第181話 さすがの俺でも

 ……ったく。

 真面目なことも考えさせてくんねぇのかよ。

 これじゃ考え込んでた俺が馬鹿みたいじゃねぇか。


「……そんで?

 あの偉そうにふんぞり返った大臣が言うには、この辺りなんだろ?

 まさか"ベルフェゴール"の冒険者ギルドにレフティが手紙を先回りで用意してたなんて、思いもしなかったぜ」

「"ベーヴェルシュタム"です。

 実際には団長の手紙が前もって郵送されただけですよ。

 恐らくはこの周辺の町すべてに送られている可能性が高いですね」


 ……なんだよそれ、新手のストーカーかよ……。

 他国のギルドへ手当り次第に手紙送りつけるとか、綺麗な顔して随分とおっかねぇことするんだな、レフティは……。


「……すごく失礼なことを考えてる顔……。

 レフティ様は大臣からの"勇者帰還命令"をアイナ宛に出しただけ。

 すべては大臣が仕組んだことで、レフティ様に非はない」


 あのおっさんが悪の黒幕みたいな言い方するんだな……。

 お陰で来た道を永遠と戻らされることになったわけだから、確かに悪党だと言われても俺ぁ納得するがな!


「レフティの指示じゃねぇなら、ブッチしていいだろ」

「……"ぶっち"って、なに?

 カナタの国で使われてる言葉?」

「こいつは俺の愛読書によく出てくる言葉でよ、崇高な意味があんだよ!」


 弱者を助け暴力に屈しない、本物のヒーローマンガだ!

 主人公の孤高さが光る生きざまがカッケーんだよな!


 他校の不良だろうが族だろうが、何十人いてもたったひとりでぶっ潰しちまうんだからな!

 俺もあんなオトコになりてぇもんだぜ!


「――そんでな!

 鉄パイプだの角材だの持った族どもを、こぶしひとつで潰しちまうんだ!」

「……で、"ぶっち"って、どういう意味なの?」

「ブッチってのはドタキャン……も、分からねぇか……。

 ようするに"今回の依頼、適当に無視しちまおうぜ"って意味だよ!」


 あいつ、上から目線で命令するだけのムカつくやつだからな。

 いくら俺がガキだろうと、勇者に対する頼み方ってもんがあんだろうが!


『"闇の波動"を検知した!

 すぐさま問題の場所へ向かい、勇者の力でそれを打破せよ!』


 偉っそうに上から物を言いやがって、あのおっさん!

 あんな言い方されてムカつかねぇのは鳴宮だけだ!


 いや、あいつならどんなこと言われても涼しい顔をしてそうだが……。


 だいたいそんなこと手紙でいいじゃねぇか!

 わざわざ王都まで呼び戻しやがって!

 どんだけ離れてると思ってんだ!

 マジで何様だよ、あのヤロウ!


 相変わらず王は起きてんのか寝てんのかも分かんねぇ気持ちわりぃやつだし、ほんとあの国はあんなふたりに任せてて大丈夫なのかよ……。


 鳴宮は"王国側の動向に気を付けろ"って言ってたけど、何をどう気を付ければいいのかも分かんねぇしな。

 だったら、極力関わらねぇだけで十分だろ。



 ……とは思ったんだが、どうやら俺はまた何か踏んじまったらしい。

 ふたりには俺の言いたいことが伝わらなかったみたいだな。


「カナタ。

 約束を反故にするのは、とても良くないです。

 そんな子に育てた覚えはありませんよ」


 育てられた記憶もねぇよ。

 ……なんて言ったら、アイナの特別お説教コース確定だな。


「……いくらムカついても、約束は守らなくちゃダメ。

 それに王国側の依頼から突然連絡を絶ったら、他国だろうと使者を送ってくる。

 そうなると、結構面倒なことになりかねない」

「面倒なこと?」


 どうせ、"お願いします勇者様!"とか、懇願されるだけだろ?

 特にこれといって大きな問題事にはならねぇんじゃねぇの?


「……もしも使者が送られたら、そのまま旅に同行するかもしれない」


 重く低い声で言われても、俺ぁビビったりしないからな!

 それに、そいつは俺にとって都合いいぞ!


「美人の女騎士が勇者の仲間に増えるなら、それでいいじゃねぇか!」

「どうしてそこで女性騎士が出てくるのかは分かりたくもないですが、男性の騎士が送られる可能性のほうが高いことは考えもしないんですね、カナタは……」

「…………ぇ」


 ……いやいやいや、ねぇだろ普通!?

 俺は魔王を倒して世界を救う勇者だぞ!?


「……"勇者には美女が"、なんて顔をしてる……。

 本当にこの子はどこまで女性が好きなの……」

「"英雄色を好む"と聞きますが、与太話だと思ってましたよ……」

「……ぇ、ぁ……うぇ?

 いやいやいや、ねぇだろ!?

 そこは普通、男じゃなくて女だろ!?」


 ……なんだよその、馬鹿を見るような白い目は……。

 嫁ふたりからそんな目を向けられたら、さすがの俺でも泣くぞ!


「……きっと使者はムキムキマッチョの男騎士。

 汗臭くてむさ苦しい、大声でいびきもうるさいおっさん」

「そういった方は騎士団に多いですが、根は真面目で曲がったことが許せない熱血漢、実力も十分に備わってる凄腕の騎士ですから、きっと頼もしい仲間に――」

「――おら行くぞ、ふたりとも!

 がっつり調査して、ぐぅの音も出ねぇ報告書を大臣に送りつけてやろうぜ!」


 急に寒くなっちまったな。

 こんな日は温かいもんでも食って、さっさと寝るに限るぜ!

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