歩いてランチ

あたりが明るくなってくる。

僕のとなりにはいつの間にか人が立っていた。

ダークなスーツを着て、髪を短めにカットしたメガネの女の子。

「だれ」無意識に僕の口から声が漏れる。

「覚えてないんですか」

女の子はにっこり笑って答える。

「お腹空いてませんか」

僕はカバンからさっきのパンを取り出そうとしてやめた。

「食べませんよ」

「もっと美味しいもの食べません」

女の子が僕を見透かしたようにそう言う。

「この近くで美味しいランチやってるんですよ」

この近くって、ここは住宅街じゃない。

まあ最近はそう言うお店が流行りみたいだけれど。

隠れ家的な。

「車はどこですか」女の子が僕にきく。

車って、この近くじゃないの。

それにこれは会社の車だから、部外者を乗せるのまずいんだよね。

「あらまあ、彼女に向かって」

「そういうことにすればいいんです」

よけいだめだよ。プライベートに使うことになる。

「それじゃ歩きましょうか」

それでいいんだよ。

最初はそう思ったのだけれど、

歩いても歩いても目的の場所に着かない。

いくら隠れ家的な店だって、もうまわりに家はなくなっている。

気がつくと両側が山を切り取ったような壁になっている道を歩いていた。

この先もずっと同じ風景がつづくのだろうか。

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