜と同じようにシャツを捲り上げた。


「それは昨日の――」

「たか君捕まえたわぁ!」


 全く昨日と同じように、俺は真白さんのシャツの中に頭をインする形になった。

 真っ暗な視界と柔らかい感触に襲われる中、当然のように真白さんに頭をロックされているので抜け出せない。しかも昨日とは違って既に酒の臭いが消えていることもあり、鼻に届くのは真白さんの甘い香りだけだ。


「よいしょっと」

「っ!?」


 頭の位置に手を添えられ、そのまま体を倒した真白さんに続くように俺も倒れる。胸の部分がクッションの役割を果たすことで痛みは全くなく、むしろその柔らかさを再認識したくらいだ。

 休日の朝、愛する恋人の顔を第一に視界に入れた後、シャツの中に顔を入れられておっぱいサンドイッチと……何だろう、俺はそのうち死ぬんじゃないかってくらいにイチャイチャしている気がする。


「……これ、クセになるわね」

「……………」


 真白さん、俺もちょっと思ったけど絶対に言いません。

 それからしばらくそんな状態が続き、満足した真白さんに開放をされた。


「昨日もされましたけどねそれ」

「え? 何のこと?」


 なるほど、昨日外に出掛けたことはともかくとして母さんと酒を飲んでいる時のことは覚えてなさそうだ。

 首を傾げて不思議そうにする真白さんに苦笑すると同時に戒めにしようと思う。これから先俺が成人して酒を飲めるようになった時、きっと真白さんとも一緒に酒を飲む機会は必ずあるはずだ。


「真白さんはいずれ俺とも酒を飲んでみたいとか思ってます?」

「もちろんよ。でも、あまり無理はしない範囲でね? たか君、あまり飲み過ぎて酔っぱらうと大変なんだから」

「そうですね」


 俺はきっと物凄く遠い目をしているんだろうなと思う。

 そうですね、飲み過ぎて酔っぱらうと大変だしこれは俺がしっかりしないといけないみたいですよ真白さん。


「??」

「可愛いなおい」

「えへへ♪」


 ……本当に可愛いなおい。

 さて、今日は土曜日だが父さんは残念なことに外せない用事があるらしく早くから出掛けるはずだ。母さんも用があったらしいが、俺と真白さんが来たことでその用はどうしてかなくなったらしい。

 リビングに向かうとやはり父さんの姿はなく、母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよう隆久、真白ちゃん」

「おはようございますお母さま♪」


 机に並んだ朝食を囲むように、俺たちは椅子に座って手を合わせた。

 三人で雑談をしながら箸を進めていくのだが、俺は昨日知ったことを母さんに報告というわけではないが伝えることにした。


「母さん、俺と真白さん過去に会ってたんだね?」

「あら、思い出したの?」

「いや……写真を見てさ。それで真白さんとも話した」

「そういうことね」


 クスクスと笑みを浮かべた母さんは言葉を続けた。


「今でも思い出せるわ。あの時、真白ちゃんが凄く辛そうな顔でしばらく隆久に会うことは出来ない、だから責任を取れる年齢になったら挨拶に来ますって言ってたの」

「そうでしたねぇ。私ったら本当にたか君を襲っちゃう寸前でしたので」

「あらあら、襲ってくれてもそれはそれで良いと思うけれど♪」


 母さん、お願いだからそういうことを本人の前で言わないでくれ。

 でもそうか、昨日の帰りにそんな感じの話は聞いていたけど……幼い頃に既成事実を作られていたなんて恐ろしいことがもしかしたらあったのかも。


「フィリアから相談されたこともあったものね。最近、隆久を見る真白ちゃんの目が危ないんだけど大丈夫かしらって」

「……その、実はお母さんから面と向かって言われました。アンタ、まだ幼いたか君に手を出したら承知しないわよって。いつもはふわふわしてるお母さんですけどあの時は本当に怖かったです」


 ほう、あのフィリアさんが……。

 真白さんが言うようにフィリアさんはおっとりとした人で怒った姿は全く想像出来ない。そんなあの人が怖かったか、若干どんなだったか見てみたい気持ちもある。


「ねえ真白ちゃん、これから夏が到来するわけだけど……」


 そこで母さんは俺を見た、なんで?

 そして真白さんも俺を見た、ニヤリと笑った……なんで?


「今日夕方に帰るのよね? 水着とか買いに行かない?」

「いいですね! もちろんたか君も一緒に」

「……………」


 水着の言葉が出た時点で何となく察していたよ。

 そんなわけで俺と真白さん、母さんで街に出掛けることが決定した。母さんが居るんだから真白さんの水着選びは母さんに……なんてことは出来ないんだろうなぁ。まあ俺としても真白さんの水着姿は気になる……いや、正直に言おう――凄く見たい。


「たか君、口元がニヤニヤしてるわよ?」

「え!?」

「嘘よ~♪」


 ぐぅ……顔が熱いぜ全く。

 朝食を済ませ、簡単に準備を済ませて俺たちは三人で街に繰り出した。目的地はこの辺りだと一番利用客が多い百貨店だ。基本的にここで色んなモノが揃うが、それは水着も例外ではない。


「来たわね」

「来ましたね」

「来てしまった……」


 女性の水着売り場、見事に女性のモノしか存在しない……当たり前のことだけど。

 俺と真白さんのようにカップルと思わしき人たちは見えるが少数で、やっぱり男性の姿はここではあまり見られない。……ちょっと離れるのとかありかな。


「ダメよたか君」

「ダメよ隆久」


 ガシっと、それぞれ両手を掴まれてしまった。

 そのせいもあって逃げるつもりはなかったが少しでも離れることは出来ず、これがいいのではとシンプルな白色のビキニを手に取って真白さんは試着室へ。


「本当に真白ちゃん胸大きいわよね……何を食べたらあんなになるのかしら」

「……さあ」

「フィリアもあれ以上だし……世の中不公平だわ本当に!」


 母さん、気にしてたのは知ってたけどもう色々遅いって。

 それからしばらく母さんと話をしていると、真白さんがカーテンから手を出して手招きしてきた。俺と母さんが一緒に傍に近寄ると、カーテンを少し開けて真白さんが姿を現わした。


「あら~いいじゃない!」

「……おぉ」


 シミ一つない綺麗な体、大きな胸を支える純白のビキニ……よく支えられるなと感心するがそんなことはどうでもいいんだ。真白さんの水着姿は初めて見たわけではないけれど、こうズキュンと何かを撃ち抜かれたような心地だ。

 俺の様子から真白さんはうんうんと頷き、今着ているその水着を買うことを決めたらしい。


「清潔感を感じさせる白い色、でも真白ちゃんが着るとエッチね」

「たか君にエッチだって思われるなら全然いいですよ♪」


 エッチですねとても。

 その場でくるりと回り、可愛くよいしょっと小さくジャンプをすると揺れて零れそうになる。手を当てて固定してあげないと、そう思わせるほどに真白さんのそれはぷるんぷるんと揺れていた。


「……あれ」


 なんか鼻のてっぺんが熱い。

 そう思っていると母さんにティッシュを渡された。


「鼻血出ているわよ?」

「……おっとそれは失敬」


 いや、こんなん誰だってこうなるでしょうよ。

 母さんからティッシュを受け取って花に手を当てる。そんな俺を真白さんが本当に満足そうに見つめていた。


「効果は抜群ね♪」


 たぶん急所も入ってますよこれは。

 どこぞのポケット魔物みたいな解説を入れながら、俺はそう思うのだった。

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